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勇者の力

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森にも魔物は存在しているため、出くわしては戦闘になった。

「や、やあっ!」

杖を真っすぐ突き出し、現れた大きなリスのような魔物に一撃をお見舞いする。魔物は悲鳴に似た叫びをあげると、そのまま倒れて動かなくなった。

「うん。いい調子だね」

マイの方も銃をおろし、クーに向き合う。彼女が相手していたのは、蜘蛛に似た魔物で、胴体に小さな穴が空けられて仰向けに倒れていた。

「あ、ありがと……」

褒められたにもかかわらず、クーの心境は微妙なものだった。
その様子を、ハンナが値踏みするように眺めていた。

(体捌きは悪くない。だがこれが勇者とは……)

確かに昨日、クーは勇者の力を使いこなせていないと言っていた。だがそれにしても、世界的脅威である魔王を退治するにしては、彼女はあまりに心もとなかった。

茂みの奥から、四つ足の魔物がハンナに襲い掛かる。気配に気づいたハンナは、視線を向けると同時に剣を振るう。魔物は怯んだように身をひるがえすと、ハンナは追撃に入る。
一撃、二撃、三撃目にして、魔物は息を引き取った。ハンナがつまらなそうに剣をしまい、クーたちに視線を戻す。

「すごい……」

「このくらい当然だ」

クーの感想に、ハンナがそっけなく返した。

「ねえ。いくつか聞きたいんだけど」

銃をしまったマイが、ハンナに近づいて尋ねた。

「まずひとつ。ここの魔物って、前より強くなってる?」

「そうだな。手ごたえとしては、それほど変わった様子はないな」

「ふうん……」

ハンナの答えを聞き、マイは今しがた彼女が倒した魔物に近づく。まじまじと観察をすると、魔物の死体に種を植えた。
種はゆっくりと生長し、赤い花と黄色い花を咲かせた。

「もう一つ。ここから例の洞窟ってもう近いの?」

「もうすぐだ。なんだ。もう疲れたのか?」

「そうじゃない。洞窟の異常がこの森にも表れているみたいだから、確認したの」

「何?」

ハンナが聞き返すと、マイが「これ見て」と魔物に咲いた花を指した。

「地のダークだけじゃなくて、火のダークが異様に強く出てる。地図で見た感じ、この辺りに火山は無いのに、これだけの火のダークが出るのは異常だよ」

他にも疑問はある。マイはハンナに視線を戻すと、さらに訊ねた。

「ここに来てから何匹か魔物を相手したけど、戦った魔物の種類に変化はあった?」

「……いや。変わっていないと思うが」

「ってことは、生態系に変化はないって事か。魔物はダークの影響を受けやすいっていうし、多分洞窟に火のダークを活性化させる異常が起きているって事かもね」

マイの分析を傍から聞いていたクーは、「すごいなぁ」と改めて彼女に感心させられた。

「ま、洞窟に行かないと結論は出せないね。それじゃあ案内よろしく」

マイがハンナに言うと、ハンナは黙って彼女に背を向けて、先導を始めた。
その時、舌打ちしていたのを二人は聞き逃さなかったが、言及するのは控えておいた。
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