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第三章 バーナムの街
第89話
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報奨金の受け取りを済ませ、一瞬ホッとした僕に、男爵が不意打ちを仕掛けてきました。
「それでは入っておいで」
…え?何?
「ユーマ様、先日は本当にありがとうございました」
入り口とは違う扉から入って来たのは、エリーヌお嬢様でした。
「ちょうど今朝、ガルドから戻ったところじゃ。ユーマ君が戻って来た事を話すと、どうしても礼が言いたいと申すでな。
驚かせる様で済まなかったが」
「あの時は動転しておりましたし、お父様からの仕事の途中でもありましたから、あの様な不義理してしまい恥じておりました。
でも、こうして再会出来ましたから、どうしてもお礼を申し上げたくて!」
確かにあの状況で、動転しないはずはないもんなぁ。目線も合わせてくれなかったし、渡されたメダルも、ジルさんのメモ書きのフォローがなかったら逆にピンチになるところだったし。
「改めてそう仰られると、僕としては当然の事をしたまでですとしか言えないんですが、エリーヌ様のお気持ちは受け取らせて頂きました。どうかそれ以上はおやめください」
「うむ。エリーヌよ、ユーマ君の言う通りだよ。もちろん我がハイネン男爵家として、返し切れない恩を受けた事に変わりはないがね」
「わかりました。お父様に従います。ですが本当に恩を受けたのはわたくしです。
家としてではなく、わたくし自身の心が恩に報いたいと願っておりますから」
…なんていうか、重くない?
「もちろんお前の心はわかっておるつもりだよ。その上で父からお前に命じる。これよりユーマ君の旅に同行せよ。
今のお前に出来る最善の恩返しは、お前が失わずに済んだ全てを以って、彼を支える事であろう。
私も色々考えたのだ。お前の幸せを願って。
今よりお前は、ハイネン家の名をここに置き、ただのエリーヌとして生きよ」
…まじすか?
「お待ちください!男爵様!何もそこまでしなくても…」
「いや、違うのだよユーマ君。名を捨てよと言うわけではない。君に同行する間は貴族である事を忘れよ、と言う意味なのだ。
これはただのエリーヌ。君に恩返しするために身を捧げる娘だと思って扱ってくれたらよい。
気に入ったら貰ってくれて構わぬよ?はっはっは!」
男爵は、最後にニヤリとしながら爆弾を投げてきました。エリーヌお嬢様も満更でもないような顔してるし。
「対外的には、見物を広める為に旅をしているとしておく。縁談などは全てその理由で断る。
エリーヌも、万一知り合いに会う事があれば、その様に話すのだ。よいな?」
「はい!承知しました!」
親娘で盛り上がっちゃってるし…
どうしよう?当初の予想より斜め上の方向にズレていこうとしてるようです。
男爵の執務室を出て、一旦レイドック隊長と衛兵隊詰所に戻る事にしたんだけど、当然のようについてくるエリーヌお嬢様。
「エリーヌお嬢様?屋敷でごゆっくりされてはいかがでしょう?特に面白い事もないかと…」
「エリーヌとお呼びになって下さい。お嬢様なんてイヤです」
「いやいや、街中でそれはマズイですから!」
この街ではかなり人気があるらしいし、僕みたいなのが呼び捨てにしてたら大変な事になりそうだもん。
「むぅ…でもお嬢様はダメです。泣きます」
…まさかの脅し。辞めてお願い。
「じゃあ、せめてエリーヌ様で勘弁して下さい。それ以上は周りの目が怖すぎるんで」
「仕方ないです。街では我慢しますわ。街では」
…強調しなくていいです。
「ユーマ殿、諦めた方がいいと思うよ?あー見えてお嬢様かなり頑固だから」
レイドック隊長が小声で耳打ちしてくれたんだけど、大体わかります。
あの手の人って、大体なんでも自分の思った通りになるのが当然で生きてきてるだろうしさ。
極力絡まない様にしとこう。
詰所に戻ると、レイドック隊長は通常業務に戻るからと言って奥に入ってしまいました。
ホールに取り残された僕とエリーヌお嬢様。
どうしよう?いや、まぁやる事はあるんだけど。
「エリーヌ様、これから同行する僕の仲間を紹介しましょうか?」
「まぁ!ぜひお願いしますわっ!あの時お会いしたエルフの方ですわよね?」
多分みんな馬車でくつろいでるだろうと思って、裏手の駐車場へむかいます。
「遅いー!だいぶ暇だったのよ?」
「話は済んだのかい?それに後ろにいるのは、あの時のお嬢様じゃないか。わざわざ会いに来て下さったのかい?」
ぶーたれるネルの頭を撫でながら、これまでの話を掻い摘んで説明します。
「なるほど、わかったわ。とりあえずは出発してからにしておかないとって事ね」
さすがネル。話した内容以上の事をしっかり読み取ってくれました。こう言う時には便利だね。
「あの…その節は本当にありがとうございました!不束者ですけれど、よろしくお願いしますわっ!」
「ちょっとエリーヌの言い回しには不満があるけど、今は見逃すわ。
そんな事よりもグラルと巴の件は良かったわね。
あとは馬車をどうするかよ?とりあえずコレは借り物だったでしょ?」
「うん、とりあえず巴はここで預かって貰って、馬車は返す予定。だから今のうちに買いに行こうと思ってる」
出発準備を兼ねて、バーナムの街を歩いてみたいよね。
ここに着いてから、男爵の屋敷と守衛隊詰所しか見てないもんなぁ…
というわけで午後からはバーナム市街を回りましょう!
「それでは入っておいで」
…え?何?
「ユーマ様、先日は本当にありがとうございました」
入り口とは違う扉から入って来たのは、エリーヌお嬢様でした。
「ちょうど今朝、ガルドから戻ったところじゃ。ユーマ君が戻って来た事を話すと、どうしても礼が言いたいと申すでな。
驚かせる様で済まなかったが」
「あの時は動転しておりましたし、お父様からの仕事の途中でもありましたから、あの様な不義理してしまい恥じておりました。
でも、こうして再会出来ましたから、どうしてもお礼を申し上げたくて!」
確かにあの状況で、動転しないはずはないもんなぁ。目線も合わせてくれなかったし、渡されたメダルも、ジルさんのメモ書きのフォローがなかったら逆にピンチになるところだったし。
「改めてそう仰られると、僕としては当然の事をしたまでですとしか言えないんですが、エリーヌ様のお気持ちは受け取らせて頂きました。どうかそれ以上はおやめください」
「うむ。エリーヌよ、ユーマ君の言う通りだよ。もちろん我がハイネン男爵家として、返し切れない恩を受けた事に変わりはないがね」
「わかりました。お父様に従います。ですが本当に恩を受けたのはわたくしです。
家としてではなく、わたくし自身の心が恩に報いたいと願っておりますから」
…なんていうか、重くない?
「もちろんお前の心はわかっておるつもりだよ。その上で父からお前に命じる。これよりユーマ君の旅に同行せよ。
今のお前に出来る最善の恩返しは、お前が失わずに済んだ全てを以って、彼を支える事であろう。
私も色々考えたのだ。お前の幸せを願って。
今よりお前は、ハイネン家の名をここに置き、ただのエリーヌとして生きよ」
…まじすか?
「お待ちください!男爵様!何もそこまでしなくても…」
「いや、違うのだよユーマ君。名を捨てよと言うわけではない。君に同行する間は貴族である事を忘れよ、と言う意味なのだ。
これはただのエリーヌ。君に恩返しするために身を捧げる娘だと思って扱ってくれたらよい。
気に入ったら貰ってくれて構わぬよ?はっはっは!」
男爵は、最後にニヤリとしながら爆弾を投げてきました。エリーヌお嬢様も満更でもないような顔してるし。
「対外的には、見物を広める為に旅をしているとしておく。縁談などは全てその理由で断る。
エリーヌも、万一知り合いに会う事があれば、その様に話すのだ。よいな?」
「はい!承知しました!」
親娘で盛り上がっちゃってるし…
どうしよう?当初の予想より斜め上の方向にズレていこうとしてるようです。
男爵の執務室を出て、一旦レイドック隊長と衛兵隊詰所に戻る事にしたんだけど、当然のようについてくるエリーヌお嬢様。
「エリーヌお嬢様?屋敷でごゆっくりされてはいかがでしょう?特に面白い事もないかと…」
「エリーヌとお呼びになって下さい。お嬢様なんてイヤです」
「いやいや、街中でそれはマズイですから!」
この街ではかなり人気があるらしいし、僕みたいなのが呼び捨てにしてたら大変な事になりそうだもん。
「むぅ…でもお嬢様はダメです。泣きます」
…まさかの脅し。辞めてお願い。
「じゃあ、せめてエリーヌ様で勘弁して下さい。それ以上は周りの目が怖すぎるんで」
「仕方ないです。街では我慢しますわ。街では」
…強調しなくていいです。
「ユーマ殿、諦めた方がいいと思うよ?あー見えてお嬢様かなり頑固だから」
レイドック隊長が小声で耳打ちしてくれたんだけど、大体わかります。
あの手の人って、大体なんでも自分の思った通りになるのが当然で生きてきてるだろうしさ。
極力絡まない様にしとこう。
詰所に戻ると、レイドック隊長は通常業務に戻るからと言って奥に入ってしまいました。
ホールに取り残された僕とエリーヌお嬢様。
どうしよう?いや、まぁやる事はあるんだけど。
「エリーヌ様、これから同行する僕の仲間を紹介しましょうか?」
「まぁ!ぜひお願いしますわっ!あの時お会いしたエルフの方ですわよね?」
多分みんな馬車でくつろいでるだろうと思って、裏手の駐車場へむかいます。
「遅いー!だいぶ暇だったのよ?」
「話は済んだのかい?それに後ろにいるのは、あの時のお嬢様じゃないか。わざわざ会いに来て下さったのかい?」
ぶーたれるネルの頭を撫でながら、これまでの話を掻い摘んで説明します。
「なるほど、わかったわ。とりあえずは出発してからにしておかないとって事ね」
さすがネル。話した内容以上の事をしっかり読み取ってくれました。こう言う時には便利だね。
「あの…その節は本当にありがとうございました!不束者ですけれど、よろしくお願いしますわっ!」
「ちょっとエリーヌの言い回しには不満があるけど、今は見逃すわ。
そんな事よりもグラルと巴の件は良かったわね。
あとは馬車をどうするかよ?とりあえずコレは借り物だったでしょ?」
「うん、とりあえず巴はここで預かって貰って、馬車は返す予定。だから今のうちに買いに行こうと思ってる」
出発準備を兼ねて、バーナムの街を歩いてみたいよね。
ここに着いてから、男爵の屋敷と守衛隊詰所しか見てないもんなぁ…
というわけで午後からはバーナム市街を回りましょう!
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