転移先で世直しですか?いいえただのお散歩です

こうたろう

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第四章 プラム村

第93話

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 「すぐに出発するのかね?エリーヌはもう準備万端なようだったが」

 朝食を済ませると、男爵が尋ねてきました。

 「はい、その予定です。立ち寄る予定の村まで丁度半日程だと聞いていますので、あまり遅くなると間に合わないかと」

 「次の村は確かグアドラであったな。あそこも我が領の村ではあるから、エリーヌがおれば何かと融通も利くだろう」

 「あまり全面には出したくはないです…万一の事もありますので。
 ただ、お気持ちはありがたく頂きます」

 エリーヌお嬢様と男爵一家は、昨夜の内に別れを済ませていたと言う事で、見送りにはジェシカさんだけが来ています。
 まぁ正妻のレイラさん達からは疎まれてたみたいだし、きっと彼女たちなら心の中で喝采を浴びせるくらいはしてるだろうけど。

 「エリーヌ、昨日話した通りよ?しっかりヤりなさい!吉報待ってるからね」

 「勿論ですわ!お母様。楽しみになさって下さい!」

 ん?なんとなく違和感があったんですが…

 男爵夫妻から見送られ、玄関ホールを移動しているところにバローさんから声がかかりました。

 「短い間じゃったが、色々と感謝しておる。ぜひまた寄ってくれい。
 それから、コレが依頼の品と紹介状じゃ。前金に金貨10枚じゃな。よろしく頼んだぞ」

 後ろに控えていたメイドさんから、アタッシュケースサイズの箱を受け取り、収納へイン。

 「やはり、それなりのサイズも仕舞えるんじゃな。せっかくじゃからどれ程入るか教えてゆかぬか?」

 「そんなにガード緩くないですって。一応、旅の荷物は充分に入るサイズですけどね。確かにお預かりしました」

 「あっはっは!アレの運用は慎重にの!では、またいつか会おう」

 最後に笑って見送られると、気持ちいいですよね。また来てみたいって気持ちになります。
 いつかエリーヌお嬢様を返しに来るだろうし。

 「あの子を返せる訳ないわよ?もう完全にアンタに引き取られたつもりでいるんだから。諦めなさい?」

 …うん、知ってた。



 男爵の屋敷を後にした僕達は、守衛隊詰所に向かいます。
 どうやら、先触れが出立の報せをしてくれていたようで、詰所の前には馬車に繋がれた巴と共に、グラルとレイバック隊長が待っていてくれました。

 2人に声を掛けようとしたその時、グラルの姿が視界に入ったエリーヌお嬢様が、身体を硬直させながら叫びました。  

 「ひぃっ!なんで?どうして…いやぁっ!」

 …あ、忘れてた。

 エリーヌお嬢様とグラルは、事件後初対面でした。
 彼女は、グラルの顔を見てフラッシュバックしたらしく、顔を青褪めさせて震えながらしがみ付いて来ます。

 「エリーヌお嬢様。この者はユーマ殿の奴隷になっておりますから大丈夫です。どうかご安心下さい」

 「そうですよ、エリーヌ様。僕の命令に背く事は絶対にできませんからね?この先御者を任せるグラルです」

 「…そうなのですね?まだ恐怖心が抜けませんが、ユーマ様がそのように仰るなら慣れる様に努力しますわ」

 そうは言うものの、膝はまだ小さく震えているし、やっぱりかなりのトラウマになってるんだろうな。
 まぁ意地でも付いて来るつもりだからこそ、必死に我慢しているわけで、嫌なら同行を諦めてしまうはず。

 もちろん、グラルとエリーヌお嬢様のどちらかを選ばなきゃいけないような場面があったとして、それが今なら間違いなくグラルを選ぶでしょ。
 エリーヌお嬢様が、ちゃんと仲間になれるとは限らないからこそ、限界までこっちに歩み寄って貰おうと思います。

 「それじゃあ、出発しよう。
 レイバックさんにも沢山お世話になりました。恐らくまた来ると思いますので、それまでどうかお元気で!ありがとうございました」

 「ユーマ殿も道中のご無事を祈るよ。また会う日まで!」

 馬車は街道を北に上がり、領主の館の前を東へと向かいます。
 門前では、エリーヌお嬢様と出会ったあの時に一緒だったジオさんとアイリスさん、世話してくれたアリーナさんが手を振って見送ってくれていました。




 街道の左手方向には、大山脈の際に繋がる森。右手側にはこの先の湖に向かう川が流れています。
 ロケーション的に、盗賊や獣が襲ってくるには絶好の場所が長く続いている反面、主要な街道ということでバーナムの守衛隊が定期的に巡回しているため、この辺りではそういった被害は出ていないんだって。

 「ただし、巡回はこの先の橋までですの。橋を越えてからグアドラ村までの間は見晴らしが良いので」

 「なるほどね。そう言う知識もやっぱり教えて貰うの?」

 「そうですわね。わたくしの場合は、父に代わってあちこちに出向いておりましたので、道中ジオから色々と教わりました」

 ジオさんか。あの人優秀そうだったもんね。
 機会があれば話してみたいなぁ…

 「それにしてもこの馬車快適ですわね。これ程快適ならば、もっと沢山の方が使っていそうなものですのに」

 「そう言うわけには行かないんだってさ。馬車屋の親父さんが教えてくれたんだけどね。
 普通の馬だと、この馬車を曳いたら、重過ぎてすぐにへばって潰れちゃうみたいよ」

 「そうなのですか?先程からずっと機嫌よく進んでいますけど…」

 …そりゃ巴はスレイプニルだからねぇ。

 あ、そうか、そのあたりの事情も彼女に説明しなきゃいけないね。
 橋を越える前に休憩場所があるみたいだから、そこで昼休憩がてら色々やっちゃいますか。
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