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第六章 王都
第163話
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少しペースを上げた馬車は順調に進み、傾きかけた日が地に届くより先にヨーゼル村に到着しました。
「馬車を停めてくれ!村に用事なら手続きしてもらいたい」
ヨーゼル村は、王都からフランカ市に至る街道の宿場として、クレイドル侯爵家が開発した村である。
また、平坦な地形で、かつ水源となる泉と資源になる森にも近い立地を選んで開発された為、農産品の生産地としての役割も同時に果たしている。
主要な街道は、定期的にクレイドル領軍が魔獣類や盗賊などを駆除することもあり、宿場であるヨーゼル村の住民も、平穏な日々を送っていた。
ところがつい先日、フランカ市で発生した魔物の襲撃事件の結果、大量の避難民が村に押し寄せ、現在村のあちこちに仮の避難民キャンプが作られていた。
「あんた方はフランカ方面から来なすったが、騎士団とは会わなかったかい?
今、村にはフランカの避難民がおるから、あまり余裕がないんだよ。
それで、もし道中の補給やらを考えとられるなら、済まねぇんだが…」
「そうなんですね…補給については間に合ってるんで大丈夫です。騎士団とはすれ違いまして、事情もお聞きしてますから。
とりあえず一晩の宿だけお借りできれば、僕達には問題ないですよ」
「おぉ!そうかい!済まんなぁ…もてなしてやりたいとこなんだが。
じゃあとりあえず、入村記録に記帳してくれるか?規則なんでなぁ」
彼がどうやら、村の門番みたいな立場なんだろうね。
避難民の流入で、一時的な物資不足になってるみたいだから、彼の話にも納得は出来るけどさ。
でも入村記録を取ってる村って初めてじゃないかな?
「はい、ありがとさん。宿は街道沿に何軒かあるから、直接空きがあるかは尋ねてくれよな!」
「ちなみにお勧めの宿ってありますか?多少高くても構いませんので」
「そうだなぁ…部屋に空きがあるかはわからねぇけど、ブレアさんの宿はメシが美味いぞ!
あそこの食堂で飯食うだけでも価値はあるぜ」
そういう事なら一択だよね。仲間のみんなも異論はないみたいだし、早速向かうとしましょう。
「ありがとうございます。その宿に行ってみますね」
「そうかい?それなら道の右手側の、オレンジ屋根の三階建てがそうだ。
女将さんに、トーヤに聞いたって言っといてくれよ。後で一杯ご馳走して貰えるんだ。あ、メシが美味いってのも本当だぜ?」
「あははっ!そうなんですね?わかりました。しっかり伝えておきます」
聞かれたから答えたって感じだったから、きっと嘘じゃないだろうしね。
街道を進むと、ほどなくオレンジ屋根の建物が右手に見えました。広い間口の扉は開かれていて、中からは賑やかな声が漏れ聞こえています。
玄関の前に馬車を停めると、12~3歳くらいの男の子が声をかけてきました。
「いらっしゃいませ!何人様ですか?馬車は裏手に停めておけますよ!」
「ありがとう。えーと、6人なんだけど大丈夫かな?」
「6人様ですね!すぐ入れます!どうぞ!案内します!」
元気な声に引っ張られるように馬車を降りると、グラルが馬車を駐車場まで進めてくれるようです。
店内はほぼ満席と言える程に賑わっています。この様子ならかなり期待出来そうだね。
「かぁちゃん!ご新規様6人ご案内だよ!みなさんどうぞ、右奥のテーブルです!」
僕達が席に着くと、奥からいかにも食堂のおばちゃんって雰囲気のエプロン姿の女性が声をかけてきました。
「いらっしゃいませ。お客様方は初めて見る顔ですねぇ。お食事のみかい?それとも、お宿もお探しかい?」
「えーと、女将のブレアさんですか?門番してたトーヤさんから、ここの食事が絶品だって聞きましたもので。
それで、部屋も空きがあれば2部屋お借りしたいです」
「まぁ!そうだったのかい。そりゃトーヤにまた一杯呑ませてやらないとだね!
それでさ、お部屋もあるにはあるんだけど、あいにくとスウィートの一部屋しかないんだよ。
で、安くはないし、皆さま同じお部屋に…は、まずかったかね?」
みんなに、同じ部屋で構わないよなぁと問い掛けると、むしろ歓迎だってさ。
「あ、いえ、みんな家族同然なんで、ぜひお願いします。で、おいくらになりますか?」
「一泊に夕食と朝食がついて、1人金貨2枚だよ。あんた見た感じ、こんな高い部屋泊まるような子に見えないんだけど、大丈夫かい?」
うーん…悪気はなさそうなんだけど、やっぱりそういう風に見えるだろうなぁ。
「女将よ。この方はな、さる大店の跡取りゆえそのような心配は無用じゃよ?のぅ、ユーマ様」
「シア、なんか僕がボンボンの放蕩息子みたいに聞こえるんだけど…
あ、ブレアさん。ご心配なく。そのくらいは自力で稼いでますから、問題ありません。
えーと6人一泊で、金貨12枚ですね。はい、どうぞお納め下さい」
「あらぁまぁ!これは失礼しました。確かに。お部屋は食事の後ご案内で構いませんか?
スウィートにご宿泊のお客様は、サービスでどのメニューでも選んで頂けますから」
女将さんの言葉遣いがいきなり丁寧になったね…
客商売だからそんなもんかなぁとは思うけどさ、あんまり気持ちがいいもんじゃないなぁ。
まぁ、割り切って食事を楽しみにしとこう。
「馬車を停めてくれ!村に用事なら手続きしてもらいたい」
ヨーゼル村は、王都からフランカ市に至る街道の宿場として、クレイドル侯爵家が開発した村である。
また、平坦な地形で、かつ水源となる泉と資源になる森にも近い立地を選んで開発された為、農産品の生産地としての役割も同時に果たしている。
主要な街道は、定期的にクレイドル領軍が魔獣類や盗賊などを駆除することもあり、宿場であるヨーゼル村の住民も、平穏な日々を送っていた。
ところがつい先日、フランカ市で発生した魔物の襲撃事件の結果、大量の避難民が村に押し寄せ、現在村のあちこちに仮の避難民キャンプが作られていた。
「あんた方はフランカ方面から来なすったが、騎士団とは会わなかったかい?
今、村にはフランカの避難民がおるから、あまり余裕がないんだよ。
それで、もし道中の補給やらを考えとられるなら、済まねぇんだが…」
「そうなんですね…補給については間に合ってるんで大丈夫です。騎士団とはすれ違いまして、事情もお聞きしてますから。
とりあえず一晩の宿だけお借りできれば、僕達には問題ないですよ」
「おぉ!そうかい!済まんなぁ…もてなしてやりたいとこなんだが。
じゃあとりあえず、入村記録に記帳してくれるか?規則なんでなぁ」
彼がどうやら、村の門番みたいな立場なんだろうね。
避難民の流入で、一時的な物資不足になってるみたいだから、彼の話にも納得は出来るけどさ。
でも入村記録を取ってる村って初めてじゃないかな?
「はい、ありがとさん。宿は街道沿に何軒かあるから、直接空きがあるかは尋ねてくれよな!」
「ちなみにお勧めの宿ってありますか?多少高くても構いませんので」
「そうだなぁ…部屋に空きがあるかはわからねぇけど、ブレアさんの宿はメシが美味いぞ!
あそこの食堂で飯食うだけでも価値はあるぜ」
そういう事なら一択だよね。仲間のみんなも異論はないみたいだし、早速向かうとしましょう。
「ありがとうございます。その宿に行ってみますね」
「そうかい?それなら道の右手側の、オレンジ屋根の三階建てがそうだ。
女将さんに、トーヤに聞いたって言っといてくれよ。後で一杯ご馳走して貰えるんだ。あ、メシが美味いってのも本当だぜ?」
「あははっ!そうなんですね?わかりました。しっかり伝えておきます」
聞かれたから答えたって感じだったから、きっと嘘じゃないだろうしね。
街道を進むと、ほどなくオレンジ屋根の建物が右手に見えました。広い間口の扉は開かれていて、中からは賑やかな声が漏れ聞こえています。
玄関の前に馬車を停めると、12~3歳くらいの男の子が声をかけてきました。
「いらっしゃいませ!何人様ですか?馬車は裏手に停めておけますよ!」
「ありがとう。えーと、6人なんだけど大丈夫かな?」
「6人様ですね!すぐ入れます!どうぞ!案内します!」
元気な声に引っ張られるように馬車を降りると、グラルが馬車を駐車場まで進めてくれるようです。
店内はほぼ満席と言える程に賑わっています。この様子ならかなり期待出来そうだね。
「かぁちゃん!ご新規様6人ご案内だよ!みなさんどうぞ、右奥のテーブルです!」
僕達が席に着くと、奥からいかにも食堂のおばちゃんって雰囲気のエプロン姿の女性が声をかけてきました。
「いらっしゃいませ。お客様方は初めて見る顔ですねぇ。お食事のみかい?それとも、お宿もお探しかい?」
「えーと、女将のブレアさんですか?門番してたトーヤさんから、ここの食事が絶品だって聞きましたもので。
それで、部屋も空きがあれば2部屋お借りしたいです」
「まぁ!そうだったのかい。そりゃトーヤにまた一杯呑ませてやらないとだね!
それでさ、お部屋もあるにはあるんだけど、あいにくとスウィートの一部屋しかないんだよ。
で、安くはないし、皆さま同じお部屋に…は、まずかったかね?」
みんなに、同じ部屋で構わないよなぁと問い掛けると、むしろ歓迎だってさ。
「あ、いえ、みんな家族同然なんで、ぜひお願いします。で、おいくらになりますか?」
「一泊に夕食と朝食がついて、1人金貨2枚だよ。あんた見た感じ、こんな高い部屋泊まるような子に見えないんだけど、大丈夫かい?」
うーん…悪気はなさそうなんだけど、やっぱりそういう風に見えるだろうなぁ。
「女将よ。この方はな、さる大店の跡取りゆえそのような心配は無用じゃよ?のぅ、ユーマ様」
「シア、なんか僕がボンボンの放蕩息子みたいに聞こえるんだけど…
あ、ブレアさん。ご心配なく。そのくらいは自力で稼いでますから、問題ありません。
えーと6人一泊で、金貨12枚ですね。はい、どうぞお納め下さい」
「あらぁまぁ!これは失礼しました。確かに。お部屋は食事の後ご案内で構いませんか?
スウィートにご宿泊のお客様は、サービスでどのメニューでも選んで頂けますから」
女将さんの言葉遣いがいきなり丁寧になったね…
客商売だからそんなもんかなぁとは思うけどさ、あんまり気持ちがいいもんじゃないなぁ。
まぁ、割り切って食事を楽しみにしとこう。
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