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第六章 王都
第165話
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ヨーゼル村を後にした僕たちは、王都へ向かう街道を進んでいます。
天候は薄曇り。とりあえず雨の気配は無く、道中に不安はありません。
いや、一つだけありました…
「ねぇ、ユーマ?貸し忘れてないわよね?」
「はい!もちろんです!」
「いつ返して貰おうかしらねぇ…」
こわいよぅ…
フランカ市から王都に至る街道は、領都を経由するルートと、今まさに通っている、ヨーゼル村とミルカ村という宿場を挟んで敷かれているルートの二通りが存在している。
各地の領都を経由するルートは王国内の主要街道の一つでもあり、特にフランカからクレイドブルクに至るルートは頑強な石畳で舗装され、大型の輸送馬車がすれ違う事が可能な道幅を備えている。
街道の敷設は通常、国家プロジェクトとしてかなりの費用と時間・人的資源などを費やして行われる。その中でもこのルートの施設は国内のどの街道よりも充実していた。なぜならその整備に対しては、フランカからの鉱物資源輸送を主目的として利用するクレイドル候爵家からも、相当な資金が投入されていたからである。
一方、王都への最短ルートとなるこの街道は、地形環境を考慮した箇所に石畳が敷かれてはいるものの、基本的に地面を固め植物に埋もれない様に処理する程度にしか整備されていない。
このルートの主目的が農作物等の輸送路であり、副次目的が緊急事態に騎士団が通過するための行軍路であったため、多くの資金などを投入するだけの価値を見出されていなかったのだろう。
…なんでいきなりそんな話をするかって?
それはね…
結構揺れるんだってば!上下左右に。
今、巴が牽いてくれてる僕達の馬車は、控え目に言っても、この世界でトップクラスの性能だと思います。
もちろん、もしかしたら王族だとか大金持ちなんかがふんだんに資金を投入して、同クラス以上の馬車を開発所有してる可能性も無くは無いので、1番とまでは言わないけど。
その馬車を以ってしても揺れるとは…
逆に言えば、よく利用されてるからこそ整備する以上に路面が劣化するんだろうけどさ。
おかげでエリーヌとナディアは気分が良くなさそう。マイラさんは慣れっこなのか平気そうで、シアとネルは揺れと振動を楽しんでる模様です。
「あ、は、はははっ!コレっ!たのっ、しいわ、っねー!」
『ネル、喋ってたら舌噛むよ?』
「な、に、まど、ウグッ!?に、たよ、って、んのよ!」
…今絶対舌噛んだじゃん。
『このルートは特に往来が多いからねぇ。整備する為に塞ぐのも都合が悪いんだよ。
それでも、収穫シーズンが一段落した時期には必ず手が入ってた。本来ならそろそろ整備されるはずなんだけどねぇ。
今年は難しいんじゃないかな』
『確かにそうかもしれませんね。フランカの避難民の対応でそれどころじゃないってところでしょうし』
マイラさんの言う様に、農閑期になれば輸送量が減ると同時に工事に必要な人出も確保しやすくなる上に、領民に対しては貴重な収入源にもなる公共事業的な側面もあったんじゃないだろうか。
それが行われないとなると…
『うーん…確定的な事は言えないけど、クレイドル侯爵の政治力と指導力が試される様な場面になるかもしれないねぇ…』
『そうなんですか?街道沿線の人達が困るだろうなぁってくらいは思ったんですけど』
『うん。大まかに言えばそうなんだけど、こういう時の対処の仕方で民衆の心情なんて簡単に左右されるものさ』
民衆の心情は時間の経過につれて、段階的に変化していくものなんだそうです。
その変化に、適切な対処が出来たか出来なかったかで、政治的な支持はまるで反対の方向に振れてしまうみたいだね。
今回のケースで言えば、フランカ市が魔物に襲撃された事件が発生して生き残った市民が避難したところまでが第一段階で、混乱しながらも避難先で生活を始めるまでが第二段階。避難先で先住者との関係が悪化して行く段階が今だろう。
『避難する頃の施策は単純でね。例えば、慰めの言葉をかけお見舞いの何かを渡す。これだけで為政者の支持は上がるんだよ。
だけど、その次の段階からはそうはいかない』
避難先までの誘導や受け入れ先の確保、当面の生活への援助、帰還までに必要な対策など、この段階でやっておくべき事は多い。
そしてマイラさん曰く、クレイドル侯爵の施策はここで僅かに及第点を取り逃がしていたようだ。
『物資が不足してただろう?あれは良くないねぇ。フランカに騎士団を向かわせるのも重要だよ。でもそれならそれで、同時にありったけの物資を届けるべきなんだ。
受け入れ先の住人だって、初めは憐れみから仕方ないと考える。それでも時間が経つ程に不満が蓄積してくるのさ。そして不満は、いつしか不信感に変わるんだ。為政者に対してね』
マイラさんは、昨日村を見て回った時に、その雰囲気が出始めていたのに気付いたみたいです。
もちろん、即反乱なんて事はないんだろうけど、この先も物資の不足が続いたり街道補修の事業が見送りになったりが重なれば、クレイドル侯爵への反発に繋がってきたりするのかも。
天候は薄曇り。とりあえず雨の気配は無く、道中に不安はありません。
いや、一つだけありました…
「ねぇ、ユーマ?貸し忘れてないわよね?」
「はい!もちろんです!」
「いつ返して貰おうかしらねぇ…」
こわいよぅ…
フランカ市から王都に至る街道は、領都を経由するルートと、今まさに通っている、ヨーゼル村とミルカ村という宿場を挟んで敷かれているルートの二通りが存在している。
各地の領都を経由するルートは王国内の主要街道の一つでもあり、特にフランカからクレイドブルクに至るルートは頑強な石畳で舗装され、大型の輸送馬車がすれ違う事が可能な道幅を備えている。
街道の敷設は通常、国家プロジェクトとしてかなりの費用と時間・人的資源などを費やして行われる。その中でもこのルートの施設は国内のどの街道よりも充実していた。なぜならその整備に対しては、フランカからの鉱物資源輸送を主目的として利用するクレイドル候爵家からも、相当な資金が投入されていたからである。
一方、王都への最短ルートとなるこの街道は、地形環境を考慮した箇所に石畳が敷かれてはいるものの、基本的に地面を固め植物に埋もれない様に処理する程度にしか整備されていない。
このルートの主目的が農作物等の輸送路であり、副次目的が緊急事態に騎士団が通過するための行軍路であったため、多くの資金などを投入するだけの価値を見出されていなかったのだろう。
…なんでいきなりそんな話をするかって?
それはね…
結構揺れるんだってば!上下左右に。
今、巴が牽いてくれてる僕達の馬車は、控え目に言っても、この世界でトップクラスの性能だと思います。
もちろん、もしかしたら王族だとか大金持ちなんかがふんだんに資金を投入して、同クラス以上の馬車を開発所有してる可能性も無くは無いので、1番とまでは言わないけど。
その馬車を以ってしても揺れるとは…
逆に言えば、よく利用されてるからこそ整備する以上に路面が劣化するんだろうけどさ。
おかげでエリーヌとナディアは気分が良くなさそう。マイラさんは慣れっこなのか平気そうで、シアとネルは揺れと振動を楽しんでる模様です。
「あ、は、はははっ!コレっ!たのっ、しいわ、っねー!」
『ネル、喋ってたら舌噛むよ?』
「な、に、まど、ウグッ!?に、たよ、って、んのよ!」
…今絶対舌噛んだじゃん。
『このルートは特に往来が多いからねぇ。整備する為に塞ぐのも都合が悪いんだよ。
それでも、収穫シーズンが一段落した時期には必ず手が入ってた。本来ならそろそろ整備されるはずなんだけどねぇ。
今年は難しいんじゃないかな』
『確かにそうかもしれませんね。フランカの避難民の対応でそれどころじゃないってところでしょうし』
マイラさんの言う様に、農閑期になれば輸送量が減ると同時に工事に必要な人出も確保しやすくなる上に、領民に対しては貴重な収入源にもなる公共事業的な側面もあったんじゃないだろうか。
それが行われないとなると…
『うーん…確定的な事は言えないけど、クレイドル侯爵の政治力と指導力が試される様な場面になるかもしれないねぇ…』
『そうなんですか?街道沿線の人達が困るだろうなぁってくらいは思ったんですけど』
『うん。大まかに言えばそうなんだけど、こういう時の対処の仕方で民衆の心情なんて簡単に左右されるものさ』
民衆の心情は時間の経過につれて、段階的に変化していくものなんだそうです。
その変化に、適切な対処が出来たか出来なかったかで、政治的な支持はまるで反対の方向に振れてしまうみたいだね。
今回のケースで言えば、フランカ市が魔物に襲撃された事件が発生して生き残った市民が避難したところまでが第一段階で、混乱しながらも避難先で生活を始めるまでが第二段階。避難先で先住者との関係が悪化して行く段階が今だろう。
『避難する頃の施策は単純でね。例えば、慰めの言葉をかけお見舞いの何かを渡す。これだけで為政者の支持は上がるんだよ。
だけど、その次の段階からはそうはいかない』
避難先までの誘導や受け入れ先の確保、当面の生活への援助、帰還までに必要な対策など、この段階でやっておくべき事は多い。
そしてマイラさん曰く、クレイドル侯爵の施策はここで僅かに及第点を取り逃がしていたようだ。
『物資が不足してただろう?あれは良くないねぇ。フランカに騎士団を向かわせるのも重要だよ。でもそれならそれで、同時にありったけの物資を届けるべきなんだ。
受け入れ先の住人だって、初めは憐れみから仕方ないと考える。それでも時間が経つ程に不満が蓄積してくるのさ。そして不満は、いつしか不信感に変わるんだ。為政者に対してね』
マイラさんは、昨日村を見て回った時に、その雰囲気が出始めていたのに気付いたみたいです。
もちろん、即反乱なんて事はないんだろうけど、この先も物資の不足が続いたり街道補修の事業が見送りになったりが重なれば、クレイドル侯爵への反発に繋がってきたりするのかも。
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