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第四章 プラム村

第120話

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 巴の状態は万全でした。
 グラルの頑張りを評価してあげなきゃだね。

 「ありがと、グラル。巴の調子いいみたい。明日から結構ハードになりそうだから助かるよ」

 「そりゃよかった。巴の事は任せて下せぇ。出発までに完璧に仕上げときます」

 これが元盗賊の頭だったって言われても、信じる人とかいないんじゃないかなってくらい、いい仕事してくれてる。
 あ、でもよく考えてみると地球でも、元ヤンチャしてた人の方が、仕事には真面目に取り組んでた様な気もするなぁ。
 特に現場で作業してる職人さんって、そういうタイプの人が多かったし、逆に跳ね返りの若い子なんかには、滅茶苦茶厳しく指導してたよね。
 グラルからは、そんな職人に似た雰囲気がします。

 僕は、巴をグラルに託し、馬車の状況点検と整備をしに行く事にしました。


 宿の裏手に廻ると、僕達の馬車の下を覗き込む男が1人。

 「何かご用ですか?その馬車の持ち主ですけど」

 声をかけられた事に驚いたのか、その男はヘリに後頭部を打ち付けました。痛そう…

 「ぐむむむぁ…いきなり声をかけんでくれ!びっくりするではないか!」

 「いや、どなたか知りませんけど普通に不審者ですから。
 で、何をしてたんですかね?
 事の次第によっては、守衛隊に同行してもらわないといけませんけど」

 「なんもしとらんわい!なかなか変わった馬車を見かけたもんじゃから、少々見ておっただけじゃ!
 それにしてもコイツは大したもんじゃな。ワシも初めて見る衝撃吸収機構じゃ。
 ワシの知らん間に、こんなモンが売りに出される様になっとるとは…やはり田舎では新しい技術からは取り残されるということか」

 痛む後頭部をさすりながら立ち上がった男は、恐らくドワーフなんだろう。筋肉質でずんぐりとした体型に、立派なヒゲをはやし、両手にはエンジニアグローブのような厚手の手袋をしています。
 煤で汚れた前掛けを見る限り、鍛冶屋なのかな?

 「アンタ、コレをワシに売らんか?替わりの馬車も用意してやるぞ」

 「無理ですね。これ一点物ですし、まだ耐久試験のデータ集めしてる途中なんで。
 ちなみに原価で大金貨20枚ですけど」

 「だ、大金貨20枚じゃと!そんなにするんか…さすがにその額では買い取れん。
 しかし、一点物と言うたの。まだ量産はされておらぬか。
 ふむ…ワシが思うにコレはまだ商品化出来んのではないか?」

 このドワーフ見る目がある気がする。
 確かに商品化は出来ないし、耐久性だってかなり厳しいだろうからね。

 「どこから来たか知らんが、軸が随分と傷んでおる。それだけ負担があると言う事は、相当重いじゃろ?コレを曳く馬も長くは保たんのではないか?
 その問題を解決せん事には売り物にはならんじゃろ」

 「やっぱり傷んでますか。言われた通りかなりの重量があります。
 まぁ、今コレを曳く馬はちょっと特別な子なんで大丈夫なんですが、製作者の話では、普通の馬だと1日保たなかったみたいですよ。
 解決の方法はあるんですけどね。まだ完成してないんで、とりあえず車軸交換しようかと思ってましたし」

 「方法とな?ワシも技術屋としての腕には自信があるがの、コイツをどうにかする手段など全く想い到らんのじゃが…」

 どうしようかな…この人信用出来る様な気もするし話してみようかな。

 「ユーマ、技術の発展は歓迎よ?悪用する人もいるけど、それはあなたの責任じゃないわ」

 ネルがそっと伝えてくれました。そうだよね。
 僕は収納から作りかけのベアリングを取り出すと、彼に見せながら説明をします。

 「コレ見て貰えますか?コレを軸受に使います。形状はほぼ完成してて、あとは内部を粘度の高い潤滑剤で満たせば…」

 「これは!?…そうか分散するのだな。さらに潤滑剤を満たす事ですり減りを少なくするか。
 よく考えておる。そして後は潤滑剤というわけじゃな。
 …むっ!?アレならばちょうどいいかもしれん!
 お主、今時間はあるか?ワシの工房まで来てくれんか」

 「えっ!?まぁ構わないですけど…」

 なんか急に誘われたびっくりするじゃん。それにまだ、お互い名乗り合いすらしてないのにさ。

 「なんじゃい、その疑わしげな顔は?
 あぁそうか、ワシはこのプラム村で鍛冶屋をしとる、ギルガルというモンじゃ。
 日用品から農具、治安部隊や守衛隊の武器防具の製作やら修繕と、あれこれ小道具なんぞを手掛けておる。
 決して怪しい人間ではないぞ?」

 「そうなんですね。僕はユーマ、それからこっちがパートナーのネルです。
 それでギルガルさん。工房には何を?」

 「あぁ、その変わった軸受に役立ちそうな物があるんじゃよ。試してみん事にはわからんが」



 ギルガルさんの工房は、村の中でも少し奥まった場所に建てられてはいるものの、がっしりとした石造りの建物でした。
 炉の煙突があり、森から来る水源を確保する為の水路が引かれているあたり、本格的な鍛冶工房なんだろうね。
 
 「少々狭いがついてこい。目的の物はこの先の倉庫に入っとるんじゃ」

 工房の倉庫の中には、鍋釜や農具に加え、刀剣類や鎧などの装備品まで所狭しと並べてあります。
 ギルガルさんは、奥の壁に据え付けられた棚の、一番下に置かれた樽を持ち上げると作業場へと運んでいきます。

 「コレがそうじゃ。ちと癖のある匂いじゃが我慢せぇ」

 作業台の横に樽を置くと、ニヤリと笑いながら蓋を取るギルガルさん。
 樽の中には薄明かりを反射する、液体らしい物が。
 これって…


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