転移先で世直しですか?いいえただのお散歩です

こうたろう

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第五章 フランカ市

第123話

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 旅立ちの日の朝は、少しだけ感じる寂しさと、これから先への期待感で感情的になります。

 昨日、馬車の改良を済ませた後は特に語る事もなく、宿に戻ってゆっくり休みました。



 さて出発と言う時になり、厩舎に向かったところで、不思議な事に巴がいつもより荒れています。
 グラルが必死に宥めてくれているみたいだけど…

 『巴。どうかしたの?落ち着きなよ』

 『旦那様?誰のせいだと思ってるわけ?ウチだって女の子なんだからねっ!昨日は絶対ウチの番だと信じてたのにっ!』

 まさかの返答です。
 昨日の出来事の結果、勘違いを放置したせいでした…

 『あー…巴さ、流石に街中で人化させられるわけないって。
 待っててくれたのは嬉しいし、待たせてごめんだけど、そこはわかって欲しいな』

 『あっ!そゆこと?なんだ、ウチてっきり弄ばれたのかと思ってたから…ごめんなさい!旦那様!ウチの事嫌いにならないでっ!』

 『怒ってないから大丈夫だよ。それより出発するから協力してくれないかな?』

 落ち着いた巴は大人しく馬具を身に付け、馬車に繋がれてくれました。よかったよかった…

 「今夜は巴を受け入れなさいよね。ユーマ、あんたも少しは女の子の扱い方に慣れないとダメよ」

 「へいへい、頑張りますよっと…」

 ネルにそう返しながら手綱を取り、馬車を表に廻していきます。
 宿の前でみんなと合流すると、御者をグラルと交代して背後に移動します。村を出る前に、冒険者ギルドに寄らないとね。


 「ユーマ君。気のせいじゃないと思うけど、随分と馬車の揺れや音が静かになってやしないかい?」

 「そうなんです。昨日整備に向かった時に…」

 ギルガルさんとの一連の出来事を説明すると、マイラさんからは感嘆の声が上がりました。

 「そんな人物がこんな片田舎にねぇ…聞いた感じだけなら、研究者としても一流なんじゃないかい?いろいろと話を聞いてみたいもんだよ」

 「きっとマイラさんとなら話が弾むんじゃないですかね。
 過去の話なんてしませんでしたけど、多分もっと大きな街で仕事してたんだと思います。
 ただ、やっぱりちょっと変わってるって言うか、性格にクセがあるタイプだと思うので、色々煩わしかったんじゃないですか?」

 「あははっ!まぁ一流どころにはよくある話さ」

 そう言うマイラさんだって、調薬や魔法の腕も一流なくせに、ガルドみたいな辺境にいましたけどね。
 とか、思っても言えないので微妙な顔になってたようです。

 「なんだい?その顔は。アタシは必要があったからガルドに居ただけだからね?一緒にしないでくれないかい?」

 「なんにも言ってないじゃないですか!グリグリするのはやめましょうよ!」

 握り拳でこめかみに攻撃するのはやめてください。

 そんな感じの和やかムードの僕達の反対側では、エリーヌとシアが何やら話し合っています。
 いつの間にか仲良くなったみたいだね。
 なんの話をしてるのか尋ねようとした時、ちょうど馬車が停止して、グラルが冒険者ギルドに到着した事を教えてくれました。
 話の内容聞きそびれちゃったなぁ…


 「よし、行こうかユーマ君。打ち合わせ通り、あのダークエルフの子とはアタシが話するから。
 ユーマ君は、あの子にアタシを紹介したら先に戻ってくれればいいよ」

 マイラさんに任せる事自体は、少し申し訳ない気もするけど、きっと僕がいない方が話しやすいんだろうね。

 みんなを馬車で待たせ、マイラさんとネルと共にギルドに入ります。
 まだ午前の早い時間という事もあり、依頼書を見たり依頼受注をする冒険者が、ちらほらと残っているようです。
 まっすぐ受付カウンターへ向かうと、奥の方から声がかかりました。

 「おぉ!ユーマ殿!これから出発だったか?
 そうか、例の件だな?あの2人なら会議室に待たせてるぞ。一応話は聞いてる。手間をかけさせて申し訳ない」

 「こちらこそです、カウフマンさん。会議室お借りしてもいいですか?マイラさんが彼女達と話したいそうで」

 「そうなのか?構わないぞ。職員達にも近寄らない様に言っておいた方がいいよな?
 それから、話が済んでから俺の所にも寄ってくれるか?少しだけ伝えときたい事がある。所長室に詰めてるから声かけてくれ」

 カウフマンさんの配慮に感謝して、僕達は会議室へと向かいます。
 会議室の扉は開かれたままで、中にライサさんとミラさんが座っている姿が見えました。

 「おはようございます。2人ともわざわざありがとう」

 そう声をかけながら中に入り、立ち上がろうとする2人を制しながらマイラさんを紹介します。

 「あ、座ってて。紹介するね。この人は僕の仲間でマイラさん。
 少しライサさんと話したいんだって。大丈夫かな?」

 2人とも一様に少し驚いた表情をしたものの、頷いてくれました。
 僕達が席に着くと、ミラさんが話始めました。

 「ユーマさん、昨日は無理なお願いしてすいませんでした。あの後2人で色々話をしたんです。
 それで、勝手な話なんですけど、わたしはこの話からは降りる事に決めました。
 所長から話を頂いた、ギルド職員として冒険者達のサポートしながら、亡くなった仲間達の弔いをしようと思います。
 だから、どうかライサだけでもお願い出来ないでしょうか?」

 え?そうなの?ちょっと出鼻を挫かれた様な気がします。

 「そうなんですね。カウフマンさんにもよくお願いしておきますよ。
 ライサさんの件も、わかったって言ってあげたいけどさ、マイラさんと話してからかな。
 出来たら2人きりで話したいそうだから、僕は今からカウフマンさんの所に行くんだ。ミラさんも外してもらっていいかな?」

 「わかりました。ライサ、わたし先に行くね。また後で」

 「マイラさん、後はお願いします。先にカウフマンさんと話してくるんで、先に済んだ方がロビーで待つって事で」

 マイラさんは軽く手を挙げて、了解のサイン。2人の残る会議室を後にして、僕は所長室に向かいます。
 何の話なんだろ?
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