転移先で世直しですか?いいえただのお散歩です

こうたろう

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第六章 王都

第159話

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 苦労性っぽいトマス副隊長と話している間、ケイトと団長さんだというイケメンは、すっかり2人の雰囲気に入り込んでいました。周りは見えてないご様子で。

 「あんなでも、優秀な団長なんですよ?立場上第二騎士団長ですけど、実力的には、第一騎士団長よりもずっと上なんで」

 「立場上ですか?実力じゃなくて」

 「第一騎士団長は、クレイドル侯爵閣下の御次男のアダム・クレイドル子爵閣下なんですよね。
 アベル団長はアダム閣下の甥になりますから」

 なるほど、第一騎士団長はクレイドル侯爵の息子さんか。
 そういえば、ケイトは侯爵の娘の嫁ぎ先の家の出身だって聞いてたような気もするね。

 「アベル団長とケイトお嬢のご実家が、ドルクス伯爵家なんですけど、先代のドルクス伯爵がクレイドル侯爵閣下の腹心だった関係もあって、アダム団長の妹君が嫁がれたんだそうで」

 「トマス副隊長は随分お詳しいんですね?」

 「えぇまぁ。自分の父がドルクス伯爵家の家宰をしてるもので、自然と。
 あぁ、あとウチの隊のジムも、父親がドルクス伯爵家の従士なんです」

 貴族の関係者って事はよくわかったけどさ、こんな御家事情なんかを、簡単に話していいのかね。
 そう考えてるのが顔に出てたのか、トマス副隊長は笑いながら補足してくれました。

 「ちなみに、今した話は別段秘密の事でもないので、どこで話されても構いません。
 ただ、これからする話は内密にお願いします」

 えっ?内緒話は要らないです。

 「実は、近くケイトお嬢に縁談があります。相手はさる伯爵家の世嗣なんですが…」

 「トマス副隊長。私の様な者が聞いて良い話ではないかと」

 そう伝えた途端、トマス副隊長の表情が変わるのがわかりました。
 …ニヤって笑うのやめて下さい。嫌な予感しかしないです。

 「合格です。ユーマ殿。貴方が信用に足る人だと確信しました。これならケイトお嬢…」

 「お断りします」

 「え?いや、まだ何も…」

 わかってます。ケイトを王都まて護衛してくれとか、そういうやつですよね?
 そんなフラグは、建つ前に折ります。

 「申し訳ありません。僕達も都合があって活動してるものですから。ケイトさんは騎士団の方でお引き取り下さい」

 「いや、報酬は…」

 「お断りします。失礼します」

 ほらやっぱり!報酬とか言ってるし…
 あんなお荷物抱えて動くなんてありえません。

 「ま、待って下さい!わかりました!護衛の話は無しでいいです!だからこれだけは聞いて下さいっ!」

  その場から立ち去ろうとした僕の腕を掴んで引き止めると、トマス副隊長の口からは、思いもよらない言葉が飛び出してきたんです。

 「ユーマ殿、どうかこの先、ケイトお嬢に関係する何かに関わる事があったら、お嬢を助けてやってくれませんか?
 自分には、ユーマ殿が頼りになりそうな直感がするんです」

 …何その直感。まぁ、いつかって位ならいいけどさぁ

 「ご期待に添えるかどうか、お約束は出来ませんが、その時は微力を添えさせて頂きます」

 「おぉ!ありがとうございます!これで自分も安心してフランカに向かえます。
 あ、そうだ!ここまでの護衛報酬は…」

 「トマス副隊長。今回の件については、報酬は辞退させて下さい。本当に大した事はしてませんから」

 途中、粗相させちゃったしね。

 「そ、そうですか…わかりました。ではせめてもう一度。ケイトお嬢の護衛ありがとうございました!
 道中のご無事をお祈りします」

 「ありがとうございます。そちらも恙無くフランカに着任できるよう祈ります」

 はぁ…良かった。どうにかケイトを引き取って貰えそうだよ。
 けど、現実的な話、フランカの件は早目に連絡した方がいい事だろうし、僕達と一緒にのんびり行くなんてのは論外だよね。




 「あっ!ユーマ殿!ここまでありがとうございました!
 私は今から団長の命で、大至急王都まで伝令に向かいます。
 また、いつかお目にかかる日まで!」

 馬達にも休憩を取らせた騎士団の中から、僕達の姿を見つけたケイトが走り寄ってきました。
 どうやら、トマス副隊長の取り成しで、イケメンハイスペックなお兄様から解放されたみたいだね。

 「ケイトが世話になった。私はケイトの兄で…」

 「ドルクス男爵閣下ですね。トマス副隊長からお伺いしております。
 護衛の件では何も出来ませんでしたが、お二人の再会の一助となれました事は嬉しく思っております。
 皆様の今後のご無事を、心よりお祈り申し上げます」

 「あ、あぁ…ありがとう」

 何か余計な事を言われるんじゃないかって、思わずかぶせちゃったけど、貴族の言葉を遮ったとかで絡まれなくて良かった。
 アベル団長も、特に裏があったわけじゃなかったのか、言葉の勢いに飲まれてくれたようです。

 「ほら、団長。そろそろ出発させませんと。今から飛ばせば、陽のあるうちにヨーゼルまで辿り着けますから。
 ケイトお嬢も、また捕まりますよ?」

 「あっ、はい!ユーマ殿!改めてありがとうございました!
 では、お兄…いや、団長!これより伝令の任に向かいます!」

 慌ただしく挨拶をしたケイトは、5人の騎士と共に駆け出して行きます。

 「さぁ、団長。我々もフランカへ向かいましょう。先遣隊の連中に何かありましたら、侯爵閣下になんと申し開けばいいのかわからなくなりますよ」

 「そ、そうだな。ユーマ殿、世話になった。
 総員、騎乗!行軍を再開する!トマス!」

 「ユーマ殿、ありがとうございました!さぁ、全隊、団長の指示通りだ!出発!」

 最後に一瞬目が合ったトマス副隊長は、ウインクしてました。
 多分、アベル団長が絡まない様に気を利かせたつもりなんだろうね。

 …ふぅ。騎馬の集団を見送りながら、思わず溜息が出ちゃいました。
 やっと気楽な旅に戻れるね!
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