転移先で世直しですか?いいえただのお散歩です

こうたろう

文字の大きさ
上 下
159 / 170
第六章 王都

第157話

しおりを挟む
 「そっ!そこにいるのは、わ、わかってるぞ!
 こ、こ、こっ、怖くなんかないんだからなっ!かかか、かかってこいっ!」

 さすが騎士団に所属しているだけあるのか、ケイトは姿の見えない敵と戦う気持ちはあるみたい。もしかしたら気配察知くらいは出来るのかな。
 声はめちゃくちゃ震えてるけど、剣を構える姿は、まぁまぁ様になってます。

 『ユーマ君、声はかけないのかい?』

 『いやぁ…ちょっと面白そうなんで、もう少し見ておこうかなぁと』

 「どうしたっ!私が怖いのかっ!大人しく立ち去るなら攻撃はしないぞっ!」

 僕達が動かないのを、躊躇っていると思ったのか、ケイトは、さっきよりも落ち着いた声色で呼びかけてきました。

 「ほらっ!早く行けっ!いつまでも待つ気は無いぞ!」




 「なんなんだっ!いつまでそうしてるつもりだっ!まさか私が疲れて眠るまで待つつもりなのか?
 これでも騎士のはしくれ、このまま朝まで起きてるからなっ」

 『ねぇ、ユーマ君。コレ、キリがないんじゃないかい?』

 『うーん…そうですねぇ。もういいかな。銀、ちょっと威嚇してみて』

 銀は頷くと、一声鳴いてくれました。

 「がうっ!!」

 「ひぇっ!?あわわわ」

 突然の鳴き声に、ケイトは持っていた剣を取り落とし、尻餅をついてしまったようです。

 「ひぃぃぃ…嫌ぁぁ、来ないでぇ。食べないでぇ…」

 完全に心が折れたのか、尻餅をついたまま、ジリジリと後退るケイト。辺りには、ちょっとした刺激臭が漂い始めました。
 あちゃ。粗相しちゃったみたいね…

 「銀!見つかったのかっ?マイラさん灯りをお願いします!」

 駆けつけて来た体で、銀とマイラさんに声をかけると、マイラさんがそれに合わせて灯りを灯してくれました。
 暖かな光が拡がるとともに、ケイトの醜態が露わに…

 「ゆ、ユーマ殿ぉ…」
 
 「大丈夫ですか?ケイトさん。まさか何かに襲われたとか?」

 「そ、そうなんですっ!得体の知れない何かにっ!ユーマ殿が来られなかったらどうなっていたか…助かりました」

 えーと…誤魔化したのかな?
 ズボンがかなり大変な状況になってるのは、気付いてないの?

 ケイトは、僕の視線が顔じゃないところを見てる事に、ようやく気が付いたらしく、自分の下半身が粗相で濡れている事を理解したみたいです。

 「あっ!いや、その、これはっ!」

 「何も見てませんよ?それより戻りませんか?」

 「あぅっ…うぅ…はぃ…わかりました」

 力無く座り込むケイトに手を伸ばし引き起こすと、濡れたズボンが気持ち悪いのか、もじもじしながら歩き始めました。

 「馬車に戻ったら、お湯を用意しますから。身繕いしてください」

 「はい…お手間をおかけします」

 『ユーマ君?もしかして、そういう趣味があったのかい?』

 ちょ!?マイラさん!それ完全に誤解ですからねっ!?



 馬車に戻ると、急ぎ、目隠しと手桶にお湯を入れたものを準備します。

 『ねぇ、ユーマ?どうしたの?あの子。大丈夫?』

 『うん、大丈夫。びびってお漏らししただけ』

 『ふーん。そっか…ってなるかっ!あんた何したのよっ!まさか?ヤラシい事とかしようとしてないわよね?』

 なんでそうなる。

 『するわけないって! ケイトが勝手にびびって漏らしただけだからっ!なんならマイラさんに確認してよ』

 『ほんと?マイラ?なんだか凄く疑わしいんだけど』

 『んー…まぁ、概ねその通りかと。
 しかし彼女、よくアレで騎士団員が務まるなと思いますねぇ。
 怯えて粗相するとは、まるで町娘のようです』

 怪訝そうな顔をするネルに、事の次第を説明してあげます。

 『…ふーん、そっか。つまんないのー』

 おいこらちょっとまて

 『もっとこう、ドラマチックな展開でもあるのかって期待しちゃったじゃない』

 『だから最初から言ってんじゃん。びびって漏らしただけだってさ』

 『そこに至るまでの展開に期待したのよっ』

 あんたは有閑マダムか!
 そんなメロドラマみたいな展開、ありえません。

 「あの、ありがとうございました…」

 「いえ、お気になさらず。さぁ、明日も移動ですから休みましょう」

 「ユーマ殿、お優しいんですね…」

 …ん?なんでそうなる?
 まぁ、いいや。余計な展開で遅くなっちゃったし、今夜はベッドもないからしっかり寝れそうにないしね。




 翌朝目覚めるのと同時に、いつもと違う少し冷やっとした空気に、一瞬自分がどこにいるのか忘れて、軽くパニックになりかけた後、昨夜の出来事を思い出して密かに胸を撫で下ろしました。
 既に空全体が明るさを取り戻し始め、草原の向こうに見える山々の稜線が、黄金色の輝きに包まれています。
 今日はいい天気になりそうだなぁ。

 「お、おはようございます、ユーマ殿。あの、昨夜は…」

 「おはようございます。ケイトさん。昨日は何もなかった。そうですよね?
 もしかしたら今日の内にでも、後発の方々に出会えるかもしれませんから、朝食が済んだらすぐ出発しましょう」

 「あっ…は、はい!わかりました」

 ケイトはきっと普段から早起きなんだろうね。ウチの女神様にも見習ってもらいたいもんです。

 ぐっとひと伸びして周りを見回すと、やはり元軍人のナディアとマイラさんも目を覚ましたようです。

 「マイラさん、ナディア、おはよう。2人ともみんなを起こしてくれるかな?
 僕は朝食の準備してるから」

 2人にそう伝え、僕はカマドに火を熾します。
 残り物のスープに、干した子鹿の肉を解しながら加えて煮ておきます。昨日の角ウサギ肉に塩胡椒をして、カマドの火で炙り焼きすると、身から落ちた脂が燃えて香ばしい匂いが漂って来ました。
 いつもの平パンに炙った肉を挟めば、朝食は出来上がり。
 起きて来たみんなと、手早く済ませましょう。

 片付けを済ませたら、さぁ出発です。
 今日の内に、ケイトを引き渡したいなぁ…
しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

高身長お姉さん達に囲まれてると思ったらここは貞操逆転世界でした。〜どうやら元の世界には帰れないので、今を謳歌しようと思います〜

水国 水
恋愛
ある日、阿宮 海(あみや かい)はバイト先から自転車で家へ帰っていた。 その時、快晴で雲一つ無い空が急変し、突如、周囲に濃い霧に包まれる。 危険を感じた阿宮は自転車を押して帰ることにした。そして徒歩で歩き、喉も乾いてきた時、運良く喫茶店の看板を発見する。 彼は霧が晴れるまでそこで休憩しようと思い、扉を開く。そこには女性の店員が一人居るだけだった。 初めは男装だと考えていた女性の店員、阿宮と会話していくうちに彼が男性だということに気がついた。そして同時に阿宮も世界の常識がおかしいことに気がつく。 そして話していくうちに貞操逆転世界へ転移してしまったことを知る。 警察へ連れて行かれ、戸籍がないことも発覚し、家もない状況。先が不安ではあるが、戻れないだろうと考え新たな世界で生きていくことを決意した。 これはひょんなことから貞操逆転世界に転移してしまった阿宮が高身長女子と関わり、関係を深めながら貞操逆転世界を謳歌する話。

調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜

EAT
ファンタジー
「どうしてこうなった?」 優れた血統、高貴な家柄、天賦の才能────生まれときから勝ち組の人生により調子に乗りまくっていた侯爵家嫡男クレイム・ブラッドレイは殺された。 傍から見ればそれは当然の報いであり、殺されて当然な悪逆非道の限りを彼は尽くしてきた。しかし、彼はなぜ自分が殺されなければならないのか理解できなかった。そして、死ぬ間際にてその答えにたどり着く。簡単な話だ………信頼し、友と思っていた人間に騙されていたのである。 そうして誰もにも助けてもらえずに彼は一生を終えた。意識が薄れゆく最中でクレイムは思う。「願うことならば今度の人生は平穏に過ごしたい」と「決して調子に乗らず、謙虚に慎ましく穏やかな自制生活を送ろう」と。 次に目が覚めればまた新しい人生が始まると思っていたクレイムであったが、目覚めてみればそれは10年前の少年時代であった。 最初はどういうことか理解が追いつかなかったが、また同じ未来を繰り返すのかと絶望さえしたが、同時にそれはクレイムにとって悪い話ではなかった。「同じ轍は踏まない。今度は全てを投げ出して平穏なスローライフを送るんだ!」と目標を定め、もう一度人生をやり直すことを決意する。 しかし、運命がそれを許さない。 一度目の人生では考えられないほどの苦難と試練が真人間へと更生したクレイムに次々と降りかかる。果たしてクレイムは本当にのんびり平穏なスローライフを遅れるのだろうか? ※他サイトにも掲載中

私の入る余地なんてないことはわかってる。だけど……。

さくしゃ
恋愛
キャロルは知っていた。 許嫁であるリオンと、親友のサンが互いを想い合っていることを。 幼い頃からずっと想ってきたリオン、失いたくない大切な親友であるサン。キャロルは苦悩の末に、リオンへの想いを封じ、身を引くと決めていた——はずだった。 (ああ、もう、) やり過ごせると思ってた。でも、そんなことを言われたら。 (ずるいよ……) リオンはサンのことだけを見ていると思っていた。けれど——違った。 こんな私なんかのことを。 友情と恋情の狭間で揺れ動くキャロル、リオン、サンの想い。 彼らが最後に選ぶ答えとは——? ⚠️好みが非常に分かれる作品となっております。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

少年神官系勇者―異世界から帰還する―

mono-zo
ファンタジー
幼くして異世界に消えた主人公、帰ってきたがそこは日本、家なし・金なし・免許なし・職歴なし・常識なし・そもそも未成年、無い無い尽くしでどう生きる? 別サイトにて無名から投稿開始して100日以内に100万PV達成感謝✨ この作品は「カクヨム」にも掲載しています。(先行) この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。 この作品は「ノベルアップ+」にも掲載しています。 この作品は「エブリスタ」にも掲載しています。 この作品は「pixiv」にも掲載しています。

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

処理中です...