転移先で世直しですか?いいえただのお散歩です

こうたろう

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第五章 フランカ市

第149話

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 「うわっ!こりゃまた凄い眺めだねっ!」

 「ふふふっ、そうだねぇ。アタシも何度となく見てるけど、何回見ても見飽きない景色だと思うよ」

 「噂で聞いてはおりましたけれど、これほどまでの美しさだとは、思いもしませんでしたわ…」

 あ、エリーヌ…居たんだ?
 いや、居たのは知ってるんだけど、あんまり会話には入って来ないからさぁ。

 「エリーヌはフランカへ来たの初めてなんだ?」

 「はい。わたくしの役目柄、旅となれば領内の村か、もしくは近隣の領都ばかりでしたの。
 ですから、こうして噂に名高いフランカの風景を、目の当たりに出来て感激ですわ」

 エリーヌとマイラさんの説明によれば、ここから見る景色をテーマにした詩を吟遊詩人が唄うそうです。
 それは、鉱山で一稼ぎしようとやってきた見目麗しい青年と領主代理の娘との、決して結ばれる事のない、悲しい恋物語。
 その中で、青年が娘に一目惚れした時の衝撃を、この峠からの景色に例えて表現する部分と、領主代理に街を追われて逃げ落ちる際、表立って言えない娘への思いを比喩するのに、この景色を例えて表現する部分があるんだってさ。

 「『あぁ!麗しきフランカの白肌よ!僕には高い壁だったけど、その美しさは永遠に僕を捉えて離さない!』だったかな?」

 「そうです!マイラさん凄いっ!その歌詞、わたくしが1番好きな歌詞ですのっ」

 「あー…エリーヌは娘側の人だもんね。そういうやつに憧れちゃったりするだろうなぁ」

 でも、往々にしてそういう男って、ナルシストでヒモ体質のダメ男ってパターンが多いよね。恋に恋しちゃうお年頃にかち合うと不幸しか生まないやつ。

 「ユーマ君…」

 「そんな実も蓋もない事を言わないで下さいまし…」

 「エリーヌ、現実は厳しいのよ?ユーマみたいな優良物件なんて滅多に転がってないんだから」

 …ヤダ照れる

 「けど、物件としては優良でも、気苦労だけは絶えないわね」

 …上げて落とすなし

 「あっはっは!ネル様の仰る通りだねぇ、ユーマ君」

 マイラさんまで…

 「まぁ、気苦労するだけの価値があるんだからいいのよ」

 「そうですねぇ…ほんとに」

 上がったり下がったり、凄く疲れるんですけど…



 峠からの景色に一頻り盛り上がった後、再び馬車を進めます。
 下りの山道はつづら折りになっていて、一気に標高を低くしていきます。
 道が緩やかになるとともに、周りには徐々に緑が増え、いつしか背の低い草原に変わりました。
 狭い草原の先には、上から眺めた高い白壁と城門が見えます。

 しかし、近付くにつれて、真っ白に見えていた城壁の所々に、重量物が衝突した様な凹みやひび割れが目立つ様になってきました。
 そして、恐らくかつては立派であっただろう門扉も、あちこちひしゃげ、もはや門扉として遮る力を失っています。右の扉など、一部の蝶番で辛うじて繋がっているだけです。

 馬車が門に近づくと、先程まで木立に隠れて見えなかった位置の白壁に、大きな裂け目がありました。
 恐らく、ここから魔物の群れが街に侵入したんだろうなぁ…

 「相当荒っぽいやり方だったみたいだねぇ…」

 「まぁ魔物ですからね。力技でこじ開けたんでしょうけど…」

 ふと、小さく呟く声に振り向くと、そこには指を組み祈る様に呟き続けるナディアの姿が。

 「…ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

 「ナディア、大丈夫だよ。誰もナディアを責めてなんかいないから。ほら、おいで?落ち着こう?」

 ナディアの肩を引き寄せ、固く組まれた両手の上に手を重ねると、彼女は潤んだ目で僕を見つめてきました。

 「だって、だって…わたし達のせいで沢山の人を傷つけて…」

 「それはそれだよ?ナディア1人でやったわけじゃないし。
 軍隊っていう組織に属してる限り、責任は命令を下した人にあるんだからさ。
 罪の意識を持つのは悪いことじゃないし、怪我したり亡くなった人達には謝罪する意識を持つべきだと思うけど、それをナディア1人で背負う必要はないから」

 「うん…でも…」

 最初出会った時の雰囲気は、もう何一つ見当たらなくなってる。でもきっと、罪の意識に苛まれてる今の姿こそ、ナディア本来の性質なんじゃないかなって気がします。
 軍人という仮面を外した、素のナディアは優しい子だったんだろうなぁ…

 「ナディア。よく聞いて?ナディアは今、僕の奴隷になってるよね?立場は犯罪奴隷か戦争奴隷かわからないけど、今のこの状況は罪を償ってるって事なんだよ。
 もちろん、被害に遭った人やご遺族方には恨まれるんだろうけど、もうナディアは僕の奴隷として罪を償ってるんだから、ナディアに対する恨みからは僕達が守るよ。
 だから、もう怯えなくても詫びなくても大丈夫だから」

 「いいの?本当にいいのかな?わたし赦してもらえるのかな…?」

 「申し訳ないって気持ちがあるんだから、大丈夫だよ」

 ナディアは小さくありがとうと呟くと、俯いた顔を上げ、大きく頷きました。

 「わかった。取り乱してごめんなさい。わたしはユーマさんの奴隷として罪を償っていくね!
 よろしくお願いします!ご主人様」

 「ご主人様呼びはやだなぁ…いつも同じ様にしてよ?」

 「くすっ…はーい、ユーマさん!」

 良かった。ナディアに笑顔が戻りました。


 そして、ようやく僕達はフランカの街に足を踏み入れる事が出来たんです。
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