54 / 73
魔人襲来
4-3
しおりを挟む
マイが研究室として使う「第一樹木」に隣接した「第二樹木」の中で検査してみたところ、クーの怪我のほとんどは外傷だけだった。触手の打撃を受けた腹や、溶かされた下半身に火傷があり、所々に打ちつけられた痣があったが、痕が残ることはなさそうだ。幸いな事に、骨も折れていなかった。
「ついでに着替えといて。……その、正直、人前に出せない恰好になってるし」
自作の湿布を貼りながら、マイが呟いた。
上は問題ないのだが、下の生地は溶かされ、破れており、ともすれば扇情的にも見える姿だった。指摘され、それに気が付いたクーは、羞恥で顔を赤く染めた。
「そういえばクー。あの魔法生物みたいな力って、もしかして」
「あ、うん。多分、マイが来る前に倒した、月の魔物の力だと思う」
着替えながら、クーは触手に攫われてからの出来事を、マイに話した。
「……紋章の力、大分使いこなせてきたんだ」
「うん。もう一度同じことを、って言われても、多分出来ると思う」
力を扱うにあたり、再現性がなければ使いこなせているとは言えない。それはジーニアスで、棒術を教わった時に、アカネから言われた言葉だ。その為、体に叩きこむべく、反復練習が重要だとも言われた。
だが紋章の力は、クー自身にも理由はわからないが、一度使えばコツを掴めるようだった。
「それにしたって、月の魔物を一人で相手するなんて」
「そ、それは仕方なかったっていうか……逃げたかったけど、足もうまく動かなくって……」
「ううん。責めてるわけじゃなくて。というか、そもそもあたしがクーが攫われるのを止められなかったのが原因だし」
「それだったら、そもそも私が攫われなければ……」
互いが自責に駆られ、堂々巡りになってきた。二人とも口をつぐみ、沈黙が二人の間に流れた。
静かに着替えを終えたクーは、ふと右手の紋章を見る。三日月が、少しだけ濃くなっているように見えた。
「……ねぇ、マイ」
ぐっと拳を握り、マイをじっと見つめる。
「私、もっと頑張るよ。マイが心配しなくてもいいように。私一人でも大丈夫だって、思えるように」
「そう……」
このどこか頼りない勇者に対して、マイはどうしても庇護欲が湧いてしまう。
だが子ども扱いが嫌いな自分が、彼女に対してそう振舞うのは、違う気がした。まして、クーはマイの子どもではない。マイにとって、大事な大事な友人だ。対等な関係を築きたいと、そう思っていた。
「……無理だけはしないでね。クーがボロボロになるの、あたしは見たくないから」
「うん。気を付けるよ」
優しく微笑んだクーは、これまでの情けない姿とは違っていた。心配かけまいと気丈に振舞う姿に、マイは自身の兄を思い出した。
「ついでに着替えといて。……その、正直、人前に出せない恰好になってるし」
自作の湿布を貼りながら、マイが呟いた。
上は問題ないのだが、下の生地は溶かされ、破れており、ともすれば扇情的にも見える姿だった。指摘され、それに気が付いたクーは、羞恥で顔を赤く染めた。
「そういえばクー。あの魔法生物みたいな力って、もしかして」
「あ、うん。多分、マイが来る前に倒した、月の魔物の力だと思う」
着替えながら、クーは触手に攫われてからの出来事を、マイに話した。
「……紋章の力、大分使いこなせてきたんだ」
「うん。もう一度同じことを、って言われても、多分出来ると思う」
力を扱うにあたり、再現性がなければ使いこなせているとは言えない。それはジーニアスで、棒術を教わった時に、アカネから言われた言葉だ。その為、体に叩きこむべく、反復練習が重要だとも言われた。
だが紋章の力は、クー自身にも理由はわからないが、一度使えばコツを掴めるようだった。
「それにしたって、月の魔物を一人で相手するなんて」
「そ、それは仕方なかったっていうか……逃げたかったけど、足もうまく動かなくって……」
「ううん。責めてるわけじゃなくて。というか、そもそもあたしがクーが攫われるのを止められなかったのが原因だし」
「それだったら、そもそも私が攫われなければ……」
互いが自責に駆られ、堂々巡りになってきた。二人とも口をつぐみ、沈黙が二人の間に流れた。
静かに着替えを終えたクーは、ふと右手の紋章を見る。三日月が、少しだけ濃くなっているように見えた。
「……ねぇ、マイ」
ぐっと拳を握り、マイをじっと見つめる。
「私、もっと頑張るよ。マイが心配しなくてもいいように。私一人でも大丈夫だって、思えるように」
「そう……」
このどこか頼りない勇者に対して、マイはどうしても庇護欲が湧いてしまう。
だが子ども扱いが嫌いな自分が、彼女に対してそう振舞うのは、違う気がした。まして、クーはマイの子どもではない。マイにとって、大事な大事な友人だ。対等な関係を築きたいと、そう思っていた。
「……無理だけはしないでね。クーがボロボロになるの、あたしは見たくないから」
「うん。気を付けるよ」
優しく微笑んだクーは、これまでの情けない姿とは違っていた。心配かけまいと気丈に振舞う姿に、マイは自身の兄を思い出した。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい
一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。
しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。
家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。
そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。
そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。
……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──
私の代わりが見つかったから契約破棄ですか……その代わりの人……私の勘が正しければ……結界詐欺師ですよ
Ryo-k
ファンタジー
「リリーナ! 貴様との契約を破棄する!」
結界魔術師リリーナにそう仰るのは、ライオネル・ウォルツ侯爵。
「彼女は結界魔術師1級を所持している。だから貴様はもう不要だ」
とシュナ・ファールと名乗る別の女性を部屋に呼んで宣言する。
リリーナは結界魔術師2級を所持している。
ライオネルの言葉が本当なら確かにすごいことだ。
……本当なら……ね。
※完結まで執筆済み
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる