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国王からの依頼
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部屋から追い出され、大扉が閉められる。そのままの流れで、城の外まで連れ出されてしまった。
「えっと、ど、どういうこと?」
「ものの見事に面倒事を押し付けられたね」
返された鞄を抱え直しながら、マイはわざとらしく、大きなため息を吐いた。
「多分クーが勇者にふさわしいのかを見極めたいってことでしょ。だからって国内の困りごとを押し付けるとか、国王としてどうなのさ」
「貴様、我らが国王を侮辱するか」
不意に声を掛けられる。クーたちを外へと連れ出した兵士からだった。
「国王も申していたが、今回の任務は紅い月に関する事例だ。光の勇者が解決するのは、筋としては通っているだろう?」
「勇者の目的は、魔王を倒して月を元に戻すこと。紅い月に付随する問題は各国で対処するのが道理でしょ。それとも、この国の兵士は魔物退治もろくに出来ないへなちょこばかりなの?」
「貴様……!」
兵士が怒りの形相を浮かべ、剣に手を掛ける。その行動をみて、マイは鼻で笑った。
「ちょっと煽られた程度で剣に手を掛けるのね。やっぱりこの国の兵士は碌でもないね」
「マ、マイ。言い過ぎだよ」
クーがマイを窘めると、兵士に向かい合って「ごめんなさい」と、彼女に代わって頭を下げた。
「クー。謝る必要なんてないよ。こいつ、図星突かれて言い返せないだけなんだから」
「ちょっとマイ。静かにしてて」
珍しく怒った口調のクーに、マイはさすがに口を閉ざした。兵士の方も、落ち着きを取り戻したのか剣から手を離した。
「こちらこそ失礼した。子どもの言う事に、いちいち腹を立てるものでもないな」
「はあ?」
「マイっ」
また食って掛かりそうだったマイを、クーが制止する。
「えっと。これからなんですけど、王様の言う通り、洞窟の魔物をどうにかしなきゃいけないんですよね?」
「その通りだ。我々としては勇者の力で魔物の全滅を考えている」
そして、と兵士はさらに続けた。
「本任務に当たり、お前たちの目付け役として私が同行する。ハンナ・ウルズだ」
「は、はい。よろしくお願いします」
クーは改めて頭を下げる。マイは不満そうな表情を浮かべながら、浅く頭を下げた。
「洞窟の調査に関してだが、日取りは特に決めていない。だが依頼を終えるまで、他の町に向かう事だけは禁ずる。何か道具が必要なら、都内で済ませるように」
「わかりました」
クーが返事をすると、ハンナは二人から距離を取った。
「……どうしよう」
「どうするも何も、やるしかないでしょ」
そう言ってマイは少し離れた場所にいるハンナをにらんだ。
「目付け役だかなんだか知らないけど、あいつもついてくるみたいだし、とりあえず準備は万全に済ませないとね」
「そ、そうだね。でも準備って、何を用意すれば……」
町の外に出た事もなかったクーには見当もつかなかった。本や演劇をもとにした想像の範囲では、ランタンのような明かりくらしか思いつかなかった。
「クー。ちょっとそれ貸して」
クーが受け取った地図を指すと、彼女はそれをマイに手渡す。受け取ったマイは早速広げ、洞窟の場所を確認する。山脈に面した森の中にあるようだが、地図上では他に読み取れることはなかった。
「ねえあんた。この洞窟ってどういう所なの?」
「もともとは我々シエロセル兵が訓練にも使っていた場所だ。魔法生物が多く存在している」
魔法生物とはダークそのものが変質し、魔物の姿を取った生命体を指す。一般の魔物と違い、決まった形を持っておらず、液体や気体のような流動的な肉体を特徴としている。そしてその全てが「コア」と呼ばれる物を持っており、これが彼らの弱点でもあった。
「魔法生物相手なら大したものはいらないか。あたしの研究所にあるもので十分。クー。今日はもう王都の観光でもしよ」
「え。いいの?」
「いいの。だってずっと馬車に揺られて、魔物とも戦ったし疲れたでしょ? 向こうもいつでもいいって言ってるし、今日はゆっくり羽を伸ばそ」
「待て」
マイの発言にハンナが待ったをかける。
「たしかに期限を設けてはいないが、遊びに時間を割くのを看過できない。第一、先も言った通り、任務達成までお前たちには行動制限が掛けられている。お前の言う研究所とやらには行けないと思うが」
「はぁ……さてはあんた、あんまり新聞とか読まないタイプだね」
ため息を吐いたマイが、ハンナに向かい合った。
「改めて自己紹介をしようか。あたしはマイ・アスカ。今は魔物と光の勇者の研究を専攻してるけど、以前には空間編成術の研究もしてたの。ミハイル空間術式を応用した亜空間構築術式で作ったあたしの研究所は、現実の場所なんてものに縛られない」
そう言ってマイは、城を出る時に返された鞄の中から、一つの石板を取り出した。そして道脇にあった、他よりも幹が太い木に向かう。その幹に石板を押し付けると、石板に手を当て、ダークを流し込んだ。
マイのダークに反応し、石板が大きくなる。およそ人ひとりが重なる程度の大きさになると、マイは再びハンナを見た。
「これがあたしの研究所の入り口。開けっ広げになっちゃうから、普段はもっとひと気のない所で開くんだけどね」
そう言ってマイは大きくなった石板に体を重ねる。石板は質量をもっていないように、彼女の体を飲み込んだ。その光景には、ハンナだけではなく、クーも驚いた。
「あそこってこんな風になってたんだ……」
クーが初めて研究所に訪れた時は、気絶したところをマイに運ばれてだった。ジーニアスからサンスに戻る時もここを経由したが、出入口は虚の中で、よく見えなかった。
「あの、一緒に行きませんか? 多分マイもそのつもりで用意したと思うので」
「……そうだな」
最初にクーが石板の中へと入る。ハンナは気難しい顔を浮かべながら、その後に続いた。
「えっと、ど、どういうこと?」
「ものの見事に面倒事を押し付けられたね」
返された鞄を抱え直しながら、マイはわざとらしく、大きなため息を吐いた。
「多分クーが勇者にふさわしいのかを見極めたいってことでしょ。だからって国内の困りごとを押し付けるとか、国王としてどうなのさ」
「貴様、我らが国王を侮辱するか」
不意に声を掛けられる。クーたちを外へと連れ出した兵士からだった。
「国王も申していたが、今回の任務は紅い月に関する事例だ。光の勇者が解決するのは、筋としては通っているだろう?」
「勇者の目的は、魔王を倒して月を元に戻すこと。紅い月に付随する問題は各国で対処するのが道理でしょ。それとも、この国の兵士は魔物退治もろくに出来ないへなちょこばかりなの?」
「貴様……!」
兵士が怒りの形相を浮かべ、剣に手を掛ける。その行動をみて、マイは鼻で笑った。
「ちょっと煽られた程度で剣に手を掛けるのね。やっぱりこの国の兵士は碌でもないね」
「マ、マイ。言い過ぎだよ」
クーがマイを窘めると、兵士に向かい合って「ごめんなさい」と、彼女に代わって頭を下げた。
「クー。謝る必要なんてないよ。こいつ、図星突かれて言い返せないだけなんだから」
「ちょっとマイ。静かにしてて」
珍しく怒った口調のクーに、マイはさすがに口を閉ざした。兵士の方も、落ち着きを取り戻したのか剣から手を離した。
「こちらこそ失礼した。子どもの言う事に、いちいち腹を立てるものでもないな」
「はあ?」
「マイっ」
また食って掛かりそうだったマイを、クーが制止する。
「えっと。これからなんですけど、王様の言う通り、洞窟の魔物をどうにかしなきゃいけないんですよね?」
「その通りだ。我々としては勇者の力で魔物の全滅を考えている」
そして、と兵士はさらに続けた。
「本任務に当たり、お前たちの目付け役として私が同行する。ハンナ・ウルズだ」
「は、はい。よろしくお願いします」
クーは改めて頭を下げる。マイは不満そうな表情を浮かべながら、浅く頭を下げた。
「洞窟の調査に関してだが、日取りは特に決めていない。だが依頼を終えるまで、他の町に向かう事だけは禁ずる。何か道具が必要なら、都内で済ませるように」
「わかりました」
クーが返事をすると、ハンナは二人から距離を取った。
「……どうしよう」
「どうするも何も、やるしかないでしょ」
そう言ってマイは少し離れた場所にいるハンナをにらんだ。
「目付け役だかなんだか知らないけど、あいつもついてくるみたいだし、とりあえず準備は万全に済ませないとね」
「そ、そうだね。でも準備って、何を用意すれば……」
町の外に出た事もなかったクーには見当もつかなかった。本や演劇をもとにした想像の範囲では、ランタンのような明かりくらしか思いつかなかった。
「クー。ちょっとそれ貸して」
クーが受け取った地図を指すと、彼女はそれをマイに手渡す。受け取ったマイは早速広げ、洞窟の場所を確認する。山脈に面した森の中にあるようだが、地図上では他に読み取れることはなかった。
「ねえあんた。この洞窟ってどういう所なの?」
「もともとは我々シエロセル兵が訓練にも使っていた場所だ。魔法生物が多く存在している」
魔法生物とはダークそのものが変質し、魔物の姿を取った生命体を指す。一般の魔物と違い、決まった形を持っておらず、液体や気体のような流動的な肉体を特徴としている。そしてその全てが「コア」と呼ばれる物を持っており、これが彼らの弱点でもあった。
「魔法生物相手なら大したものはいらないか。あたしの研究所にあるもので十分。クー。今日はもう王都の観光でもしよ」
「え。いいの?」
「いいの。だってずっと馬車に揺られて、魔物とも戦ったし疲れたでしょ? 向こうもいつでもいいって言ってるし、今日はゆっくり羽を伸ばそ」
「待て」
マイの発言にハンナが待ったをかける。
「たしかに期限を設けてはいないが、遊びに時間を割くのを看過できない。第一、先も言った通り、任務達成までお前たちには行動制限が掛けられている。お前の言う研究所とやらには行けないと思うが」
「はぁ……さてはあんた、あんまり新聞とか読まないタイプだね」
ため息を吐いたマイが、ハンナに向かい合った。
「改めて自己紹介をしようか。あたしはマイ・アスカ。今は魔物と光の勇者の研究を専攻してるけど、以前には空間編成術の研究もしてたの。ミハイル空間術式を応用した亜空間構築術式で作ったあたしの研究所は、現実の場所なんてものに縛られない」
そう言ってマイは、城を出る時に返された鞄の中から、一つの石板を取り出した。そして道脇にあった、他よりも幹が太い木に向かう。その幹に石板を押し付けると、石板に手を当て、ダークを流し込んだ。
マイのダークに反応し、石板が大きくなる。およそ人ひとりが重なる程度の大きさになると、マイは再びハンナを見た。
「これがあたしの研究所の入り口。開けっ広げになっちゃうから、普段はもっとひと気のない所で開くんだけどね」
そう言ってマイは大きくなった石板に体を重ねる。石板は質量をもっていないように、彼女の体を飲み込んだ。その光景には、ハンナだけではなく、クーも驚いた。
「あそこってこんな風になってたんだ……」
クーが初めて研究所に訪れた時は、気絶したところをマイに運ばれてだった。ジーニアスからサンスに戻る時もここを経由したが、出入口は虚の中で、よく見えなかった。
「あの、一緒に行きませんか? 多分マイもそのつもりで用意したと思うので」
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最初にクーが石板の中へと入る。ハンナは気難しい顔を浮かべながら、その後に続いた。
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