上 下
109 / 170
第四章 プラム村

第107話

しおりを挟む
 「どうやら避難誘導が始まったみたいですね。アタシ達はどうしますか?」

 「そうね…グラルとエリーヌは一緒に避難しなさい。私はふーちゃんに乗って様子を見るわ。
 マイラは、単独ひとりでもオーク程度なら倒せるんでしょ?」

 「もちろんです。あれだけの数を相手にした事はないですけど、1対1なら負けはしません。
 あとは、魔力が続く限りって感じですかねぇ。単独で動いてもいいんですか?」

 マイラは任せても大丈夫ね。私も上から見ておけば間違いないだろうし。

 「出来るだけ数を減らしなさいよね。
 あ、そうだ!前にユーマに貰った髪飾り使いなさい?アレはいいものよ」

 「あ、あれを使うんですか?恐れ多いですって!」

 「何よ?私の名前が入った物にいちゃもんつけるわけ?元の持ち主がいいって言ってんだからいいのよ!私は使ってないけど」

 全く、時と場合を考えて欲しいわね。マイラに万一の事があったら、ユーマに何言われるかわかったもんじゃないわ。
 とにかく、安全第一にしておかないと…

 「う…わかりましたよう。でもアレ存在感が半端ないんですよね…」

 「つべこべ言うなー!それ付けてたらオーク程度の攻撃なら傷一つ付かないんでしょ?
 それとも、オークに傷物にされた姿でユーマに会いたいわけ?
 あ、まさか…わざとやられてユーマに慰めて貰おう、とか考えちゃったりしてるわけー?
 マイラって意外とヤラシーのねぇ?」

 「そ、その手がありました!って、言いませんからねっ!
 オークに傷物にされた姿なんて、絶対見せられませんからっ!
 着けますよぅ…」

 髪飾りを身に付けたマイラは、いつも以上に輝いていて、ちょっとムッとしたのは秘密ね。
 まぁ、みに着けた者をあれだけ引き立てる装飾品を作ったユーマが凄いのと、それになんたって私のだからね!初めて見たけど。

 「あ、これ凄い!ものすごい安心感…」

 なによ!その笑顔!羨ましいじゃない…言わないけど。

 「では、アタシは村の外に向かいますね」

 「存分にって来なさいよね!
 グラルはエリーヌを頼むわよ?
 エリーヌ!あんたも割り切って、今度はグラルに守ってもらいなさい?」

 「うぅ…ですけど身体が勝手に反応してしまいます」

 エリーヌの気持ちはわからないわけじゃないのよね。
 無理矢理される寸前だった相手を受け入れるなんて、普通ならあり得ない話。
 でも慣れて貰わないと困るし。

 「未遂でしょうが。オークに初物捧げるのが夢だったって言うなら構わないけど」

 「ひっ!?そんなのはダメですわ!せめてユーマ様に…」

 「ユーマがどうするか知らないけど、その希望があるならさっさと行きなさい!
 グラルは巴に夢中なんだから、心配ないわよっ!」

 巴は巴でユーマに捧げたいらしいけど。

 まぁ、これでどうにか全員対応できたわね。あとは私も動かなきゃだわ。ふーちゃん!いくわよっ!





 朝の休憩からおよそ5時間。そろそろ森を抜ける頃のはずなんだけど、目の前にはまだ森が広がっています。

「ライサさん、ミラさん、そろそろじゃないんですか?」

「はい!もうすぐです!この森ギリギリまで植生が濃いんですよね。あっ!」

 ミラさんが小さく声を上げかけたところで、慌てて手で口を塞ぎ足を止めました。
 彼女は人差し指を唇の前に立て、その手で今度は空気を押し下げる様なジェスチャーを送って来ます。どうやらしゃがめと言っているみたい。

 「さっきチラッとオークの姿が見えたような気がします。確認出来ますか?」

 囁くような声でそう言うと、先の方を指差しました。

 いた!太い木の横に、2匹のオークが立っています。でも何してるんだろう?

 「きっと、本隊の背後を見張ってるんだと思います。って事は恐らく本隊が村に攻め入ってる…」

 どうやら突撃前に追い付く事は出来なかったみたいです。まだ村が持ち堪えてくれてたらいいんだけど…

 「じゃあ、とりあえずあの2匹は今僕が仕留めるよ。2人は動かないで」

 「この距離でですか?そんな…外したら危険です!」

 「大丈夫、見てて」

 僕は、岩弾をいつもより細く硬く生成すると、魔力眼を発動しました。魔力眼の働きで、スコープの様にオークが大きく見えてきます。 
 2匹を視界に捉えると、ロックオンのイメージでターゲットを固定。岩弾を連動させるかのように目標に向けて発射します。
 岩弾は、少しのタイムラグでオーク達の頭部に着弾し、2匹はほぼ同時に地に倒れ伏しました。

 「銀、確認お願い。僕達も行こう」

 オーク達の生死確認に銀を先行させながら、僕達も急ぎ駆けつけます。

 『殿!お見事にござります!それがしがとどめを刺す必要もなく、絶命しておりました』

 オークの側にたどり着き、改めて森の向こうを眺めてみると、先程までとは打って変わって、木々の間から明るい光が垣間見えました。
 どうやら、ようやく深い森の端まで辿り着く事が出来たみたいです。

「よし!このまま一気に村に向かおう!」

 そう言いながら、抜け出たその先に見えたのは、村に続く草原に陣を構えた予想以上に多いオークの群れ。
 そして時折上がる炎と共に、聞こえるのはオークの断末魔の叫び声と戦士を叱咤する誰かの叫び声。そして、門扉を破壊しようと何かが叩き付けられる衝撃音でした。

 「間に合った…の?」

 戦場に立ち昇る砂煙と、時折陽光を反射する武器の光が、激しい戦闘の様子を語っているようでした。


しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に二週目の人生を頑張ります

京衛武百十
ファンタジー
俺の名前は阿久津安斗仁王(あくつあんとにお)。いわゆるキラキラした名前のおかげで散々苦労もしたが、それでも人並みに幸せな家庭を築こうと仕事に精を出して精を出して精を出して頑張ってまあそんなに経済的に困るようなことはなかったはずだった。なのに、女房も娘も俺のことなんかちっとも敬ってくれなくて、俺が出張中に娘は結婚式を上げるわ、定年を迎えたら離婚を切り出されれるわで、一人寂しく老後を過ごし、2086年4月、俺は施設で職員だけに看取られながら人生を終えた。本当に空しい人生だった。 なのに俺は、気付いたら五歳の子供になっていた。いや、正確に言うと、五歳の時に危うく死に掛けて、その弾みで思い出したんだ。<前世の記憶>ってやつを。 今世の名前も<アントニオ>だったものの、幸い、そこは中世ヨーロッパ風の世界だったこともあって、アントニオという名もそんなに突拍子もないものじゃなかったことで、俺は今度こそ<普通の幸せ>を掴もうと心に決めたんだ。 しかし、二週目の人生も取り敢えず平穏無事に二十歳になるまで過ごせたものの、何の因果か俺の暮らしていた村が戦争に巻き込まれて家族とは離れ離れ。俺は難民として流浪の身に。しかも、俺と同じ難民として戦火を逃れてきた八歳の女の子<リーネ>と行動を共にすることに。 今世では結婚はまだだったものの、一応、前世では結婚もして子供もいたから何とかなるかと思ったら、俺は育児を女房に任せっきりでほとんど何も知らなかったことに愕然とする。 とは言え、前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に、何とかしようと思ったのだった。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

処理中です...