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第五章 フランカ市
第138話
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「バカねぇ、マイラ。ユーマにそんな説明したら逆効果に決まってんでしょ。
見なさい?あの顔。絶対なんか企んでるわよ?」
「…タクランデマセン」
「ほら、自白してんじゃん。あれは止めても無駄な顔よ?というわけで、この件はマイラが担当しなさいよね。
アンタが監督しながらやれば、多少はマシでしょ」
さすがネル。わかってらっしゃる。
「アタシはなんて事を…」
「まぁ、いいじゃない。もしかしたら、伝説の生まれる瞬間に立ち会えるかもしれないのよ?
末代まで自慢できるか恥を晒すか知らないけど」
「なんで、薄っすら笑いながら言いますかねぇ…」
さすがネル。わかってらっしゃる。
正直言って、やらない選択肢はないので、マイラさんに監督して貰いながらでもやれるんだったら文句はないしね。
せめて、マイラさんが自慢できる様なモノを作ってみせよう。
昼休憩を終えた僕達は、再び峠道を進み始めました。
幸いな事に空は澄み渡り、進行方向の左手に聳える少し赤茶けた色の岩山の頂上と、空の青さとのコントラストは、昔映像で見た秋晴れと紅葉の風景の様な鮮やかさです。
「ねぇ、ネル。今更なんだけどさ、ガイアスにも四季ってあるの?わりと過ごし易い日が続いてるし」
「四季?季節ならあるけど、4つじゃないわよ。今は中間期ね。段々、降雨期に移行していく途中だわ。
降雨期の後は降雪期になって、その後はまた中間期で、それから高温乾燥期になってって感じね」
「降雨期しか雨降らないわけじゃないよね?」
こっちに来てから雨に降られた記憶はないんだけど、偶然なのかな?
「そりゃそうよ。ただ雨がちな日が続くから降雨期って呼ぶだけだし、乾燥期だって大雨が降る日もあるわ」
「そうなんだ?じゃあ、分け方が違うだけで地球と似てるかも知れないね。
僕がいた国では春夏秋冬って言い方してたけど、ガイアス風に細かく考えてみると、春と秋が中間期で、夏が高温乾燥期かな?乾燥はしてなかったけど。で、冬が降雪期かな。夏の前後に降雨期があるって感じだった」
「へぇ、雨がちな時期とか雪が降る時期を分けて呼ばないのね」
日本語にはもっと細かい季節わけの言葉が沢山あったけど、多分説明しても伝わらないだろうなぁ…
「うん、世界全体で見ると地域によって随分変わるからじゃないかな。
そう考えてみると、似てかる所もあるけどやっぱり異世界なんだなぁって思うよ」
「そう?まぁ、そういう事は深く考えちゃダメよ?私だって植物の成長に都合いい様に決めただけだしね」
…あ、そうか。ネルが創った世界だったね。すっかり忘れてた。
「なぜだか、アンタが今何を思ったか読まなくてもわかったわ…」
…遠い目をするのはやめて下さい。
「旦那!まずいぜ!ヤバい奴がいやがるっ!」
馬車の中の和やかムードを打ち破ったのは、そんなグラルの叫び声でした。
「でけぇ…暴君山羊が出やがった!」
グラルの示す方に目を遣ると、峠道脇の大きな岩の上に、馬車よりも大きい山羊がいます。
そいつまでの距離は50メートル位あるはずなのに、まるですぐ近くにいるかの様な感じ。遠近感が狂うな。
『暴君山羊は、小さいものでも肩高2メートル、大きいものでは肩高3メートルを超える個体が確認された事がある。
山羊らしい縦型の瞳孔は赤く、青白い体毛に覆われた頭からは大きく湾曲した2本の角を生やしている。
食性は雑食であるが、好んで肉食をする。
筋肉質の分厚い胸板の下に骨張った前脚を持ち、その蹄は鉤状の先端をしており獲物を捉え引き裂く事が可能になっている。
主に標高が高い山地を棲家としているが、食料調達の為に麓に降りてくる事も多く、暴君山羊の棲む山地では、何処で遭遇してもおかしくはない。
動きは俊敏で、岩山を駆け回る強靭な下肢が生み出す瞬発力を利用した体当たりや角の攻撃は、高山地帯の暴君と呼ばれるに相応しい威力である。へ
幸いな事に、体表の防御力は低く、物理・魔法ともに攻撃は通りやすいが、その身体の大きさからくる体力・スタミナは侮れない上、その俊敏な動きのせいでそもそも攻撃を当てる事が大変だろう。
遭遇した場合、逃げる事は推奨出来ない。むしろ積極的に接近し、スピードを出せない様な距離を作る事で、攻撃力と回避力を落とすべきだ。上手く足止めし、機動力を発揮させない状況さえ作れば討伐は不可能ではない。
ただし、最善は出会わない事だと言っておこう。
幸運にも討伐出来た際は、その肉の味には期待して良いと追記しておく。』
冒険者ギルドが作成する魔獣・魔物全集にはこんな文章が記載されてるんだそうです。さすがマイラさん。
で、目の前にいるやつは、どうみても確認されてる最大を超えてるよね…
「まずいねぇ…最悪のパターンじゃないかい?」
…だよねー
「とにかく接近した方がいい。速度が乗り切る前に対処しないとねぇ」
「グラル!巴!全速力で走って!」
そう指示すると同時に速度が上がる馬車。巴のパワーのおかげで、登り坂を物ともせず加速していきます。
ほぼタイミングを同じくして、暴君山羊も岩を駆け下り加速して来ました。
時間にして十数秒。みるみる暴君山羊が近づいてきます。
衝突する!
そう思った瞬間、暴君山羊は跳躍し馬車を飛び越えていきました。
「しまった!距離を取りに行かれたよ!こっちが反転出来ないのがわかってるみたいじゃないか」
振り返ると、見事に着地を決め、即座に反転して駆け上がってくる暴君山羊の姿が見えたんです。
その無機質な山羊の顔は、嗤っている様に感じられました。
見なさい?あの顔。絶対なんか企んでるわよ?」
「…タクランデマセン」
「ほら、自白してんじゃん。あれは止めても無駄な顔よ?というわけで、この件はマイラが担当しなさいよね。
アンタが監督しながらやれば、多少はマシでしょ」
さすがネル。わかってらっしゃる。
「アタシはなんて事を…」
「まぁ、いいじゃない。もしかしたら、伝説の生まれる瞬間に立ち会えるかもしれないのよ?
末代まで自慢できるか恥を晒すか知らないけど」
「なんで、薄っすら笑いながら言いますかねぇ…」
さすがネル。わかってらっしゃる。
正直言って、やらない選択肢はないので、マイラさんに監督して貰いながらでもやれるんだったら文句はないしね。
せめて、マイラさんが自慢できる様なモノを作ってみせよう。
昼休憩を終えた僕達は、再び峠道を進み始めました。
幸いな事に空は澄み渡り、進行方向の左手に聳える少し赤茶けた色の岩山の頂上と、空の青さとのコントラストは、昔映像で見た秋晴れと紅葉の風景の様な鮮やかさです。
「ねぇ、ネル。今更なんだけどさ、ガイアスにも四季ってあるの?わりと過ごし易い日が続いてるし」
「四季?季節ならあるけど、4つじゃないわよ。今は中間期ね。段々、降雨期に移行していく途中だわ。
降雨期の後は降雪期になって、その後はまた中間期で、それから高温乾燥期になってって感じね」
「降雨期しか雨降らないわけじゃないよね?」
こっちに来てから雨に降られた記憶はないんだけど、偶然なのかな?
「そりゃそうよ。ただ雨がちな日が続くから降雨期って呼ぶだけだし、乾燥期だって大雨が降る日もあるわ」
「そうなんだ?じゃあ、分け方が違うだけで地球と似てるかも知れないね。
僕がいた国では春夏秋冬って言い方してたけど、ガイアス風に細かく考えてみると、春と秋が中間期で、夏が高温乾燥期かな?乾燥はしてなかったけど。で、冬が降雪期かな。夏の前後に降雨期があるって感じだった」
「へぇ、雨がちな時期とか雪が降る時期を分けて呼ばないのね」
日本語にはもっと細かい季節わけの言葉が沢山あったけど、多分説明しても伝わらないだろうなぁ…
「うん、世界全体で見ると地域によって随分変わるからじゃないかな。
そう考えてみると、似てかる所もあるけどやっぱり異世界なんだなぁって思うよ」
「そう?まぁ、そういう事は深く考えちゃダメよ?私だって植物の成長に都合いい様に決めただけだしね」
…あ、そうか。ネルが創った世界だったね。すっかり忘れてた。
「なぜだか、アンタが今何を思ったか読まなくてもわかったわ…」
…遠い目をするのはやめて下さい。
「旦那!まずいぜ!ヤバい奴がいやがるっ!」
馬車の中の和やかムードを打ち破ったのは、そんなグラルの叫び声でした。
「でけぇ…暴君山羊が出やがった!」
グラルの示す方に目を遣ると、峠道脇の大きな岩の上に、馬車よりも大きい山羊がいます。
そいつまでの距離は50メートル位あるはずなのに、まるですぐ近くにいるかの様な感じ。遠近感が狂うな。
『暴君山羊は、小さいものでも肩高2メートル、大きいものでは肩高3メートルを超える個体が確認された事がある。
山羊らしい縦型の瞳孔は赤く、青白い体毛に覆われた頭からは大きく湾曲した2本の角を生やしている。
食性は雑食であるが、好んで肉食をする。
筋肉質の分厚い胸板の下に骨張った前脚を持ち、その蹄は鉤状の先端をしており獲物を捉え引き裂く事が可能になっている。
主に標高が高い山地を棲家としているが、食料調達の為に麓に降りてくる事も多く、暴君山羊の棲む山地では、何処で遭遇してもおかしくはない。
動きは俊敏で、岩山を駆け回る強靭な下肢が生み出す瞬発力を利用した体当たりや角の攻撃は、高山地帯の暴君と呼ばれるに相応しい威力である。へ
幸いな事に、体表の防御力は低く、物理・魔法ともに攻撃は通りやすいが、その身体の大きさからくる体力・スタミナは侮れない上、その俊敏な動きのせいでそもそも攻撃を当てる事が大変だろう。
遭遇した場合、逃げる事は推奨出来ない。むしろ積極的に接近し、スピードを出せない様な距離を作る事で、攻撃力と回避力を落とすべきだ。上手く足止めし、機動力を発揮させない状況さえ作れば討伐は不可能ではない。
ただし、最善は出会わない事だと言っておこう。
幸運にも討伐出来た際は、その肉の味には期待して良いと追記しておく。』
冒険者ギルドが作成する魔獣・魔物全集にはこんな文章が記載されてるんだそうです。さすがマイラさん。
で、目の前にいるやつは、どうみても確認されてる最大を超えてるよね…
「まずいねぇ…最悪のパターンじゃないかい?」
…だよねー
「とにかく接近した方がいい。速度が乗り切る前に対処しないとねぇ」
「グラル!巴!全速力で走って!」
そう指示すると同時に速度が上がる馬車。巴のパワーのおかげで、登り坂を物ともせず加速していきます。
ほぼタイミングを同じくして、暴君山羊も岩を駆け下り加速して来ました。
時間にして十数秒。みるみる暴君山羊が近づいてきます。
衝突する!
そう思った瞬間、暴君山羊は跳躍し馬車を飛び越えていきました。
「しまった!距離を取りに行かれたよ!こっちが反転出来ないのがわかってるみたいじゃないか」
振り返ると、見事に着地を決め、即座に反転して駆け上がってくる暴君山羊の姿が見えたんです。
その無機質な山羊の顔は、嗤っている様に感じられました。
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