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それは小さな光のような
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船に残ったのは、エンドゥを隊長とした第八部隊と、第七部隊の小隊。第七部隊はこのまま船上でオスカーらの援護しつつ、クーが呼び寄せた他の魔物の退治を行う。第八部隊もそれに倣うように指示を出した。エンドゥは指揮権を自隊の小隊長に任せて、マイの手伝いをする事にした。
「先輩!」
エンドゥの後ろから、同船していたハーヴェイが出てくる。彼の手には布包みがあり、それをマイに手渡す。
「ありがとう。あんたは後ろに下がってて」
「大丈夫です。俺も一応、戦えますから」
得意げに胸を張ると、ハーヴェイは腰にぶら下げたホルスターから、厚みのある本を取り出して見せた。
現状、一番の大物はオスカーが相手している魔物のみだ。他の魔物は雑魚と言っても差し支えなく、他の騎士らで事足りる。マイは心置きなく、クーの対応に当たることが出来た。
クーは魔物を呼ぶ以外、行動を起こす様子は見受けられない。ただ周囲を他の魔物に囲わせており、正面からの飛び道具は、簡単に届きそうにない。
「お兄。視界はどう?」
「大丈夫。どうやら魔物たちは、こちらしか見えていないみたいだからね」
エンドゥがフレスベルグを装着し、再度弓を引く。視界に映るのは、鳥の魔物の翼と、クーの後ろ姿。
すでに鷹の目は、彼女らの背後に設置されていた。
「異次元の魔術師の妙技。とくとご覧あれ、ってね」
冗談めかしながら放たれた矢は、同時に出現した空間上の亀裂に吸い込まれる。そして鷹の目の視界の目の前に別の亀裂が現れると、そこから直線軌道上を辿っていった。
完全に死角からの一撃。どんな反射神経の持ち主であろうと、これを避ける術はないと思われた。
だがクーはそれに反応した。クーの中に入った力は、その技を知っていたからだ。
「なっ……⁉」
まさか避けられるとは思っていなかったエンドゥは、珍しく動揺した。無情にも、宙を舞うように広がった蔓を横目に、クーの周りにいた魔物が一斉に船上へと急降下してきた。
「くっ!」
エンドゥはすぐに二本の矢を番え、同時に射出する。矢はそれぞれ別方向へと飛んでいき、その先にいた二体の鳥の魔物の嘴から後頭部へと貫通した。
「お兄さん!」
ハーヴェイが魔法で、水の刃を放って魔物を屠る。片手に携えた本はひとりでにページを開いている。ページを消費して術者の魔法の威力を底上げするそれは、ハーヴェイが作った特別な道具だった。
「ありがとう。で、誰がお兄さんだって?」
「え。だって先輩のお兄さんですから」
「そうか。それならいい」
安堵したエンドゥに向けて、さらに別の魔物が迫ってきていた。位置にして、エンドゥの背後。彼はそちらに振り返ることなく、何気ない動作で矢を放って、それを仕留めた。
「クー……ずっと動かないね」
訓練場では本人が大暴れしたと、アカネから聞いた。だが今は、攻撃に反撃こそするも、自分から手を下す様子が一切見受けられない。
マイはハーヴェイから受け取った布包みをほどく。中身は、幼い少女には手に余りそうな、銀色の長銃だった。マイが自分の武器として作ったもので、火薬を用いらず、ダークを込めて弾丸を放つ代物だ。
マイは銃身に、弾丸となる種を込めた。狙いをクーに定めると、引き金を引いた。
飛んでいった種は、クーの目前で発芽し、強い光を放った。発光種と名付けた、目くらましの種だ。
「~~!」
クーが怯み、隙が出来る。すぐに次弾を装填し、発射。エンドゥに渡した、拘束用の種だ。
「っ!」
迫る気配を察知したのか、クーが目の前に手をかざす。先程と同じように、氷のつぶてが蔓を弾いていった。
「マイ!」
エンドゥが叫び、矢を放った。クーよりも下の位置へ飛んでいった矢は、そこで自転して小さな竜巻を生み出した。
「?」
マイの周りを風が包むと、先程弾いた弦の破片が周囲に舞い上がる。氷の一撃を受けた蔓は、砕けながら竜巻の中へ巻き込まれていく。
「よし。うまくいってくれ」
竜巻に吸い込まれるように、矢が放たれる。冷気を巻き込み、激しく渦巻いていた風は、エンドゥの矢によって氷と化していった。
「⁉」
目の前に現れた障壁に対し、クーが魔法を放つ。だが凍った竜巻には、クーが弾いた際に生まれた、凍った蔓の欠片が入り込み、より堅牢なものに仕上げていた。
「お兄。ナイス」
すかさずマイが引き金を引き、弾を何発も撃つ。空中に出来た氷の箱へ、エンドゥが魔法で支援すると、四方八方へと撃ち込まれた。着弾した種は、そのまま発芽してクーのいる中へと生長を始めた。
通常の植物でも、固い大地を貫く生命力がある。それには相応の温度が必要になるが、ダークによる魔法種であり、かつ銃から放たれた熱もあり、種の成長は順調だった。
やがて氷の箱が砕かれた。クーによる破壊ではない。生長し、クーを拘束した種が氷の至る所を張った結果、もろくなって砕け散ったのだ。
「~~! ~~!」
拘束されたクーは身動きできず、また空中でとどまることもできずに、落下していった。
「クー!」
「マイ。ちょっと待ってくれ」
エンドゥが制止し、クーの落下地点の戦場へ矢を撃つ。矢尻が開き、中からふわりとした布が広がり、落ちてきたクーを優しく受け止めた。
「なんですか。この絶対に戦いには使わないような矢は……」
「世の中何が起きるかわからないからね。とにかく色んな矢を作ってあるんだよ」
何気なく答えるエンドゥに対して、少し引いた様子のハーヴェイ。そんな二人を無視して、マイはクーの元へと駆け寄った。
「~~……っ」
拘束されたクーは、どうにか抜け出そうともがいている。その様子に、マイは少しだけ違和感を覚える。
アカネから聞いた話では、新米とはいえジーニアスの騎士を一瞬で蹴散らすほどの大暴れをしたという。確かに凶悪な魔物を呼び寄せ、強襲させるという荒事こそ起こしているが、当の本人はそれほど大した事をしているようには思えなかった。今も魔法を使う事もなく、その場でもがくのみだ。
(なんであれ、チャンスは今しかない)
改めて、ポケットから種を取り出す。クーの右手、正確には紋章が刻まれた甲には蔓が及んでいない。そこへ取り出した種をぐっと押し込むように植え付けた。
変化はすぐに起きた。紋章そのもののダークを吸い取った種は、ぐんぐんと生長し、太い蔓が船上を這っていく。
「クー。あたし、マイだよ。わかる?」
作戦通り、マイはクーに呼び掛ける。クーは未だ拘束から逃れようともがいている。マイの顔など、一切見ていなかった。
「クー!」
クーの顔を両手で挟み、強引に自分と顔を合わせた。
紋章の力を吸っている今もなお、クーの姿は変化したままだ。その顔立ちに、頼りない彼女の面影はない。表情が動かず、どこか人形じみた顔を、マイは逸らすことなく見つめた。
「……約束、忘れてないよね」
「…………」
「あたしに似合う髪飾りを作ってくれるって言ったよね」
「…………」
「あんな事言ってくれた人、初めてなの。お兄やアカネさんはあたしの事を想ってくれていたけど、それってお兄からしたら、あたしが妹だからだし、アカネさんも似たような感じだし」
それが悪いとは思わない。自分が逆の立場だったら、やはりそうやって接していただろう。
「あたし、友達って言える人がいなかったの。だから、本当は友達ってどういう存在なのか、よくわかっていないの。クーの事は友達だって思っていたけど、後輩から言わせると違うみたいで」
数時間前の、ハーヴェイの言葉を思い出す。自分がクーに向けている感情は、ただの同情であって、友情とは違う。その通りだ。今もクーに対しては、いらぬ力を得て、人生を狂わされた被害者だと思っている。
でも。だからこそ。
「クーの事、もっと知りたいの。あの時みたいにご飯を食べて、お店を見に行ったり。他にももっと、色んなことを一緒にしたいの」
「…………」
クーは未だに反応を示さない。マイの言葉は、届いていないのか。やはり策とも呼べない、無謀なものだったのか。
脳裏をかすめた不安を、マイは大きく頭を振ってかき消した。まだだ。まだそうと決まったわけじゃない。
「………クー」
言葉だけじゃない。自分の気持ちを伝えるには、言葉だけじゃ足りない。顔をはさんでいた手を放すと、大きく腕を広げて、クーの体を包むように抱きしめた。
「……⁉」
ここで初めて、クーが反応を示した。目を大きく見開き、体に緊張が走った。
「戻ってきて。クートリウィア・マーニ。あたしの、初めての友達」
「⁉ ⁉ ~~~~」
じたばたと、もがきだすクー。蔓で拘束され、マイに抱きしめられて、ほとんど身動きが取れずとも、力は十分にあった。転がるような動きに、マイも振り回され、船上に体が打ち付けられる。
「マイ!」「先輩!」
エンドゥとハーヴェイが、同時に声を上げる。
「二人とも。あたしは大丈夫。大丈夫だから」
体に痛みを覚えながらも、それでもクーを離すことはなかった。このまま、クーに自分の全てを感じさせていたか
った。
「ア……マ、マイ……」
クーの口から、初めて聞き取れる言葉が出てきた。それは紛れもない、友達の名前だった。
「クー!」
マイが再び、彼女の名前を呼ぶ。クーの動きが止まり、マイに顔を向けた。
「マ……イ……」
「うん。マイだよ。クー、正気に戻ったの?」
マイの問いに、クーは答えなかった。まだ、完全に意識を取り戻したわけではないようだ。
だが、もう一息だ。そう確信したマイは、さらに強くクーを抱きしめた。
「ああ、もう。邪魔!」
拘束していた蔓を、マイは解除する。むき出しになったクーの体に、自分の体を強く押し付けた。
「クー。もう少しだから! 魔物の力になんか、負けないで!」
強く抱きしめ、何度もクーの名前を呼び掛ける。その声は、クーの耳を通り抜け、さらに彼女の奥深くまで届いていた。
「先輩!」
エンドゥの後ろから、同船していたハーヴェイが出てくる。彼の手には布包みがあり、それをマイに手渡す。
「ありがとう。あんたは後ろに下がってて」
「大丈夫です。俺も一応、戦えますから」
得意げに胸を張ると、ハーヴェイは腰にぶら下げたホルスターから、厚みのある本を取り出して見せた。
現状、一番の大物はオスカーが相手している魔物のみだ。他の魔物は雑魚と言っても差し支えなく、他の騎士らで事足りる。マイは心置きなく、クーの対応に当たることが出来た。
クーは魔物を呼ぶ以外、行動を起こす様子は見受けられない。ただ周囲を他の魔物に囲わせており、正面からの飛び道具は、簡単に届きそうにない。
「お兄。視界はどう?」
「大丈夫。どうやら魔物たちは、こちらしか見えていないみたいだからね」
エンドゥがフレスベルグを装着し、再度弓を引く。視界に映るのは、鳥の魔物の翼と、クーの後ろ姿。
すでに鷹の目は、彼女らの背後に設置されていた。
「異次元の魔術師の妙技。とくとご覧あれ、ってね」
冗談めかしながら放たれた矢は、同時に出現した空間上の亀裂に吸い込まれる。そして鷹の目の視界の目の前に別の亀裂が現れると、そこから直線軌道上を辿っていった。
完全に死角からの一撃。どんな反射神経の持ち主であろうと、これを避ける術はないと思われた。
だがクーはそれに反応した。クーの中に入った力は、その技を知っていたからだ。
「なっ……⁉」
まさか避けられるとは思っていなかったエンドゥは、珍しく動揺した。無情にも、宙を舞うように広がった蔓を横目に、クーの周りにいた魔物が一斉に船上へと急降下してきた。
「くっ!」
エンドゥはすぐに二本の矢を番え、同時に射出する。矢はそれぞれ別方向へと飛んでいき、その先にいた二体の鳥の魔物の嘴から後頭部へと貫通した。
「お兄さん!」
ハーヴェイが魔法で、水の刃を放って魔物を屠る。片手に携えた本はひとりでにページを開いている。ページを消費して術者の魔法の威力を底上げするそれは、ハーヴェイが作った特別な道具だった。
「ありがとう。で、誰がお兄さんだって?」
「え。だって先輩のお兄さんですから」
「そうか。それならいい」
安堵したエンドゥに向けて、さらに別の魔物が迫ってきていた。位置にして、エンドゥの背後。彼はそちらに振り返ることなく、何気ない動作で矢を放って、それを仕留めた。
「クー……ずっと動かないね」
訓練場では本人が大暴れしたと、アカネから聞いた。だが今は、攻撃に反撃こそするも、自分から手を下す様子が一切見受けられない。
マイはハーヴェイから受け取った布包みをほどく。中身は、幼い少女には手に余りそうな、銀色の長銃だった。マイが自分の武器として作ったもので、火薬を用いらず、ダークを込めて弾丸を放つ代物だ。
マイは銃身に、弾丸となる種を込めた。狙いをクーに定めると、引き金を引いた。
飛んでいった種は、クーの目前で発芽し、強い光を放った。発光種と名付けた、目くらましの種だ。
「~~!」
クーが怯み、隙が出来る。すぐに次弾を装填し、発射。エンドゥに渡した、拘束用の種だ。
「っ!」
迫る気配を察知したのか、クーが目の前に手をかざす。先程と同じように、氷のつぶてが蔓を弾いていった。
「マイ!」
エンドゥが叫び、矢を放った。クーよりも下の位置へ飛んでいった矢は、そこで自転して小さな竜巻を生み出した。
「?」
マイの周りを風が包むと、先程弾いた弦の破片が周囲に舞い上がる。氷の一撃を受けた蔓は、砕けながら竜巻の中へ巻き込まれていく。
「よし。うまくいってくれ」
竜巻に吸い込まれるように、矢が放たれる。冷気を巻き込み、激しく渦巻いていた風は、エンドゥの矢によって氷と化していった。
「⁉」
目の前に現れた障壁に対し、クーが魔法を放つ。だが凍った竜巻には、クーが弾いた際に生まれた、凍った蔓の欠片が入り込み、より堅牢なものに仕上げていた。
「お兄。ナイス」
すかさずマイが引き金を引き、弾を何発も撃つ。空中に出来た氷の箱へ、エンドゥが魔法で支援すると、四方八方へと撃ち込まれた。着弾した種は、そのまま発芽してクーのいる中へと生長を始めた。
通常の植物でも、固い大地を貫く生命力がある。それには相応の温度が必要になるが、ダークによる魔法種であり、かつ銃から放たれた熱もあり、種の成長は順調だった。
やがて氷の箱が砕かれた。クーによる破壊ではない。生長し、クーを拘束した種が氷の至る所を張った結果、もろくなって砕け散ったのだ。
「~~! ~~!」
拘束されたクーは身動きできず、また空中でとどまることもできずに、落下していった。
「クー!」
「マイ。ちょっと待ってくれ」
エンドゥが制止し、クーの落下地点の戦場へ矢を撃つ。矢尻が開き、中からふわりとした布が広がり、落ちてきたクーを優しく受け止めた。
「なんですか。この絶対に戦いには使わないような矢は……」
「世の中何が起きるかわからないからね。とにかく色んな矢を作ってあるんだよ」
何気なく答えるエンドゥに対して、少し引いた様子のハーヴェイ。そんな二人を無視して、マイはクーの元へと駆け寄った。
「~~……っ」
拘束されたクーは、どうにか抜け出そうともがいている。その様子に、マイは少しだけ違和感を覚える。
アカネから聞いた話では、新米とはいえジーニアスの騎士を一瞬で蹴散らすほどの大暴れをしたという。確かに凶悪な魔物を呼び寄せ、強襲させるという荒事こそ起こしているが、当の本人はそれほど大した事をしているようには思えなかった。今も魔法を使う事もなく、その場でもがくのみだ。
(なんであれ、チャンスは今しかない)
改めて、ポケットから種を取り出す。クーの右手、正確には紋章が刻まれた甲には蔓が及んでいない。そこへ取り出した種をぐっと押し込むように植え付けた。
変化はすぐに起きた。紋章そのもののダークを吸い取った種は、ぐんぐんと生長し、太い蔓が船上を這っていく。
「クー。あたし、マイだよ。わかる?」
作戦通り、マイはクーに呼び掛ける。クーは未だ拘束から逃れようともがいている。マイの顔など、一切見ていなかった。
「クー!」
クーの顔を両手で挟み、強引に自分と顔を合わせた。
紋章の力を吸っている今もなお、クーの姿は変化したままだ。その顔立ちに、頼りない彼女の面影はない。表情が動かず、どこか人形じみた顔を、マイは逸らすことなく見つめた。
「……約束、忘れてないよね」
「…………」
「あたしに似合う髪飾りを作ってくれるって言ったよね」
「…………」
「あんな事言ってくれた人、初めてなの。お兄やアカネさんはあたしの事を想ってくれていたけど、それってお兄からしたら、あたしが妹だからだし、アカネさんも似たような感じだし」
それが悪いとは思わない。自分が逆の立場だったら、やはりそうやって接していただろう。
「あたし、友達って言える人がいなかったの。だから、本当は友達ってどういう存在なのか、よくわかっていないの。クーの事は友達だって思っていたけど、後輩から言わせると違うみたいで」
数時間前の、ハーヴェイの言葉を思い出す。自分がクーに向けている感情は、ただの同情であって、友情とは違う。その通りだ。今もクーに対しては、いらぬ力を得て、人生を狂わされた被害者だと思っている。
でも。だからこそ。
「クーの事、もっと知りたいの。あの時みたいにご飯を食べて、お店を見に行ったり。他にももっと、色んなことを一緒にしたいの」
「…………」
クーは未だに反応を示さない。マイの言葉は、届いていないのか。やはり策とも呼べない、無謀なものだったのか。
脳裏をかすめた不安を、マイは大きく頭を振ってかき消した。まだだ。まだそうと決まったわけじゃない。
「………クー」
言葉だけじゃない。自分の気持ちを伝えるには、言葉だけじゃ足りない。顔をはさんでいた手を放すと、大きく腕を広げて、クーの体を包むように抱きしめた。
「……⁉」
ここで初めて、クーが反応を示した。目を大きく見開き、体に緊張が走った。
「戻ってきて。クートリウィア・マーニ。あたしの、初めての友達」
「⁉ ⁉ ~~~~」
じたばたと、もがきだすクー。蔓で拘束され、マイに抱きしめられて、ほとんど身動きが取れずとも、力は十分にあった。転がるような動きに、マイも振り回され、船上に体が打ち付けられる。
「マイ!」「先輩!」
エンドゥとハーヴェイが、同時に声を上げる。
「二人とも。あたしは大丈夫。大丈夫だから」
体に痛みを覚えながらも、それでもクーを離すことはなかった。このまま、クーに自分の全てを感じさせていたか
った。
「ア……マ、マイ……」
クーの口から、初めて聞き取れる言葉が出てきた。それは紛れもない、友達の名前だった。
「クー!」
マイが再び、彼女の名前を呼ぶ。クーの動きが止まり、マイに顔を向けた。
「マ……イ……」
「うん。マイだよ。クー、正気に戻ったの?」
マイの問いに、クーは答えなかった。まだ、完全に意識を取り戻したわけではないようだ。
だが、もう一息だ。そう確信したマイは、さらに強くクーを抱きしめた。
「ああ、もう。邪魔!」
拘束していた蔓を、マイは解除する。むき出しになったクーの体に、自分の体を強く押し付けた。
「クー。もう少しだから! 魔物の力になんか、負けないで!」
強く抱きしめ、何度もクーの名前を呼び掛ける。その声は、クーの耳を通り抜け、さらに彼女の奥深くまで届いていた。
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