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国王からの依頼
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鉄道はジーニアスでも乗ったが、それよりも大分古臭いデザインだった。速度も遅く、椅子も固い。ジーニアスのそれが、いかに優れていたのかを実感させられた。
やがて鉄道は、王城前の駅に到着する。ここで降りたのはクーたちだけだった。
王城前と表されながら、実際に王城はさらに歩いた先にある。左右に木々が広がっている道のずっと向こうに、立派な城が見えていた。
およそ数十分ほど歩くと、城門の前に着く。左右に門番の兵士がおり、マイが左の兵士に近づいた。
「王様に会いたいんだけど。これ、ジーニアスからの書簡」
端的に話しながら、鞄から取り出した書簡を兵士に渡す。兵士は訝しむような目をマイに向けながら、その内容を確認する。
「……確かに本物のようだな。これには光の勇者の謁見とあるが、まさか君が?」
「あたしじゃない。勇者はあの子」
マイがクーを指差すと、彼女はぺこりと頭を下げた。兵士はまた複雑な表情を浮かべた。
「……ひとまず許可を取って来る。そこで待っていてくれ」
そう言って兵士は門の中へと入る。言われた通り、二人は外で静かに待っていると、しばらくして兵士が戻ってきた。
「大臣の許可が下りた。入城に伴い、荷物を改めさせてもらうが、よろしいか?」
「いいよ。ほら、クーも」
「う、うん」
二人の荷物を確認し、クーは滞りなく済ませられる。一方マイは、鞄から明らかに見た目より多くの物を出し、確認の兵士を驚かせていた。
「なんならこれ、全部あんたに預けるよ。ただし、中をいじったら承知しないから」
面倒に思ったマイが、出した荷物を鞄に戻し、まとめて兵士に預ける。そして自分が身に着けた服の中だけを確認させ、検査を済ませた。
「それでは私の後に続いてください」
先程マイから書簡を預かった兵士が、二人を先導した。
余計な寄り道などせず、すぐに国王のいる部屋の前へと案内される。あまりに大きな扉を前に、クーは緊張を覚えてきた。
「大丈夫。もしも何かされようものなら、当たしが守ってあげるから」
「う、うん。大丈夫。いつまでも、マイに守ってもらうばかりじゃないから」
深呼吸して気持ちを落ち着かせると、大扉が開かれた。
扉の向こうには壁伝いに兵士が並び、クーたちを待ち構えていた。
そしてクーたちの正面に、小高い階段を挟んで、シエロセル国王が座していた。彼の左右には他にも数人の姿があり、誰も彼もが、荘厳な装束を身に纏っており、クーは扉前での緊張がぶり返してきた。
先導する兵士に続いて赤い絨毯の上を歩く。やがて兵士が停止すると、クーたちも立ち止まった。
「陛下。ジーニアスより伝令のあった通り、もう一人の光の勇者と、その付き人を連れてまいりました」
「ご苦労」
厳かな一声に、兵士は敬礼をして一歩下がった。
「よくぞ参られた。私がシエロセル国王、ウラヌスである。そして私の左右にいるのが、我らと目的を同じくする同盟諸国の代表者だ」
ウラヌスの紹介に、左右の代表者らが次々に挨拶をした。
シエロセルも加盟しているこの同盟は、実に世界の八割規模で結成されている。故に、非加盟国のジーニアスが、発表されている者の他に光の勇者以外を有したとなれば角が立つ。結果、穏便に済ますために、クーの存在を彼らの元で発表することになった。
「は、初めまして。わ、わ、私はクートリウィア・マーニと、も、申します。えっと、一応、光の勇者、です」
「……ジーニアスを代表し、彼女の付き人として参りました。マイ・アスカと申します」
それぞれ挨拶をすると、ウラヌスは小さく頷く。
「書簡は確認した。そのうえで改めて聞こう。そなたが光の勇者である事に、偽りはないか」
ウラヌスの鋭い目つきでクーを見下ろす。他の代表者からも同じ視線を向けられ、クーは萎縮してしまう。正直、今すぐ逃げ出したい気持ちだった。
しかしクーは逃げずに、ぐっと手を握りしめ、すっかり乾いてしまった口を開いた。
「う、嘘じゃないです。わ、私は、光の勇者ですっ」
クーは右手のグローブを外して、そこに刻まれた紋章を披露する。クーの意思に反応したのか、紋章は強く光を放った。
おお、という歓声がにわかに沸き上がる。ウラヌスが一言、「静粛に」と唱えると、それはすぐに静まった。
「その紋章は確かに勇者の証。疑うべくもない。そこで、そなたに頼みがある」
ウラヌスが腕を上げて指示をすると、兵士の一人がクーの前に現れる。彼は手元に丸められた紙を広げ、クーに見せる。それは、王都周辺の地図だった。
「ここより北方に、試練の洞窟と呼ばれている場所があるのだが、最近魔物の活動が活発化している。恐らく紅い月の影響だろう。勇者として、これを解決してもらいたい」
クーの前に立った兵士が広げていた地図を閉じて、クーに手渡す。クーは反射的にそれを受け取った。
「そなたの武運を、心より祈る」
話は終わりだと言うように、先程の兵士と入れ替わるように、別の兵士がクーの前に立つ。クーを見下ろすと、そのまま部屋の外へと連れ出そうとする。
「え? え?」
クーは混乱しながら、されるがままに外へと連れていかれる。マイも同様だったが、混乱しているというよりは、不服そうな表情を浮かべていた。
やがて鉄道は、王城前の駅に到着する。ここで降りたのはクーたちだけだった。
王城前と表されながら、実際に王城はさらに歩いた先にある。左右に木々が広がっている道のずっと向こうに、立派な城が見えていた。
およそ数十分ほど歩くと、城門の前に着く。左右に門番の兵士がおり、マイが左の兵士に近づいた。
「王様に会いたいんだけど。これ、ジーニアスからの書簡」
端的に話しながら、鞄から取り出した書簡を兵士に渡す。兵士は訝しむような目をマイに向けながら、その内容を確認する。
「……確かに本物のようだな。これには光の勇者の謁見とあるが、まさか君が?」
「あたしじゃない。勇者はあの子」
マイがクーを指差すと、彼女はぺこりと頭を下げた。兵士はまた複雑な表情を浮かべた。
「……ひとまず許可を取って来る。そこで待っていてくれ」
そう言って兵士は門の中へと入る。言われた通り、二人は外で静かに待っていると、しばらくして兵士が戻ってきた。
「大臣の許可が下りた。入城に伴い、荷物を改めさせてもらうが、よろしいか?」
「いいよ。ほら、クーも」
「う、うん」
二人の荷物を確認し、クーは滞りなく済ませられる。一方マイは、鞄から明らかに見た目より多くの物を出し、確認の兵士を驚かせていた。
「なんならこれ、全部あんたに預けるよ。ただし、中をいじったら承知しないから」
面倒に思ったマイが、出した荷物を鞄に戻し、まとめて兵士に預ける。そして自分が身に着けた服の中だけを確認させ、検査を済ませた。
「それでは私の後に続いてください」
先程マイから書簡を預かった兵士が、二人を先導した。
余計な寄り道などせず、すぐに国王のいる部屋の前へと案内される。あまりに大きな扉を前に、クーは緊張を覚えてきた。
「大丈夫。もしも何かされようものなら、当たしが守ってあげるから」
「う、うん。大丈夫。いつまでも、マイに守ってもらうばかりじゃないから」
深呼吸して気持ちを落ち着かせると、大扉が開かれた。
扉の向こうには壁伝いに兵士が並び、クーたちを待ち構えていた。
そしてクーたちの正面に、小高い階段を挟んで、シエロセル国王が座していた。彼の左右には他にも数人の姿があり、誰も彼もが、荘厳な装束を身に纏っており、クーは扉前での緊張がぶり返してきた。
先導する兵士に続いて赤い絨毯の上を歩く。やがて兵士が停止すると、クーたちも立ち止まった。
「陛下。ジーニアスより伝令のあった通り、もう一人の光の勇者と、その付き人を連れてまいりました」
「ご苦労」
厳かな一声に、兵士は敬礼をして一歩下がった。
「よくぞ参られた。私がシエロセル国王、ウラヌスである。そして私の左右にいるのが、我らと目的を同じくする同盟諸国の代表者だ」
ウラヌスの紹介に、左右の代表者らが次々に挨拶をした。
シエロセルも加盟しているこの同盟は、実に世界の八割規模で結成されている。故に、非加盟国のジーニアスが、発表されている者の他に光の勇者以外を有したとなれば角が立つ。結果、穏便に済ますために、クーの存在を彼らの元で発表することになった。
「は、初めまして。わ、わ、私はクートリウィア・マーニと、も、申します。えっと、一応、光の勇者、です」
「……ジーニアスを代表し、彼女の付き人として参りました。マイ・アスカと申します」
それぞれ挨拶をすると、ウラヌスは小さく頷く。
「書簡は確認した。そのうえで改めて聞こう。そなたが光の勇者である事に、偽りはないか」
ウラヌスの鋭い目つきでクーを見下ろす。他の代表者からも同じ視線を向けられ、クーは萎縮してしまう。正直、今すぐ逃げ出したい気持ちだった。
しかしクーは逃げずに、ぐっと手を握りしめ、すっかり乾いてしまった口を開いた。
「う、嘘じゃないです。わ、私は、光の勇者ですっ」
クーは右手のグローブを外して、そこに刻まれた紋章を披露する。クーの意思に反応したのか、紋章は強く光を放った。
おお、という歓声がにわかに沸き上がる。ウラヌスが一言、「静粛に」と唱えると、それはすぐに静まった。
「その紋章は確かに勇者の証。疑うべくもない。そこで、そなたに頼みがある」
ウラヌスが腕を上げて指示をすると、兵士の一人がクーの前に現れる。彼は手元に丸められた紙を広げ、クーに見せる。それは、王都周辺の地図だった。
「ここより北方に、試練の洞窟と呼ばれている場所があるのだが、最近魔物の活動が活発化している。恐らく紅い月の影響だろう。勇者として、これを解決してもらいたい」
クーの前に立った兵士が広げていた地図を閉じて、クーに手渡す。クーは反射的にそれを受け取った。
「そなたの武運を、心より祈る」
話は終わりだと言うように、先程の兵士と入れ替わるように、別の兵士がクーの前に立つ。クーを見下ろすと、そのまま部屋の外へと連れ出そうとする。
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