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第四章 プラム村
第108話
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プラム村の門扉は、既に限界に近い状態で、辛うじてオークの侵入を防いでいるに過ぎなかった。
度重なる打撃を受け、砕けた場所からは村の内部を覗き見る事も可能な程に破壊されつつある。
「ロベルト隊長!もう限界です!」
「仕方ない…守衛隊は治安部隊の援護に回れ!
バルド隊長!申し訳ない!これ以上の維持は不可能だ!後は頼む!」
「守衛隊!よくここまで耐えてくれた!これより我々が迎撃する!
長槍兵!隊列を乱すなよ!接近前に確実にダメージを与えるんだ!一度に何匹も入れやしないからな!
二撃目は剣兵隊に任せるつもりで構わん!
来るぞ!」
砕けた門扉を抜け、積み上げられた土嚢を力任せに突き崩して、ついにオークが村の敷地内に姿を現わす。
先頭をきって侵入を果たしたオークは、その先にあるはずの歓喜を想像し、一瞬獰猛な笑みを浮かべた直後、全身に突き立てられた鋭い痛みに叫び声を上げる。その叫びも叩き込まれた斬撃により中断し、そのまま生き絶えたのだった。
「よし、その要領だ!死体は手が空いた者が運べ!確実に始末するぞ!」
次々と侵入してくるオークを堅実に倒す治安部隊ではあったが、バルドの胸中は穏やかではいられない。
訓練を受けた兵士とはいっても、人間である以上は体力に限界があるのだ。あとどれだけ倒せばいいかわからないという 不安もまた、彼らの疲労を加速させる事を理解しているからこそ、バルドは指揮により戦意を維持させる必要があった。
「オーク如きに負けてやる訳にはいかんぞ!回復部隊もいるからな!絶対に守り切るぞ!」
バルドの檄に応と答える兵士達であった。
「所長!門が破られた!」
「大丈夫だ!治安部隊が支えてくれるからな!
俺たちは、門に向かうオークを1匹でも多く減らして、治安部隊の負担を軽減してやろう」
「カウフマン所長!オークの後詰めが動き出した!多分20以上はいるかと!」
どうやら村の門が破壊されたのを見て、一気に攻勢をかけるつもりに違いないとカウフマンは思った。
戦場の機を見る個体がいる、と言う事を確信しないわけにはいかなかった。
「クッソ!指揮個体が優秀なやつらしいな!ハイオークかオークナイトがわからねぇが、なかなか厳しい事しやがる」
カウフマンがオークの集団に目をやると、1匹一際目立つ体格に金属の防具を身に付けた個体を発見する。
「なんだと!?あれは…」
「どうしたんですか所長?あのデカブツですか?」
「あれはジェネラルだ…討伐ランクA」
そう呟いたカウフマンの顔は、いつもより心なしか引き攣っているようにも見える。
それもそのはずである。討伐ランクAとは、上級クラスの冒険者がバランスの良いパーティを組んで、ようやく討伐が可能だとされるランクなのだ。
カウフマン自身は現役の頃、2度討伐に成功してはいるものの、やはり上級クラス5人の、当時王都のギルド本部ではトップ10に入る程のパーティで、ようやく退治出来た相手である。
ここプラム出張所の平均ランクは中級の下位。そんな冒険者が束になっても勝ち目はほぼ無い。
残された可能性は、元上級のカウフマンがジェネラルの攻撃を捌く間に、残った冒険者の総攻撃で削り切る位しか無い事になるだろう。
だが、残っているオークは未だ数多く、ジェネラルに足留めされている余裕はないのだ。
「ちくしょう…どうする。俺がやるしかないか…」
そう逡巡する間にも、オークの集団が村へと近づいていく。
食い止めなければと攻撃続行を指示しようとしたその時、ちょうど反対側から巨大な竜巻がオークの集団に向かうのが目に入った。
竜巻の威力は凄まじく、7匹か8匹のオークが、瞬く間に全身を風の刃に切り刻まれて絶命した程だ。
そして直後、今度は青白い炎の球が10個ほどオーク達の集団に飛び込んで行く。
その炎はどれほどの高温なのだろうか。1つに直撃を受けたオークは、瞬間全身を激しく燃やし、あっという間に黒こげの焼死体となってしまった。
村の門が破られたのを見たオークジェネラルは、小さくほくそ笑むと、これまで待機させていた精鋭25匹に進軍を指示した。
これまで送り込んだのはまだ年若いオーク。ジェネラルにとっては、捨て駒といっても差し支えない連中だ。
それでも村の門を破るという期待以上の戦果を上げてくれた。ほぼ最良の結果と言っていいだろう。
まだ村に至るまでには小煩い冒険者が残ってはいるが、ジェネラルに鍛えられた精鋭をもってすれば、然程の障害にもならないだろう。
1人他とは一線を画す動きをしていた冒険者がいたが、所詮は1人、数の力で十分に押し切れる。仮に予想以上の猛者だとしても、ジェネラル自身にかかれば対処は容易いはず。
もう頭の中では既に村の中に押し入り、本能の赴くままに蹂躙し、多数の苗床を確保している姿を想像しながら、上機嫌で村へと進軍していたのである。
彼の想像はわずかな時間で覆された。
凄まじい威力の竜巻と炎の球が、彼の誇る精鋭をほぼ壊滅させてしまった。
流石のジェネラルも、全く予期せぬ出来事に一瞬狼狽えた。
それでも、どうにか瞬時に意識を立て直し、残る精鋭に竜巻と炎の球のやってきた方向へ突撃するよう指示すべく、大きく息を吸い込むのと同時に、彼の頭部は弾け飛んだのだった。
度重なる打撃を受け、砕けた場所からは村の内部を覗き見る事も可能な程に破壊されつつある。
「ロベルト隊長!もう限界です!」
「仕方ない…守衛隊は治安部隊の援護に回れ!
バルド隊長!申し訳ない!これ以上の維持は不可能だ!後は頼む!」
「守衛隊!よくここまで耐えてくれた!これより我々が迎撃する!
長槍兵!隊列を乱すなよ!接近前に確実にダメージを与えるんだ!一度に何匹も入れやしないからな!
二撃目は剣兵隊に任せるつもりで構わん!
来るぞ!」
砕けた門扉を抜け、積み上げられた土嚢を力任せに突き崩して、ついにオークが村の敷地内に姿を現わす。
先頭をきって侵入を果たしたオークは、その先にあるはずの歓喜を想像し、一瞬獰猛な笑みを浮かべた直後、全身に突き立てられた鋭い痛みに叫び声を上げる。その叫びも叩き込まれた斬撃により中断し、そのまま生き絶えたのだった。
「よし、その要領だ!死体は手が空いた者が運べ!確実に始末するぞ!」
次々と侵入してくるオークを堅実に倒す治安部隊ではあったが、バルドの胸中は穏やかではいられない。
訓練を受けた兵士とはいっても、人間である以上は体力に限界があるのだ。あとどれだけ倒せばいいかわからないという 不安もまた、彼らの疲労を加速させる事を理解しているからこそ、バルドは指揮により戦意を維持させる必要があった。
「オーク如きに負けてやる訳にはいかんぞ!回復部隊もいるからな!絶対に守り切るぞ!」
バルドの檄に応と答える兵士達であった。
「所長!門が破られた!」
「大丈夫だ!治安部隊が支えてくれるからな!
俺たちは、門に向かうオークを1匹でも多く減らして、治安部隊の負担を軽減してやろう」
「カウフマン所長!オークの後詰めが動き出した!多分20以上はいるかと!」
どうやら村の門が破壊されたのを見て、一気に攻勢をかけるつもりに違いないとカウフマンは思った。
戦場の機を見る個体がいる、と言う事を確信しないわけにはいかなかった。
「クッソ!指揮個体が優秀なやつらしいな!ハイオークかオークナイトがわからねぇが、なかなか厳しい事しやがる」
カウフマンがオークの集団に目をやると、1匹一際目立つ体格に金属の防具を身に付けた個体を発見する。
「なんだと!?あれは…」
「どうしたんですか所長?あのデカブツですか?」
「あれはジェネラルだ…討伐ランクA」
そう呟いたカウフマンの顔は、いつもより心なしか引き攣っているようにも見える。
それもそのはずである。討伐ランクAとは、上級クラスの冒険者がバランスの良いパーティを組んで、ようやく討伐が可能だとされるランクなのだ。
カウフマン自身は現役の頃、2度討伐に成功してはいるものの、やはり上級クラス5人の、当時王都のギルド本部ではトップ10に入る程のパーティで、ようやく退治出来た相手である。
ここプラム出張所の平均ランクは中級の下位。そんな冒険者が束になっても勝ち目はほぼ無い。
残された可能性は、元上級のカウフマンがジェネラルの攻撃を捌く間に、残った冒険者の総攻撃で削り切る位しか無い事になるだろう。
だが、残っているオークは未だ数多く、ジェネラルに足留めされている余裕はないのだ。
「ちくしょう…どうする。俺がやるしかないか…」
そう逡巡する間にも、オークの集団が村へと近づいていく。
食い止めなければと攻撃続行を指示しようとしたその時、ちょうど反対側から巨大な竜巻がオークの集団に向かうのが目に入った。
竜巻の威力は凄まじく、7匹か8匹のオークが、瞬く間に全身を風の刃に切り刻まれて絶命した程だ。
そして直後、今度は青白い炎の球が10個ほどオーク達の集団に飛び込んで行く。
その炎はどれほどの高温なのだろうか。1つに直撃を受けたオークは、瞬間全身を激しく燃やし、あっという間に黒こげの焼死体となってしまった。
村の門が破られたのを見たオークジェネラルは、小さくほくそ笑むと、これまで待機させていた精鋭25匹に進軍を指示した。
これまで送り込んだのはまだ年若いオーク。ジェネラルにとっては、捨て駒といっても差し支えない連中だ。
それでも村の門を破るという期待以上の戦果を上げてくれた。ほぼ最良の結果と言っていいだろう。
まだ村に至るまでには小煩い冒険者が残ってはいるが、ジェネラルに鍛えられた精鋭をもってすれば、然程の障害にもならないだろう。
1人他とは一線を画す動きをしていた冒険者がいたが、所詮は1人、数の力で十分に押し切れる。仮に予想以上の猛者だとしても、ジェネラル自身にかかれば対処は容易いはず。
もう頭の中では既に村の中に押し入り、本能の赴くままに蹂躙し、多数の苗床を確保している姿を想像しながら、上機嫌で村へと進軍していたのである。
彼の想像はわずかな時間で覆された。
凄まじい威力の竜巻と炎の球が、彼の誇る精鋭をほぼ壊滅させてしまった。
流石のジェネラルも、全く予期せぬ出来事に一瞬狼狽えた。
それでも、どうにか瞬時に意識を立て直し、残る精鋭に竜巻と炎の球のやってきた方向へ突撃するよう指示すべく、大きく息を吸い込むのと同時に、彼の頭部は弾け飛んだのだった。
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