転移先で世直しですか?いいえただのお散歩です

こうたろう

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第五章 フランカ市

第143話

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 広場の隅のカマドからは、山羊肉の香ばしい香りが立ち昇っています。

 かつて社員旅行で行った南国の山羊料理は、あの独特の香りがどうしても好きになれなかったんだけど、幸い暴君山羊タイラントゴートの肉からは気になるような匂いも感じられなくて良かったです。

 肉を焼く横では、収納から取り出した野草類と、オーク肉の肉団子が入ったスープが湯気を立てて、これもまた食欲を刺激する香り。

 もうみんな待ち切れないと言うような表情になってるので、そろそろ頂きますをしましょうかね。

 「さぁ!食べよう!いただきまーす」

 声を掛けると同時に、山羊肉に群がるみんな。ちょっと!スープも食べようよ。

 「肉は食べ頃があるのよっ!焦がしたら勿体ないじゃない!」

 皿に山羊肉を山盛りにしたネルが、僕の隣にやってきました。

 …ねぇ?重くない?

 あの身体のどこに入るのかって思うけどね。
 まぁ、本人曰く、元のサイズベースで食べられるらしいから、普通の量って言えばそうなんだけどさ。

 「髪飾り出そうか?食べるの大変でしょ?」

 「魔力の無駄遣いはしないのよ。別にこのままでも平気なんだからいいじゃない」

 うん、ネルがいいなら別に構わないけどさ。

 「それより、何コソコソやってたのよ?」

 「ふふっ。ヒミツ。ご飯の後ね!まぁお風呂なんだけどさ。
 僕も、さっきネルが風羽花達と何話してたのか知りたいな」

 「それこそヒミツね。ちょっとしたお悩み相談よ。すぐに解決するような話じゃないから」

 なんだろ?まぁネルが秘密にするって事は、それほど大問題じゃないだろうけど…

 「ユーマ君、そろそろアレを出してくれないかい?」

 マイラさんも、山羊肉が山盛りになってる皿を持ちながら近づいてきます。

 「アレって何よ?」

 「え?暴君山羊の部位。凄いいい肉なんだってさ」

 「ユーマ君…」

 ネルが興味津々な様子で問いかけてくるので、思わずはぐらかしちゃったら、マイラさんにジト目で見られました。

 「何よ?気になるじゃない。もちろん私の分もあるんでしょうね?」

 「どんだけ食い意地張ってんのさ…心配しなくたって沢山あるから大丈夫だよ。
 凄い魔力が豊富な部位みたいでさ、一応グラルとエリーヌはお裾分けにした方がいいらしいんだけどね」

 「へぇ…魔力酔いするかもしれないわけね?私は問題ないか」


 マイラさんとカマドに向かいながら、みんなに声を掛けて集合してもらいました。

 「今から出す肉は、特別な部位みたいなんだよね。
 で、グラルとエリーヌには申し訳ないんだけど、沢山食べたら体調を崩す可能性があるから少しだけね。別に差別してるわけじゃないから。
 他のみんなはどんどん食べて!」

 風羽花や銀、銀の配下狼達にも塊で焼いた肉を出して行きます。

 『ふぉーっ!!めちゃくちゃ美味しいのですっ!こんなお肉は初めてなのですっ!』

 『確かにっ!コレは凄いでござるよ!体中に力が漲る様でござるなっ!』

 風羽花も銀も随分と気に入ったみたい。焼きあがる側から次々と食べて行きます。

 「確かに凄いわね。前のオークジェネラルの肉も、さっきの山羊肉も美味しいと思ってたけど、コレはそれ以上じゃない。
 しかも漲ってくるわね。コレ食べたら一瞬位なら元に戻れそうだわ」

 え?まじすか?そんなに凄いの?

 「なんだか全身があったかくなる感じね。で、コレって何処の肉なのよ?」

 「え?それ聞いちゃう?いいのかなぁ…?」

 マイラさんをチラっと見ると、苦笑いしながら頷いてます。

 「何をもったいぶってんのよっ!早く教えなさい?」

 「いやぁ…そのさぁ…えーとね、山羊の睾丸」

 「…ふぁっ!?こ、こ、こ、睾丸っ!?な、なんてもん食べさせんのよーっ!?」

 聞いた途端、真っ赤になって叫ぶネル。
 だから言いにくかったのに…

 と、まさにネルが叫んだ瞬間、思いもよらなかった事が起きたんです。

 『ふぉーっ!なのですーっ!』

 『な、なんでござるかーっ!?』

 『アォーン!!?』

 風羽花達の身体が光り輝いて、一瞬周りが見えなくなる程の眩しさを見せます。

 コレってまさか…

 光が収まると、そこにいたのは一回り大きくなった風羽花らしい鳥と、牙が長くなり体格が倍程になった銀らしい狼と、以前の銀の様な姿になった狼達でした。

 「あら?凄いじゃない。ふーちゃん達も進化したのね」

 「ネルはなんでそんなに落ち着いてんの?」

 「え?当たり前じゃない。私が変身出来るくらいの魔力なのよ?ふーちゃん達に影響ないわけ無いもの」

 ネル的には直ぐに気付く事だったみたいだけど、僕もマイラさんも全く予想してなかった出来事でした。

 「まさかだよ…コレは想定外だねぇ。言われてみれば確かにネル様の言う通りなんだけど」

 「そうですね。確かにこの可能性には考えが至りませんでした…」

 巴が進化した時の事だって、すっかり記憶の片隅に追いやられて、忘れてたって言われても否定出来ないもんなぁ…

 進化した本人達も、自身の変化にだんだん興奮し始めたみたいで、なにやら騒いでいます。

 それはそうと、進化したみんなは何になったんだろ?

 そんな時は、この人に頼るしかないですね。
 マイラさーん!





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