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君と一緒に

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マイの研究所を出ると、魔人スーリヤが空けた天井の穴から紅い月明かりが差し込んでいた。研究所内は常に太陽のような光が差し込んでいたため、外の時間は全く分からなかった。

「……」

忌々し気に紅い月を睨みつけると、ハンナは来た道を戻るように、洞窟の外へと向かう。道中、魔法生物に出くわすも、全く苦戦することなく、それらを葬り去っていった。
洞窟の外に出ると、次は森を抜けていく。やはり魔物に襲われたが、それも難なく退ける。
自分は決して実力不足ではない。剣を握るハンナの拳に、強い力がこもる。

「ちっ……」

背後から迫る気配を感じ取り、ハンナは剣を逆手に構えなおし、乱暴に振るう。その刃は魔物の口を見事に捉え、そのまま体を貫通した。
勢いよく剣を引き抜き、倒した魔物を見る。猿に似た、小柄な魔物だった。
戦場においては、視覚のみに頼らず、聴覚や嗅覚、時には直感をも駆使する。それは戦いに生きるものならば、須らく持ち合わせている技術である。ハンナもまた、兵士としてそれを備えていた。

(だが、あの女の言う事を信じるならば……)

ハンナは倒した魔物の死体に、再び刃を振るう。憎しみを込めるかのように、魔物の顔面に刃が突き刺さる。力強く放たれたそれは、八つ当たりだった。
エリンの察知能力は、ハンナのそれより遥かに凌駕していた。あの、ふざけた態度の女が、自分よりも高みにいる。ハンナはそれが気に食わなかった。

「盲人ならば、おとなしくしていろ……」

突き刺した刃を引き抜くと、そこから血が流れ出る。魔物の両眼は、完全に潰されている。ハンナは追い打ちをするように、さらに蹴りを放つ。それでもなお、ハンナの苛立ちは収まらなかった。
エリンが最後にこぼした、自分が決して父母の顔を見る事が出来ないという言葉。どちらも亡くなっているとも考えたが、それならば「会うことは出来ない」と表現するのが適切に思えた。

つまり、彼女には視力がない。にもかかわらず、あれほどの強さを持っている。

「くそっ!」

近くの樹に、拳をぶつける。樹は泰然自若としたまま、その拳を受け止め、身じろぎ一つしなかった。
五感の一つが機能せず、他でそれを補う。まして、それを実戦のレベルまで持っていくことが、いかに訓練が必要か。常人と同じ程度にいくにも相当であるのに、エリンのそれはもはや達人の域に達している。ハンナとさほど変わらない歳で、その領域に踏み込んでいる事実が、ハンナの自尊心を大きく傷つけていた。

「魔人の血だ。あれは魔人の血を引くが故だ……」

口にしながら、その言葉を聞いたエリンが飛ばしてきた殺気を思い出し、この場に彼女がいないというのに、ひどい寒気を覚えた。

「うあああああ!」

それが恐怖だと気が付くと、誤魔化すように叫び、再び適当な樹を殴りつけた。その音を聞きつけたのか、ハンナの周囲に魔物が集まってきた。
ちょうどいい。ハンナは気を晴らすべく、その魔物らをすべて相手取った。
自分は弱くない。他より優れた、強者である。それを誇示するかのような惨殺は、およそ人による行いには見えないほどだった。
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