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勇者の力
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「うわあああああああ!」
クーの叫びが洞窟内に響き渡る。最初は足首に絡まるのみだった触手は、今ではクーの下半身を覆っていた。
「ううっ」
どうにか触手から逃れようと、手に持った杖で叩くが、びくともしなかった。
やがてクーは、下半身に妙な温かみを覚えた。同時に、じりじりとした痛みも覚え始める。
「もしかして……」
マイの話を思い出す。魔法生物の粘液は、植物性と動物性のものを溶かして捕食する、と。
「いやあああああ!」
命の危機を覚え、クーは必死に杖を振るう。無駄だとわかっていても、ただ黙って食べられるわけにはいかなかった。
しかし触手は相変わらず杖による打撃を弾くのみで、クーを離す様子を一切見せない。クーは目に涙を浮かべながら、なおも杖を振り続ける。
(だめ……このままじゃ私……)
どうすれば。そう思った瞬間、クーは脳裏にジーニアスでの訓練を思い出した。
「いいですか、マーニ様。戦いにおいて重要な事は、とにかく落ち着くことです」
クーの師匠である、アカネの言葉だ。いかに肉体を鍛えようとも、戦闘能力が優れていようとも、冷静さを損なえば、その力は十全に発揮されないと、彼女は続けた。
その為に、棒術の訓練だけでなく、心の訓練も行った。だというのに、クーはこの状況になって、その成果が発揮できずにいた。
情けない。そう思いながらも、すぐに気を持ち直す。
反省は生き延びればいくらでも出来る。今はとにかく、この状況を脱しなければ。
下半身が痛みを覚え始める。皮膚が溶かされ始めたのかもしれない。クーはまた恐怖に襲われるが、首を横に振り、どうにか気を持ち直す。
(さっきまで相手してた魔物も、紋章の力で倒せたんだ。だったら)
クーが杖を握り直すと、魔物の群れを相手した時と同様、紋章の力で、先端に氷の刃を生み出す。
「やああああ!」
刃を、下半身を包む触手へと突き刺す。刃は触手の内側へ入り込むが、触手がクーから離れる様子はない。
それでもクーは、刃を突き刺したまま、さらに右手の力を強めた。
貫いた刃から、冷気が放たれる。クーを包む触手は、その冷気に当てられ、徐々に凍り付いていく。
やがて触手が完全に凍り付くと、破裂するかのように砕け散り、クーの体が宙へと放り出された。
「うっ」
うまく受け身が取れず、クーは背中から、地面に倒れるように落ちた。
「いてて……」
背中と足に痛みを覚えながら、クーは天を見上げる。そこは先程までいた場所よりも遥か高くに天井があり、向こうには光が差し込んでいるのが見えた。
「と、とりあえず、マイのところに、もどらないと……」
痛みに耐えながら、立ち上がろうとするが、どうも足に力が入らない。せめて腕の力で体を起こそうとした、その時だった。
クーの目の前に、先程の触手が伸びてきた。
「うわあ!」
咄嗟に手に持った杖を振るう。まだ氷の刃を形成していたおかげか、触手を切り落とす事に成功する。触手はそのままクーに顔に落ちてきたので、彼女はとっさに顔を背けた。
「ま、まさか……」
クーはすぐに体を起こし、首を回して背後を見た。
クーが振り向いた先には、触手の持ち主である、巨大な魔法生物が佇んでいた。
ドーム状の粘液に覆われ、内部にある核には三日月が刻まれている。それはこの魔物が、月の魔物であることを意味していた。
「……!」
魔物は核を覆う粘液を触手のように複数伸ばし、魔物は再びクーに襲い掛かってきた。
「わあああ!」
体を横に倒し、迫る触手を回避する。杖を両手で抱き込み、体の力だけで、そのまま固い地面を転がった。体に痛みが走るが、触手に襲われ、捕食される恐怖に比べれば、なんてことなかった。
触手は直線的な動きしか出来ないようで、伸ばした触手は一度魔物の元へと戻っていく。
だが十数に及ぶ触手を避けるのは至難の業だった。まして、今のクーは足が動かない。涙目を浮かべるクーは、触手をかいくぐりながら、どうにか落ち着こうとしていた。
(こ、このまま逃げ切るのは無理……やっぱり、杖で弾くしか……)
触手を見据え、杖を構えるが、やはりいざ目の前にまで触手が迫ると、失敗した時の事が頭を掠め、回避行動を取ってしまう。
「~~~~! ~~~~~~~!」
なかなか捕まらないクーに、魔物は苛立ちを覚えたのか、攻め方を変えてきた。
一度触手を全て引っ込めて、改めて触手を形成する。先程よりも太くなったそれらは、捕食ではなく、相手を痛めつけて弱らせる目的のものだった。
「‼」
触手を大きく振りかぶり、クーにめがけて振り下ろす。大ぶりの動き故、弱ったクーでも回避は容易だった。
地面に触手が叩きつけられると、わずかに地面が振動する。クーは驚き、呼吸と体の動きが、一瞬だけ止まった。
その隙を突くかのように、叩きつけられた触手は、横へ薙ぎ払った。
「え」
迫る触手を、クーは避ける事も、受け止める事も出来なかった。質量を持ったそれを直に受け、体に強い衝撃が走った。それだけでなく、触手が接する肌から、強い熱気を感じた。
「あああああああああああ‼」
衝撃と焼けるような痛みに、クーが悲鳴を上げる。触手はそのままクーを弾き飛ばし、クーの体は岩盤に叩きつけられた。
「ううっ……ああっ!」
呼吸が荒くなる。攻撃を受けた腹は赤く腫れあがり、目からは涙がボロボロと零れてきた。体中が痛く、もう動く気力も限界だった。
追い詰めたと確信したのか、魔物は触手を自身の元に集め、再び捕食用のそれに切り替えた。
触手はクーに向けて、一斉に狙いを定める。ドーム状の粘液の上部に集まり並んだそれは、どこか翼のようにも見えた。
(翼……)
クーは何気なく、右手の紋章に視線を落とす。この紋章が、以前取りこんだ力。氷を操る鳥の魔物。彼は巨大で、立派な翼を携えていた。
(紋章は、取りこんだ魔物の力を操る……)
そしてその力を、クーはまだ完全に活かせていないと、マイは言っていた。
クーが右手に力を込める。このままでは、ただ食べられるだけだ。ならば悪あがきだろうと、やれることはやらなければ。
(だって、マイならきっと、そうするから)
クーの気持ちに応えるように、紋章は光を放った。
魔物はいよいよと、全ての触手をクーに向けて放った。今までが前座であったかのように、その速度はこれまで以上のもので、即座にクーに迫っていった。
触手がクーに直撃する。そのはずだった。
だが触手が接触したのは、柔らかいクーの体ではなく、固い岩盤だった。
「?」
魔物が疑問を持ったかのように、放った触手をゆっくりと回収する。クーは一体どこに行ったのか。
答えは、その身を以って知ることになった。
「⁉」
核を守る粘液の頂点。そこに氷塊が突き刺さった。氷塊は巨大で、中央にある核をわずかに傷つけていた。
「! ! ! ! ! ! ! !」
命の源である核を傷つけられ、痛みか怒りか、魔物はその場で暴れ出した。突き刺さった氷塊を触手で破壊し、内部に入り込んだものは吐き出すように外へと飛んでいった。
その様子を、クーは天井に近い位置で見下ろしていた。息も絶え絶えになりながら、背中に青白い翼を携えて。
「こ、これが本当の、勇者の、力……」
自分でも驚いていた。翼はダークに由来したもののようで、背中から直接生えたような感覚はない。だがそれは確かに自分の生み出したもので、今まで感じた事がないながらも、意のままに操る事が出来る代物だった。
クーは魔物を見下ろしながら、杖を握り、集中する。ダークを集め、自分の目の前巨大な氷塊を生み出す。
先程生み出したものでは、核を貫くに至らなかった。ならば今度はさらに大きく、かつ鋭利なものへと仕立て上げる。
「これで、終わらせるんだ……」
体に疲労感を覚える。背中の羽も、わずかに色彩を薄くしていた。
満身創痍の中、博打のように発揮した力だ。到底、長く持つものではなかった。もしこれで仕留められなければ、クーは魔物に捕食されてしまうだろう。
故に、ありったけの力を、氷塊に込めた。氷塊は先ほどよりもさらに大きく、先端は鋭利なものとなっていた。
クーは消えかかる翼を操り、氷塊を上から叩きつけて、魔物めがけて突き落した。
氷塊と一緒に、クーも地面へ滑空する。魔物がクーの存在に気付くと同時に、触手を向けて放つ。しかしクーに近づいた触手は、彼女の背の翼が放つ冷気によって凍りつき、さらにその翼によって破壊された。
「くううううぅらああああぁえええええぇぇぇ‼」
クーの渾身の一撃が、魔物の頭頂部に命中する。そのまま重力に従うように、核へと向かっていき、破壊した。
「? ! ⁉ ⁉…………」
魔物はしばらく蠢きを見せ、やがて動きを止める。ゆっくりと形が崩れるように沈んでいき、破壊された核がむき出しになる。
核はチリチリと、細かい光を放ちながら、崩壊し始めた。放たれた光は、クーの方へと向かっていき、彼女の右手に集まっていった。
「はあ……はあ……」
右手に集まる光を、クーは地面に突っ伏しながら横目に見る。完全に体力切れだ。背中にあった翼は消え去っており、クー自身も、指先一つすら動かせない状態だ。
光が全てクーの右手に収まると、この空間にはクーのみが残されることになった。
これ幸いと、クーは安堵の息を吐く。少し休んで、体力を回復させてから、マイの所に戻ろう。月の魔物を倒して、その力も吸収できたようだと、報告しよう。そんな事を考えていた。
だがそんなクーの考えを打ち壊すかのように、洞窟内が大きく震えだした。
「な、なに……⁉」
動かない体では、周囲を見渡すことも叶わない。何が起きているのかわからないクーは、ただじっと事の行く末を見守るしかなかった。
やがて、揺れが収まる。周囲に変わった様子はない。ただの地震だったのだろうか。
そう思った矢先、再び揺れが起きる。先程よりも強く、今度は頭上から轟音が響いた。
クーの叫びが洞窟内に響き渡る。最初は足首に絡まるのみだった触手は、今ではクーの下半身を覆っていた。
「ううっ」
どうにか触手から逃れようと、手に持った杖で叩くが、びくともしなかった。
やがてクーは、下半身に妙な温かみを覚えた。同時に、じりじりとした痛みも覚え始める。
「もしかして……」
マイの話を思い出す。魔法生物の粘液は、植物性と動物性のものを溶かして捕食する、と。
「いやあああああ!」
命の危機を覚え、クーは必死に杖を振るう。無駄だとわかっていても、ただ黙って食べられるわけにはいかなかった。
しかし触手は相変わらず杖による打撃を弾くのみで、クーを離す様子を一切見せない。クーは目に涙を浮かべながら、なおも杖を振り続ける。
(だめ……このままじゃ私……)
どうすれば。そう思った瞬間、クーは脳裏にジーニアスでの訓練を思い出した。
「いいですか、マーニ様。戦いにおいて重要な事は、とにかく落ち着くことです」
クーの師匠である、アカネの言葉だ。いかに肉体を鍛えようとも、戦闘能力が優れていようとも、冷静さを損なえば、その力は十全に発揮されないと、彼女は続けた。
その為に、棒術の訓練だけでなく、心の訓練も行った。だというのに、クーはこの状況になって、その成果が発揮できずにいた。
情けない。そう思いながらも、すぐに気を持ち直す。
反省は生き延びればいくらでも出来る。今はとにかく、この状況を脱しなければ。
下半身が痛みを覚え始める。皮膚が溶かされ始めたのかもしれない。クーはまた恐怖に襲われるが、首を横に振り、どうにか気を持ち直す。
(さっきまで相手してた魔物も、紋章の力で倒せたんだ。だったら)
クーが杖を握り直すと、魔物の群れを相手した時と同様、紋章の力で、先端に氷の刃を生み出す。
「やああああ!」
刃を、下半身を包む触手へと突き刺す。刃は触手の内側へ入り込むが、触手がクーから離れる様子はない。
それでもクーは、刃を突き刺したまま、さらに右手の力を強めた。
貫いた刃から、冷気が放たれる。クーを包む触手は、その冷気に当てられ、徐々に凍り付いていく。
やがて触手が完全に凍り付くと、破裂するかのように砕け散り、クーの体が宙へと放り出された。
「うっ」
うまく受け身が取れず、クーは背中から、地面に倒れるように落ちた。
「いてて……」
背中と足に痛みを覚えながら、クーは天を見上げる。そこは先程までいた場所よりも遥か高くに天井があり、向こうには光が差し込んでいるのが見えた。
「と、とりあえず、マイのところに、もどらないと……」
痛みに耐えながら、立ち上がろうとするが、どうも足に力が入らない。せめて腕の力で体を起こそうとした、その時だった。
クーの目の前に、先程の触手が伸びてきた。
「うわあ!」
咄嗟に手に持った杖を振るう。まだ氷の刃を形成していたおかげか、触手を切り落とす事に成功する。触手はそのままクーに顔に落ちてきたので、彼女はとっさに顔を背けた。
「ま、まさか……」
クーはすぐに体を起こし、首を回して背後を見た。
クーが振り向いた先には、触手の持ち主である、巨大な魔法生物が佇んでいた。
ドーム状の粘液に覆われ、内部にある核には三日月が刻まれている。それはこの魔物が、月の魔物であることを意味していた。
「……!」
魔物は核を覆う粘液を触手のように複数伸ばし、魔物は再びクーに襲い掛かってきた。
「わあああ!」
体を横に倒し、迫る触手を回避する。杖を両手で抱き込み、体の力だけで、そのまま固い地面を転がった。体に痛みが走るが、触手に襲われ、捕食される恐怖に比べれば、なんてことなかった。
触手は直線的な動きしか出来ないようで、伸ばした触手は一度魔物の元へと戻っていく。
だが十数に及ぶ触手を避けるのは至難の業だった。まして、今のクーは足が動かない。涙目を浮かべるクーは、触手をかいくぐりながら、どうにか落ち着こうとしていた。
(こ、このまま逃げ切るのは無理……やっぱり、杖で弾くしか……)
触手を見据え、杖を構えるが、やはりいざ目の前にまで触手が迫ると、失敗した時の事が頭を掠め、回避行動を取ってしまう。
「~~~~! ~~~~~~~!」
なかなか捕まらないクーに、魔物は苛立ちを覚えたのか、攻め方を変えてきた。
一度触手を全て引っ込めて、改めて触手を形成する。先程よりも太くなったそれらは、捕食ではなく、相手を痛めつけて弱らせる目的のものだった。
「‼」
触手を大きく振りかぶり、クーにめがけて振り下ろす。大ぶりの動き故、弱ったクーでも回避は容易だった。
地面に触手が叩きつけられると、わずかに地面が振動する。クーは驚き、呼吸と体の動きが、一瞬だけ止まった。
その隙を突くかのように、叩きつけられた触手は、横へ薙ぎ払った。
「え」
迫る触手を、クーは避ける事も、受け止める事も出来なかった。質量を持ったそれを直に受け、体に強い衝撃が走った。それだけでなく、触手が接する肌から、強い熱気を感じた。
「あああああああああああ‼」
衝撃と焼けるような痛みに、クーが悲鳴を上げる。触手はそのままクーを弾き飛ばし、クーの体は岩盤に叩きつけられた。
「ううっ……ああっ!」
呼吸が荒くなる。攻撃を受けた腹は赤く腫れあがり、目からは涙がボロボロと零れてきた。体中が痛く、もう動く気力も限界だった。
追い詰めたと確信したのか、魔物は触手を自身の元に集め、再び捕食用のそれに切り替えた。
触手はクーに向けて、一斉に狙いを定める。ドーム状の粘液の上部に集まり並んだそれは、どこか翼のようにも見えた。
(翼……)
クーは何気なく、右手の紋章に視線を落とす。この紋章が、以前取りこんだ力。氷を操る鳥の魔物。彼は巨大で、立派な翼を携えていた。
(紋章は、取りこんだ魔物の力を操る……)
そしてその力を、クーはまだ完全に活かせていないと、マイは言っていた。
クーが右手に力を込める。このままでは、ただ食べられるだけだ。ならば悪あがきだろうと、やれることはやらなければ。
(だって、マイならきっと、そうするから)
クーの気持ちに応えるように、紋章は光を放った。
魔物はいよいよと、全ての触手をクーに向けて放った。今までが前座であったかのように、その速度はこれまで以上のもので、即座にクーに迫っていった。
触手がクーに直撃する。そのはずだった。
だが触手が接触したのは、柔らかいクーの体ではなく、固い岩盤だった。
「?」
魔物が疑問を持ったかのように、放った触手をゆっくりと回収する。クーは一体どこに行ったのか。
答えは、その身を以って知ることになった。
「⁉」
核を守る粘液の頂点。そこに氷塊が突き刺さった。氷塊は巨大で、中央にある核をわずかに傷つけていた。
「! ! ! ! ! ! ! !」
命の源である核を傷つけられ、痛みか怒りか、魔物はその場で暴れ出した。突き刺さった氷塊を触手で破壊し、内部に入り込んだものは吐き出すように外へと飛んでいった。
その様子を、クーは天井に近い位置で見下ろしていた。息も絶え絶えになりながら、背中に青白い翼を携えて。
「こ、これが本当の、勇者の、力……」
自分でも驚いていた。翼はダークに由来したもののようで、背中から直接生えたような感覚はない。だがそれは確かに自分の生み出したもので、今まで感じた事がないながらも、意のままに操る事が出来る代物だった。
クーは魔物を見下ろしながら、杖を握り、集中する。ダークを集め、自分の目の前巨大な氷塊を生み出す。
先程生み出したものでは、核を貫くに至らなかった。ならば今度はさらに大きく、かつ鋭利なものへと仕立て上げる。
「これで、終わらせるんだ……」
体に疲労感を覚える。背中の羽も、わずかに色彩を薄くしていた。
満身創痍の中、博打のように発揮した力だ。到底、長く持つものではなかった。もしこれで仕留められなければ、クーは魔物に捕食されてしまうだろう。
故に、ありったけの力を、氷塊に込めた。氷塊は先ほどよりもさらに大きく、先端は鋭利なものとなっていた。
クーは消えかかる翼を操り、氷塊を上から叩きつけて、魔物めがけて突き落した。
氷塊と一緒に、クーも地面へ滑空する。魔物がクーの存在に気付くと同時に、触手を向けて放つ。しかしクーに近づいた触手は、彼女の背の翼が放つ冷気によって凍りつき、さらにその翼によって破壊された。
「くううううぅらああああぁえええええぇぇぇ‼」
クーの渾身の一撃が、魔物の頭頂部に命中する。そのまま重力に従うように、核へと向かっていき、破壊した。
「? ! ⁉ ⁉…………」
魔物はしばらく蠢きを見せ、やがて動きを止める。ゆっくりと形が崩れるように沈んでいき、破壊された核がむき出しになる。
核はチリチリと、細かい光を放ちながら、崩壊し始めた。放たれた光は、クーの方へと向かっていき、彼女の右手に集まっていった。
「はあ……はあ……」
右手に集まる光を、クーは地面に突っ伏しながら横目に見る。完全に体力切れだ。背中にあった翼は消え去っており、クー自身も、指先一つすら動かせない状態だ。
光が全てクーの右手に収まると、この空間にはクーのみが残されることになった。
これ幸いと、クーは安堵の息を吐く。少し休んで、体力を回復させてから、マイの所に戻ろう。月の魔物を倒して、その力も吸収できたようだと、報告しよう。そんな事を考えていた。
だがそんなクーの考えを打ち壊すかのように、洞窟内が大きく震えだした。
「な、なに……⁉」
動かない体では、周囲を見渡すことも叶わない。何が起きているのかわからないクーは、ただじっと事の行く末を見守るしかなかった。
やがて、揺れが収まる。周囲に変わった様子はない。ただの地震だったのだろうか。
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