110 / 170
第四章 プラム村
第108話
しおりを挟む
プラム村の門扉は、既に限界に近い状態で、辛うじてオークの侵入を防いでいるに過ぎなかった。
度重なる打撃を受け、砕けた場所からは村の内部を覗き見る事も可能な程に破壊されつつある。
「ロベルト隊長!もう限界です!」
「仕方ない…守衛隊は治安部隊の援護に回れ!
バルド隊長!申し訳ない!これ以上の維持は不可能だ!後は頼む!」
「守衛隊!よくここまで耐えてくれた!これより我々が迎撃する!
長槍兵!隊列を乱すなよ!接近前に確実にダメージを与えるんだ!一度に何匹も入れやしないからな!
二撃目は剣兵隊に任せるつもりで構わん!
来るぞ!」
砕けた門扉を抜け、積み上げられた土嚢を力任せに突き崩して、ついにオークが村の敷地内に姿を現わす。
先頭をきって侵入を果たしたオークは、その先にあるはずの歓喜を想像し、一瞬獰猛な笑みを浮かべた直後、全身に突き立てられた鋭い痛みに叫び声を上げる。その叫びも叩き込まれた斬撃により中断し、そのまま生き絶えたのだった。
「よし、その要領だ!死体は手が空いた者が運べ!確実に始末するぞ!」
次々と侵入してくるオークを堅実に倒す治安部隊ではあったが、バルドの胸中は穏やかではいられない。
訓練を受けた兵士とはいっても、人間である以上は体力に限界があるのだ。あとどれだけ倒せばいいかわからないという 不安もまた、彼らの疲労を加速させる事を理解しているからこそ、バルドは指揮により戦意を維持させる必要があった。
「オーク如きに負けてやる訳にはいかんぞ!回復部隊もいるからな!絶対に守り切るぞ!」
バルドの檄に応と答える兵士達であった。
「所長!門が破られた!」
「大丈夫だ!治安部隊が支えてくれるからな!
俺たちは、門に向かうオークを1匹でも多く減らして、治安部隊の負担を軽減してやろう」
「カウフマン所長!オークの後詰めが動き出した!多分20以上はいるかと!」
どうやら村の門が破壊されたのを見て、一気に攻勢をかけるつもりに違いないとカウフマンは思った。
戦場の機を見る個体がいる、と言う事を確信しないわけにはいかなかった。
「クッソ!指揮個体が優秀なやつらしいな!ハイオークかオークナイトがわからねぇが、なかなか厳しい事しやがる」
カウフマンがオークの集団に目をやると、1匹一際目立つ体格に金属の防具を身に付けた個体を発見する。
「なんだと!?あれは…」
「どうしたんですか所長?あのデカブツですか?」
「あれはジェネラルだ…討伐ランクA」
そう呟いたカウフマンの顔は、いつもより心なしか引き攣っているようにも見える。
それもそのはずである。討伐ランクAとは、上級クラスの冒険者がバランスの良いパーティを組んで、ようやく討伐が可能だとされるランクなのだ。
カウフマン自身は現役の頃、2度討伐に成功してはいるものの、やはり上級クラス5人の、当時王都のギルド本部ではトップ10に入る程のパーティで、ようやく退治出来た相手である。
ここプラム出張所の平均ランクは中級の下位。そんな冒険者が束になっても勝ち目はほぼ無い。
残された可能性は、元上級のカウフマンがジェネラルの攻撃を捌く間に、残った冒険者の総攻撃で削り切る位しか無い事になるだろう。
だが、残っているオークは未だ数多く、ジェネラルに足留めされている余裕はないのだ。
「ちくしょう…どうする。俺がやるしかないか…」
そう逡巡する間にも、オークの集団が村へと近づいていく。
食い止めなければと攻撃続行を指示しようとしたその時、ちょうど反対側から巨大な竜巻がオークの集団に向かうのが目に入った。
竜巻の威力は凄まじく、7匹か8匹のオークが、瞬く間に全身を風の刃に切り刻まれて絶命した程だ。
そして直後、今度は青白い炎の球が10個ほどオーク達の集団に飛び込んで行く。
その炎はどれほどの高温なのだろうか。1つに直撃を受けたオークは、瞬間全身を激しく燃やし、あっという間に黒こげの焼死体となってしまった。
村の門が破られたのを見たオークジェネラルは、小さくほくそ笑むと、これまで待機させていた精鋭25匹に進軍を指示した。
これまで送り込んだのはまだ年若いオーク。ジェネラルにとっては、捨て駒といっても差し支えない連中だ。
それでも村の門を破るという期待以上の戦果を上げてくれた。ほぼ最良の結果と言っていいだろう。
まだ村に至るまでには小煩い冒険者が残ってはいるが、ジェネラルに鍛えられた精鋭をもってすれば、然程の障害にもならないだろう。
1人他とは一線を画す動きをしていた冒険者がいたが、所詮は1人、数の力で十分に押し切れる。仮に予想以上の猛者だとしても、ジェネラル自身にかかれば対処は容易いはず。
もう頭の中では既に村の中に押し入り、本能の赴くままに蹂躙し、多数の苗床を確保している姿を想像しながら、上機嫌で村へと進軍していたのである。
彼の想像はわずかな時間で覆された。
凄まじい威力の竜巻と炎の球が、彼の誇る精鋭をほぼ壊滅させてしまった。
流石のジェネラルも、全く予期せぬ出来事に一瞬狼狽えた。
それでも、どうにか瞬時に意識を立て直し、残る精鋭に竜巻と炎の球のやってきた方向へ突撃するよう指示すべく、大きく息を吸い込むのと同時に、彼の頭部は弾け飛んだのだった。
度重なる打撃を受け、砕けた場所からは村の内部を覗き見る事も可能な程に破壊されつつある。
「ロベルト隊長!もう限界です!」
「仕方ない…守衛隊は治安部隊の援護に回れ!
バルド隊長!申し訳ない!これ以上の維持は不可能だ!後は頼む!」
「守衛隊!よくここまで耐えてくれた!これより我々が迎撃する!
長槍兵!隊列を乱すなよ!接近前に確実にダメージを与えるんだ!一度に何匹も入れやしないからな!
二撃目は剣兵隊に任せるつもりで構わん!
来るぞ!」
砕けた門扉を抜け、積み上げられた土嚢を力任せに突き崩して、ついにオークが村の敷地内に姿を現わす。
先頭をきって侵入を果たしたオークは、その先にあるはずの歓喜を想像し、一瞬獰猛な笑みを浮かべた直後、全身に突き立てられた鋭い痛みに叫び声を上げる。その叫びも叩き込まれた斬撃により中断し、そのまま生き絶えたのだった。
「よし、その要領だ!死体は手が空いた者が運べ!確実に始末するぞ!」
次々と侵入してくるオークを堅実に倒す治安部隊ではあったが、バルドの胸中は穏やかではいられない。
訓練を受けた兵士とはいっても、人間である以上は体力に限界があるのだ。あとどれだけ倒せばいいかわからないという 不安もまた、彼らの疲労を加速させる事を理解しているからこそ、バルドは指揮により戦意を維持させる必要があった。
「オーク如きに負けてやる訳にはいかんぞ!回復部隊もいるからな!絶対に守り切るぞ!」
バルドの檄に応と答える兵士達であった。
「所長!門が破られた!」
「大丈夫だ!治安部隊が支えてくれるからな!
俺たちは、門に向かうオークを1匹でも多く減らして、治安部隊の負担を軽減してやろう」
「カウフマン所長!オークの後詰めが動き出した!多分20以上はいるかと!」
どうやら村の門が破壊されたのを見て、一気に攻勢をかけるつもりに違いないとカウフマンは思った。
戦場の機を見る個体がいる、と言う事を確信しないわけにはいかなかった。
「クッソ!指揮個体が優秀なやつらしいな!ハイオークかオークナイトがわからねぇが、なかなか厳しい事しやがる」
カウフマンがオークの集団に目をやると、1匹一際目立つ体格に金属の防具を身に付けた個体を発見する。
「なんだと!?あれは…」
「どうしたんですか所長?あのデカブツですか?」
「あれはジェネラルだ…討伐ランクA」
そう呟いたカウフマンの顔は、いつもより心なしか引き攣っているようにも見える。
それもそのはずである。討伐ランクAとは、上級クラスの冒険者がバランスの良いパーティを組んで、ようやく討伐が可能だとされるランクなのだ。
カウフマン自身は現役の頃、2度討伐に成功してはいるものの、やはり上級クラス5人の、当時王都のギルド本部ではトップ10に入る程のパーティで、ようやく退治出来た相手である。
ここプラム出張所の平均ランクは中級の下位。そんな冒険者が束になっても勝ち目はほぼ無い。
残された可能性は、元上級のカウフマンがジェネラルの攻撃を捌く間に、残った冒険者の総攻撃で削り切る位しか無い事になるだろう。
だが、残っているオークは未だ数多く、ジェネラルに足留めされている余裕はないのだ。
「ちくしょう…どうする。俺がやるしかないか…」
そう逡巡する間にも、オークの集団が村へと近づいていく。
食い止めなければと攻撃続行を指示しようとしたその時、ちょうど反対側から巨大な竜巻がオークの集団に向かうのが目に入った。
竜巻の威力は凄まじく、7匹か8匹のオークが、瞬く間に全身を風の刃に切り刻まれて絶命した程だ。
そして直後、今度は青白い炎の球が10個ほどオーク達の集団に飛び込んで行く。
その炎はどれほどの高温なのだろうか。1つに直撃を受けたオークは、瞬間全身を激しく燃やし、あっという間に黒こげの焼死体となってしまった。
村の門が破られたのを見たオークジェネラルは、小さくほくそ笑むと、これまで待機させていた精鋭25匹に進軍を指示した。
これまで送り込んだのはまだ年若いオーク。ジェネラルにとっては、捨て駒といっても差し支えない連中だ。
それでも村の門を破るという期待以上の戦果を上げてくれた。ほぼ最良の結果と言っていいだろう。
まだ村に至るまでには小煩い冒険者が残ってはいるが、ジェネラルに鍛えられた精鋭をもってすれば、然程の障害にもならないだろう。
1人他とは一線を画す動きをしていた冒険者がいたが、所詮は1人、数の力で十分に押し切れる。仮に予想以上の猛者だとしても、ジェネラル自身にかかれば対処は容易いはず。
もう頭の中では既に村の中に押し入り、本能の赴くままに蹂躙し、多数の苗床を確保している姿を想像しながら、上機嫌で村へと進軍していたのである。
彼の想像はわずかな時間で覆された。
凄まじい威力の竜巻と炎の球が、彼の誇る精鋭をほぼ壊滅させてしまった。
流石のジェネラルも、全く予期せぬ出来事に一瞬狼狽えた。
それでも、どうにか瞬時に意識を立て直し、残る精鋭に竜巻と炎の球のやってきた方向へ突撃するよう指示すべく、大きく息を吸い込むのと同時に、彼の頭部は弾け飛んだのだった。
0
お気に入りに追加
535
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?
山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。
2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。
異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。
唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

転生しても山あり谷あり!
tukisirokou
ファンタジー
「転生前も山あり谷ありの人生だったのに転生しても山あり谷ありの人生なんて!!」
兎にも角にも今世は
“おばあちゃんになったら縁側で日向ぼっこしながら猫とたわむる!”
を最終目標に主人公が行く先々の困難を負けずに頑張る物語・・・?
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

クラス転移で神様に?
空見 大
ファンタジー
空想の中で自由を謳歌していた少年、晴人は、ある日突然現実と夢の境界を越えたような事態に巻き込まれる。
目覚めると彼は真っ白な空間にいた。
動揺するクラスメイト達、状況を掴めない彼の前に現れたのは「神」を名乗る怪しげな存在。彼はいままさにこのクラス全員が異世界へと送り込まれていると告げる。
神は異世界で生き抜く力を身に付けるため、自分に合った能力を自らの手で選び取れと告げる。クラスメイトが興奮と恐怖の狭間で動き出す中、自分の能力欄に違和感を覚えた晴人は手が進むままに動かすと他の者にはない力が自分の能力獲得欄にある事に気がついた。
龍神、邪神、魔神、妖精神、鍛治神、盗神。
六つの神の称号を手に入れ有頂天になる晴人だったが、クラスメイト達が続々と異世界に向かう中ただ一人取り残される。
神と二人っきりでなんとも言えない感覚を味わっていると、突如として鳴り響いた警告音と共に異世界に転生するという不穏な言葉を耳にする。
気が付けばクラスメイト達が転移してくる10年前の世界に転生した彼は、名前をエルピスに変え異世界で生きていくことになる──これは、夢見る少年が家族と運命の為に戦う物語。

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!
椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。
しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。
身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。
そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる