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第四章 プラム村
第96話
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「ユーマ、私が思ってた以上にこの子面倒だったのね。
結局、お礼がしたいって言うのは方便で、それよりもむしろ、同行して得られる利益の事を思う気持ちが強かったってことかしら?
こんな事なら、とりあえず人目がある場所では、自由意志を奪うレベルまで制約掛けていいわよ」
「うん、そうかも。でもそれなら、次の村は、顔バレしてるみたいだから通過しちゃおうか?
男爵領を出るまではその方が無難な気がするんだ」
「あー確かに。不自然な様子が男爵に伝わるのは良くないかもしれないわね。
村に泊まらなきゃいけない理由もないし、そうしときましょう」
僕とネルのやりとりが、人攫いの会話みたいになってる…
でも現実的な話、よく考えるとグアドラ村に泊まるメリットって特にない。むしろ移動拠点の方が人目を気にしないで済む分、楽な気がするよね。
そう言ってる間に、巴が機嫌よく牽いている馬車は、川を渡る石橋へと差し掛かります。やっぱり早いな。
「旦那ぁ!そろそろ橋渡りますんで、一応注意して下さい」
「了解、ありがとグラル!」
橋の上は横風などに煽られて横転する事もあるんだって。幸いにも今は、天気もいいから大丈夫なんだけど、わざわざ注意してくれるのはありがたいです。
あれ?止まった。
「旦那、向こうから対向の馬車が来てます。護衛がいるんで貴族かもしれやせん」
「わかった。絡まれたら面倒だから譲って」
「承知しやした。しばらく待って下さい」
道を譲るのがわかったのか、護衛がこちらに駆け寄ってきました。
「そのまま控えよ!こちらはザール商会の馬車である!下車して敵意無き意志を示されたし!」
…うわぁ、なんて偉そうな言い方。面倒な事になるやつか?
「よし、みんな降りて降りて。ザール商会の馬車がお通りになるってさ」
面倒だけど絡まれるよりマシだよなぁ。とりあえず頭を下げておきましょう。
蹄の音とともに馬車と護衛の足が通り過ぎて…止まった?
「ザール様が顔を見せろと仰せである。頭を上げよ!」
なんだよ、せっかく譲ってやったのに絡んできやがった。
「ほう、中々の美人揃いじゃの。そこの男!そのエルフをワシに寄越せ?ワシが可愛がってやる。
護衛隊長、その男に金貨10枚ほどやっておけ。
さぁエルフ!こっちへ来い」
「はぁ?何言ってんだアンタ?マイラさんを渡すわけねーだろ?しかも金貨10枚?バカにしすぎだわ」
「なっ?貴様!ワシをザール商会会頭と知った上でその口上か!
護衛隊!この者を捕らえよ!ハイネン男爵に突き出してくれるわ」
たちまち、護衛隊が剣を向けて僕達を囲みます。
「ザール?貴方、誰に向かって剣を向けたのかしら?しかもお父様の名前まで持ち出して。
貴族に剣を向ける意味を知らないとは言わせないわよ?」
「なんだと?お父様…?い、いかん!剣を引けっ!
これはこれはエリーヌ様。まさかエリーヌ様がこの様なボロ馬車にお乗りとは思いもせず。
お忍びで視察でございますかな?すると、その連中は冒険者というわけでしたか」
「一度向けた剣を引いたからと言って、なかった事になるとでも?
さらに、第一声が謝罪ではなく言い逃れとは、流石にわたくしも継ぐ言葉がありませんわ」
僕の背後に隠れるようにしていたエリーヌが、スッと背筋を伸ばしながら宣言しました。
どうやらこの2人は以前からの顔見知りみたい。
「ザール?貴方はお父様の名を簡単に出せる様な立場でしたか?単に屋敷に出入りを許されただけの商人でしょう。
身の程知らずにも程があります。
更に言うのであれば、コチラの方はわたくしの命の恩人であり、その上、お父様がレイラ義母様のご実家に貸しを作る為の材料をもたらして下さった、男爵家の恩人でもありますの。
貴方程度の商人が、仮にユーマ様を何かの言い掛かりで捕らえたとして、お父様がユーマ様に詫びる事はあっても、貴方の良い様に事を運ぶなど万に一つもありませんわ」
…わぉ。なんて長台詞。
エリーヌの言葉に少しずつ現状を把握し始めたザール会頭。だんだん顔色が悪くなって来ました。
「しかしっ!その男はワシに無礼な口を!」
「その男?ユーマ様はわたくしの将来の旦那様ですのよ?それがどういう意味かわかりますわよね?」
いや、認めてませんけど?
「あぁぁ…なんてことだ。知らなかっただけで!
エリーヌ様!ワシは本当に知らなかっただけなんです」
「貴方の人となりがよくわかりましたわ。貴方とのお付き合いは、お父様にとってマイナスにしかなり得ませんわね。
そちらの護衛隊長。貴方にわたくしが命じます。ザールを不敬罪で捕縛しなさい。
そして、今からお父様宛に手紙を書きます。それを守衛隊長のレイバックに渡しなさい。それで、あなた方護衛隊の罪は問わない事とします」
「はい!承りました」
…エリーヌってやっぱり優秀だよな。今思い付きでやってるはずだから、特にそう思う。
あの護衛隊長さんも、この流れでザールの味方をする事のデメリットは、凄く感じたはず。
実際、力無くしゃがみこんだザールを縛り上げてるし。
エリーヌも、サラサラと手紙を書きあげたみたい。
「わたくしは今から戻る訳にはいきませんので、あなた方に護送を託します。
手紙には、あなた方に報奨金を渡す様にも書いておきましたから、どうか確実に届けて下さいね」
多分、ネルが言ってた危険ってのは、このエリーヌの頭の回転の速さなんだろうなぁ。
うっかり変な約束させられない様にしないとなぁ…
結局、お礼がしたいって言うのは方便で、それよりもむしろ、同行して得られる利益の事を思う気持ちが強かったってことかしら?
こんな事なら、とりあえず人目がある場所では、自由意志を奪うレベルまで制約掛けていいわよ」
「うん、そうかも。でもそれなら、次の村は、顔バレしてるみたいだから通過しちゃおうか?
男爵領を出るまではその方が無難な気がするんだ」
「あー確かに。不自然な様子が男爵に伝わるのは良くないかもしれないわね。
村に泊まらなきゃいけない理由もないし、そうしときましょう」
僕とネルのやりとりが、人攫いの会話みたいになってる…
でも現実的な話、よく考えるとグアドラ村に泊まるメリットって特にない。むしろ移動拠点の方が人目を気にしないで済む分、楽な気がするよね。
そう言ってる間に、巴が機嫌よく牽いている馬車は、川を渡る石橋へと差し掛かります。やっぱり早いな。
「旦那ぁ!そろそろ橋渡りますんで、一応注意して下さい」
「了解、ありがとグラル!」
橋の上は横風などに煽られて横転する事もあるんだって。幸いにも今は、天気もいいから大丈夫なんだけど、わざわざ注意してくれるのはありがたいです。
あれ?止まった。
「旦那、向こうから対向の馬車が来てます。護衛がいるんで貴族かもしれやせん」
「わかった。絡まれたら面倒だから譲って」
「承知しやした。しばらく待って下さい」
道を譲るのがわかったのか、護衛がこちらに駆け寄ってきました。
「そのまま控えよ!こちらはザール商会の馬車である!下車して敵意無き意志を示されたし!」
…うわぁ、なんて偉そうな言い方。面倒な事になるやつか?
「よし、みんな降りて降りて。ザール商会の馬車がお通りになるってさ」
面倒だけど絡まれるよりマシだよなぁ。とりあえず頭を下げておきましょう。
蹄の音とともに馬車と護衛の足が通り過ぎて…止まった?
「ザール様が顔を見せろと仰せである。頭を上げよ!」
なんだよ、せっかく譲ってやったのに絡んできやがった。
「ほう、中々の美人揃いじゃの。そこの男!そのエルフをワシに寄越せ?ワシが可愛がってやる。
護衛隊長、その男に金貨10枚ほどやっておけ。
さぁエルフ!こっちへ来い」
「はぁ?何言ってんだアンタ?マイラさんを渡すわけねーだろ?しかも金貨10枚?バカにしすぎだわ」
「なっ?貴様!ワシをザール商会会頭と知った上でその口上か!
護衛隊!この者を捕らえよ!ハイネン男爵に突き出してくれるわ」
たちまち、護衛隊が剣を向けて僕達を囲みます。
「ザール?貴方、誰に向かって剣を向けたのかしら?しかもお父様の名前まで持ち出して。
貴族に剣を向ける意味を知らないとは言わせないわよ?」
「なんだと?お父様…?い、いかん!剣を引けっ!
これはこれはエリーヌ様。まさかエリーヌ様がこの様なボロ馬車にお乗りとは思いもせず。
お忍びで視察でございますかな?すると、その連中は冒険者というわけでしたか」
「一度向けた剣を引いたからと言って、なかった事になるとでも?
さらに、第一声が謝罪ではなく言い逃れとは、流石にわたくしも継ぐ言葉がありませんわ」
僕の背後に隠れるようにしていたエリーヌが、スッと背筋を伸ばしながら宣言しました。
どうやらこの2人は以前からの顔見知りみたい。
「ザール?貴方はお父様の名を簡単に出せる様な立場でしたか?単に屋敷に出入りを許されただけの商人でしょう。
身の程知らずにも程があります。
更に言うのであれば、コチラの方はわたくしの命の恩人であり、その上、お父様がレイラ義母様のご実家に貸しを作る為の材料をもたらして下さった、男爵家の恩人でもありますの。
貴方程度の商人が、仮にユーマ様を何かの言い掛かりで捕らえたとして、お父様がユーマ様に詫びる事はあっても、貴方の良い様に事を運ぶなど万に一つもありませんわ」
…わぉ。なんて長台詞。
エリーヌの言葉に少しずつ現状を把握し始めたザール会頭。だんだん顔色が悪くなって来ました。
「しかしっ!その男はワシに無礼な口を!」
「その男?ユーマ様はわたくしの将来の旦那様ですのよ?それがどういう意味かわかりますわよね?」
いや、認めてませんけど?
「あぁぁ…なんてことだ。知らなかっただけで!
エリーヌ様!ワシは本当に知らなかっただけなんです」
「貴方の人となりがよくわかりましたわ。貴方とのお付き合いは、お父様にとってマイナスにしかなり得ませんわね。
そちらの護衛隊長。貴方にわたくしが命じます。ザールを不敬罪で捕縛しなさい。
そして、今からお父様宛に手紙を書きます。それを守衛隊長のレイバックに渡しなさい。それで、あなた方護衛隊の罪は問わない事とします」
「はい!承りました」
…エリーヌってやっぱり優秀だよな。今思い付きでやってるはずだから、特にそう思う。
あの護衛隊長さんも、この流れでザールの味方をする事のデメリットは、凄く感じたはず。
実際、力無くしゃがみこんだザールを縛り上げてるし。
エリーヌも、サラサラと手紙を書きあげたみたい。
「わたくしは今から戻る訳にはいきませんので、あなた方に護送を託します。
手紙には、あなた方に報奨金を渡す様にも書いておきましたから、どうか確実に届けて下さいね」
多分、ネルが言ってた危険ってのは、このエリーヌの頭の回転の速さなんだろうなぁ。
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