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月と花束

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スーリヤとの激しい戦いから一夜明け、クーたちは王都へと戻ってきた。
行きとは違い徒歩による帰路だったが、途中で兵を連れてきたカバジと合流できた。

魔人から戻ったハンナはずっと眠りについたままで、道中はエリンが背負っていたが、カバジと一緒にいた兵士へ引き渡した。その際、彼女は魔人との戦いで負傷し、目を覚まさないと説明した。

王都に到着すると、クーたちはそのまま城へと連れて行かれた。王様からの依頼について、報告するためだ。

「依頼の件と魔人について、話すのはクーの口からにしようか」

帰りの馬車の中で、マイはクーにそう提案した。理由はクーの立場を考えてのことだった。

「あたしの口から説明しちゃうと、クーに頼りない印象を与えちゃうでしょ? 国のお偉いさんも集まってるし、あの場ではクーが立派な勇者だって示しておいた方が都合がいいの」

「う~ん……やっぱりそうだよね……」

国王の依頼をこなし、魔人についても解決したのだから、力を認める材料としては十分だろう。だがクーはただでさえ見た目がひ弱で、初めての謁見の際には緊張しっぱなしだった。その印象を拭い、力を示すとなると、クーの口からしっかりと報告する必要があるというのは、最もだった。

「大丈夫。話す内容は概ね決まっているから。あとはそれを、クーの言葉にすればいいだけだから」

そう言ってマイは、クーに報告すべき内容と、その際効果的な話し方を説明した。
それに基づいて、クーは目の前で玉座に座ったウラヌスへ事の顛末を話した。彼はもちろんのこと、周囲でクーへ視線を送る各国の代表者もまた、静かにクーの報告に耳を傾けた。

「……い、以上になります」

クーが報告を終えると、ウラヌスは重々しく頷いた。

「なるほど。試練の洞窟については、現在視察をしている兵の報告も聞くとしよう」

クーたちが合流した兵士が、一足先にこの件について聞き、審議の確認の為に洞窟へ向かっていることは、クーも知っていた。クーは当然の対応とは思ったが、マイは「丸投げのくせに偉そうな」と小さくこぼしていた。

「して、魔人については、そなたが倒したという証拠はあるのか?」

「は、はい」

これもまた想定通りだ。クーが返事をすると、マイが一歩前に出て、背負っていた包みを開いてみせた。
包みの中に合ったのは、スーリヤが振るっていた杖と、束になった赤い髪の毛だった。

「こ、これは魔人が武器として扱っていた杖になります。これだけでは不足かと思いましたので、倒した魔人の一部である髪の毛も取ってきました」

クーの言葉に、周囲がどよめく。

「……本物か?」

「は、はい……」

ウラヌスの重々しい問いに、クーは萎縮しながらも、目線を逸らすことなく、はっきりと答えた。
ウラヌスは神妙な顔を浮かべたまま、小さく手を挙げる。室内の端で待機していたローブを身に纏った人物がマイに近づき、彼女の持つ証拠品を受け取った。

「今の品を、我が国の研究班に検証させる。結果が出るまで、そなたらはこの城で待機してもらう」

「わ、わかりました」

「うむ。ならば話は終わりだ」

ウラヌスは再び手を挙げると、今度は鎧の兵士がクーとマイに近づき、二人を部屋の外へと連れ出した。そのまま城の廊下を進み、別室へと案内された。

「しばらくこちらでお休みください。何かあれば、私が外におりますので、お声がけください」

扉が閉まり、部屋はクーとマイの二人だけになる。

「やれやれ。ほんっと疑い深いんだから」

「う~ん。偉い人の立場だったら、しょうがないと思うけど。それに、魔人を倒したっていうのは、うそなんだもん」

「嘘なもんか。実際「魔人」は、倒したんだから」

マイは部屋を見渡し、まずはベッドの方へと向かう。かぶせられた毛布を捲り、適当な種から蔓の塊を生み出すと、ベッドの上に乗せた。それに毛布を再びかぶせると、傍目からはマイくらいの子どもが籠っているように見えた。
マイは次に、扉のすぐ近くの壁の前に立つ。懐から取り出した石板を壁に貼り付け、研究所の入り口を作った。

「じゃ、少し外すけど、もしも呼び出されたら疲れて寝てるとでも言っておいて」

「う、うん」

クーの返事を聞き、マイは研究所へと向かった。
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