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第三章 バーナムの街
第90話
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グラルに巴の世話を任せて、レイバック隊長に声をかけにいきます。
「レイバックさん、度々すいません。探索でお借りしてた馬車を、お返しするの忘れてました。あの馬は、グラルが厩舎に連れていって世話させておくので、預かっておいて頂けますか?
僕達は市街の観光がてら、買い物しに行こうと思うんですが」
「あぁ、それなら馬車は駐車場に置いておいて。馬の件も承知したよ。
グラルの奴も悪さは出来ないし、流石に男爵閣下の屋敷には泊められないだろうから、食料だけ渡して厩舎で休ませて構わないからね」
「それは助かります。後でまた寄りますね」
書類仕事をしてたらしいレイバック隊長は、最後は手だけ振って見送ってくれました。
バーナムの街の作りは、ガルドの街とは異なり、南北に長い長方形の防護壁で全体を囲う作りになっていました。
街道は街を三分しており、南門から入れば、男爵の屋敷や行政機関が集中した北区画の正面で左右に分かれ、ちょうどT字を描いている様です。
街の北側は山脈に連なる険しい岩山が壁の様に聳えている事から、きっとこの街は交通の要衝として発展して来たんだろうと思います。
街道沿いには、まさに宿場町かとでもいうように、様々な種類の店が建ち並んています。
見た感じ保存食を扱ってる店か多いのは、やはり旅人を商売相手にしてるんだろうなあ。
そして同様に、馬車や馬具を取り扱う商店もよく見かけるのも、需要に合わせているという事なんだろうね。
僕達はその中の一つ「ノエル馬車馬具店」と書かれた店の扉を開きました。
「はーい、いらっしゃいませー!」
店内には所狭しと馬具が並べられ、恐らく整備用だろうオイルの香りが漂っています。
商品棚の奥のカウンターにいる明るい金髪ショートボブの女性が、何やら整備道具のような物を片手に、こちらへ声を掛けてきたみたいです。
「何をお探しですか?ってエリーヌ様じゃないですか!?
こんな汚い店にわざわざお越しくださってありがとうございます!あ、奥へどうぞ?安物ですけどお茶でも淹れますから!」
「あら、そんな気を遣ってくれなくても大丈夫よ?わたくしただの付き添いですからね?
お客さんはこっちの素敵な男性よ?」
「えっ!?エリーヌ様が付き添いだなんて!どこかのお貴族様でしたかっ!
大変失礼致しました!どうかお許しください!」
うわぁ…盛大に勘違いされてんじゃん。
もしかすると、この街でエリーヌを連れ歩いたらずっとこのパターンが続くような…
「大丈夫よ?こちらは普通の方ですわ。わたくしの大切な方ってだけ」
「エリーヌ様の大切な方って…」
「エリーヌ様!みんな勘違いするからやめて下さい!
えーと、僕はユーマと言います。貴女が思ったような関係じゃないですからね?
エリーヌ様とはちょっとしたお知り合いなだけです。
今馬車と馬具を探してて立ち寄らせて頂いたんですけど、馬車は扱ってないんですね?」
エリーヌに話させると、余計にややこしくなるだけだわ。
「えっ?あ、いや馬車本体も扱ってますよ。流石に現品はここには置けないから裏のガレージにあります。
オーダーじゃなくて良ければですけど…」
「すぐに使う物なんで、見て良さそうなら買いますよ。ガレージに案内してもらえますか?」
「そういうことなら…こちらへどうぞ」
ふぅ、どうにかエリーヌから意識を外らせるのには成功したみたいだね。
女性に案内されて店の奥へ向かうと、数台の馬車が置かれているようです。
「見にくいですよね?今ガレージ開けます」
スライド式の大きな扉を開くと、明るい光がガレージの中を照らします。
そこには農家さんが使う様な平馬車や幌馬車に、ちょっと洒落た彫刻が入った箱馬車などが数台置かれています。
僕は思わずその中の一台に目を奪われてしまいました。
一見普通の幌馬車に見えますが、他のと違う点が一つありました。なんと、それには板バネと呼ばれるサスペンションが取り付けられていたんです!
「あぁ、変わってるでしょ?それ。
ちょっと前に死んじゃったウチのおじいちゃんが考えたんですけど、乗り心地はいい反面、酷い欠点があって…
何しろ鉄の塊だから本体が重過ぎて、荷物を積んだら馬がすぐに潰れちゃうんですよね…
コレも受注して作ったんだけど、納車済みの別のお客さんからその事聞いたらしくて、キャンセルになっちゃったんです」
「コレ買うよ。いくら?」
「えっ!?お客さんウチの話聞いてました?そりゃウチとしたら不良在庫が捌けるからありがたいけど…」
そりゃ買うでしょ。牽く馬が普通じゃないもん。言えないけどさ。
「大丈夫。そんなに重い荷物積む予定もないし」
「後で返品とか嫌ですよ?それなら値段は、儲けなしのほぼ原価で大金貨20枚です…ほんとにいいんですか?」
「あぁ良かった。それなら払える。はい、数えて下さい」
ちょうど男爵から報酬とか貰ったばかりだったしね。足らなかったら飛竜の素材でも売らなきゃなって思ってたからほんと良かった。
「はい、確かに。受け渡しはどうします?今持ってってもらえたらありがたいんですけど…」
「じゃあ馬連れて来ますよ。あぁそうだ、ついでに馬具も買うんで、調整もしてもらえますか?」
「そりゃもちろん。コレ買って下さったんだ、色々サービスもさせてもらいますよ」
そりゃありがたいね。
にしても掘り出し物を見つけられて良かったです。
「レイバックさん、度々すいません。探索でお借りしてた馬車を、お返しするの忘れてました。あの馬は、グラルが厩舎に連れていって世話させておくので、預かっておいて頂けますか?
僕達は市街の観光がてら、買い物しに行こうと思うんですが」
「あぁ、それなら馬車は駐車場に置いておいて。馬の件も承知したよ。
グラルの奴も悪さは出来ないし、流石に男爵閣下の屋敷には泊められないだろうから、食料だけ渡して厩舎で休ませて構わないからね」
「それは助かります。後でまた寄りますね」
書類仕事をしてたらしいレイバック隊長は、最後は手だけ振って見送ってくれました。
バーナムの街の作りは、ガルドの街とは異なり、南北に長い長方形の防護壁で全体を囲う作りになっていました。
街道は街を三分しており、南門から入れば、男爵の屋敷や行政機関が集中した北区画の正面で左右に分かれ、ちょうどT字を描いている様です。
街の北側は山脈に連なる険しい岩山が壁の様に聳えている事から、きっとこの街は交通の要衝として発展して来たんだろうと思います。
街道沿いには、まさに宿場町かとでもいうように、様々な種類の店が建ち並んています。
見た感じ保存食を扱ってる店か多いのは、やはり旅人を商売相手にしてるんだろうなあ。
そして同様に、馬車や馬具を取り扱う商店もよく見かけるのも、需要に合わせているという事なんだろうね。
僕達はその中の一つ「ノエル馬車馬具店」と書かれた店の扉を開きました。
「はーい、いらっしゃいませー!」
店内には所狭しと馬具が並べられ、恐らく整備用だろうオイルの香りが漂っています。
商品棚の奥のカウンターにいる明るい金髪ショートボブの女性が、何やら整備道具のような物を片手に、こちらへ声を掛けてきたみたいです。
「何をお探しですか?ってエリーヌ様じゃないですか!?
こんな汚い店にわざわざお越しくださってありがとうございます!あ、奥へどうぞ?安物ですけどお茶でも淹れますから!」
「あら、そんな気を遣ってくれなくても大丈夫よ?わたくしただの付き添いですからね?
お客さんはこっちの素敵な男性よ?」
「えっ!?エリーヌ様が付き添いだなんて!どこかのお貴族様でしたかっ!
大変失礼致しました!どうかお許しください!」
うわぁ…盛大に勘違いされてんじゃん。
もしかすると、この街でエリーヌを連れ歩いたらずっとこのパターンが続くような…
「大丈夫よ?こちらは普通の方ですわ。わたくしの大切な方ってだけ」
「エリーヌ様の大切な方って…」
「エリーヌ様!みんな勘違いするからやめて下さい!
えーと、僕はユーマと言います。貴女が思ったような関係じゃないですからね?
エリーヌ様とはちょっとしたお知り合いなだけです。
今馬車と馬具を探してて立ち寄らせて頂いたんですけど、馬車は扱ってないんですね?」
エリーヌに話させると、余計にややこしくなるだけだわ。
「えっ?あ、いや馬車本体も扱ってますよ。流石に現品はここには置けないから裏のガレージにあります。
オーダーじゃなくて良ければですけど…」
「すぐに使う物なんで、見て良さそうなら買いますよ。ガレージに案内してもらえますか?」
「そういうことなら…こちらへどうぞ」
ふぅ、どうにかエリーヌから意識を外らせるのには成功したみたいだね。
女性に案内されて店の奥へ向かうと、数台の馬車が置かれているようです。
「見にくいですよね?今ガレージ開けます」
スライド式の大きな扉を開くと、明るい光がガレージの中を照らします。
そこには農家さんが使う様な平馬車や幌馬車に、ちょっと洒落た彫刻が入った箱馬車などが数台置かれています。
僕は思わずその中の一台に目を奪われてしまいました。
一見普通の幌馬車に見えますが、他のと違う点が一つありました。なんと、それには板バネと呼ばれるサスペンションが取り付けられていたんです!
「あぁ、変わってるでしょ?それ。
ちょっと前に死んじゃったウチのおじいちゃんが考えたんですけど、乗り心地はいい反面、酷い欠点があって…
何しろ鉄の塊だから本体が重過ぎて、荷物を積んだら馬がすぐに潰れちゃうんですよね…
コレも受注して作ったんだけど、納車済みの別のお客さんからその事聞いたらしくて、キャンセルになっちゃったんです」
「コレ買うよ。いくら?」
「えっ!?お客さんウチの話聞いてました?そりゃウチとしたら不良在庫が捌けるからありがたいけど…」
そりゃ買うでしょ。牽く馬が普通じゃないもん。言えないけどさ。
「大丈夫。そんなに重い荷物積む予定もないし」
「後で返品とか嫌ですよ?それなら値段は、儲けなしのほぼ原価で大金貨20枚です…ほんとにいいんですか?」
「あぁ良かった。それなら払える。はい、数えて下さい」
ちょうど男爵から報酬とか貰ったばかりだったしね。足らなかったら飛竜の素材でも売らなきゃなって思ってたからほんと良かった。
「はい、確かに。受け渡しはどうします?今持ってってもらえたらありがたいんですけど…」
「じゃあ馬連れて来ますよ。あぁそうだ、ついでに馬具も買うんで、調整もしてもらえますか?」
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にしても掘り出し物を見つけられて良かったです。
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