転移先で世直しですか?いいえただのお散歩です

こうたろう

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第三章 バーナムの街

第88話

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 手続きを済ませた僕達は、守衛隊詰所に向かいました。

 詰所の扉を叩くと、ちょうどレイバック隊長が、巡回を終えて戻って来たところだったようで、待ち時間もなく面談する事が出来るようです。

 「やぁ、ユーマ殿よく無事で戻ってくれたね。で、バロー殿の依頼の方は…?」

 「もちろん無事回収出来ましたよ。依頼の品はこちらに提出すれば良いですか?」

 「いや、今バロー殿に使いをやっているところだ。もうしばらくしたらこちらに見えられるはずだから、その時にしてくれたらいいよ。それまでは、ここで身体を休めてくれ。
 あ、そうだ。盗賊頭の身柄を預かろうか」

 おっ、来た来た。まずはここからが肝心だね。

 「そうですね。グラル、こっちに来い」

 「ほう、我らの尋問でも強情に口を割らない様な奴だったのに、ユーマ殿には随分素直に従うじゃないか。
 さすがユーマ殿と言ったところかな?」

 「いえ、実はコレに関して報告を…」

 レイバック隊長に、前もって用意していたグラル奴隷化に関する経緯と、それに伴う処分についての配慮を説明します。

 「ふむ…奴隷化に関してはやむを得ないと思うな。王国法に照らしても何ら問題はないだろうね。
 それよりもむしろ、ユーマ殿が隷属魔法の遣い手だった事に驚くよ。
 それで処分についてなんだけど、これもまたユーマ殿の言われる様に、既に所有権があるからね。それを無理に奪う事こそ法に触れる事になるだろうと思う。
 とは言え、後は男爵閣下の心情的にどうなのかだね…」

 「失礼を承知で言わせて頂きますね。
 ちょうど馬車や御者が欲しかったところなんですよ。
 どうしても知られてはいけない事が多い立場なもので、市井の御者を雇う事も出来なかったんです。資金的に奴隷を買うわけにもいかなかった」

 「確かに事情はわかるよ。でも、こればかりは男爵閣下に確認しなければなんとも…」

 まぁ、当然だよね。守備隊長の権限でどうこう出来る話じゃないだろうからさ。

 「すいません。レイバックさんに無理を言うつもりはないんです。グラルの件は、僕が男爵様に直接交渉します。
 それより話は変わるんですが、今回お借りしてたあの馬を譲って頂きたいんです。これも男爵様に交渉でしょうか?」

 「あの馬をかい?いや、それくらいであれば私の権限でもどうにでもなるけど…いいのかい?もっと優秀な馬だっているぞ?
 今回の報酬と先日の報奨金を合わせると、それなりの金額になってるよ?
 あんな普通の馬じゃなくて、ちゃんと訓練を積んだ馬にすればいいだろうに…
 まぁ予算内で馬を管理するのは私の仕事だから、買い換える分と思えばこちらの利益でもある。
 あの馬でいいなら譲るよ。相場通り金貨50枚だ」

 やったね!ちょっと騙し討ちみたいになったけどさ。
 マイラさんによれば、もし調教されたスレイプニルが売りに出たら、最低でも白金貨数十枚、金貨換算で数千枚にはなるらしいからね。
 イメージ的には、中古の軽自動車の値段で、跳ね馬印のスポーツカーを買ったみたいなもんです。

 「ありがとうございます。先に支払いますよ。金貨でお願いします」

 「…ん、確かに。街にいる間はここに預けてくれて構わないよ。それくらいの事はさせてくれ」

 ありがたい話なので好意に甘えておきましょう。

 そうこうしてる間に、バローさんが到着したようです。あの人も結構フットワーク軽いよね。

 「お待たせしたな、ユーマ君。報告は聞いてるぞ。よくやってくれた。男爵閣下も、さぞやお喜びになるだろう。
 で、密約書はどこかね?」

 「あ、はい、どうぞこちらになります」

 「む?やはり収納持ちであったか…まぁよい。そうであろうなと思っておったし。
 ほう、なるほど!未開封とはまた有り難い。これならば証拠としては申し分ない物になるであろうな。
 では、これを閣下にお渡ししよう。今から同行して貰えるかね?」

 あれ?収納の事話してなかったっけ?まぁいいか。

 「はい、構いません。ご一緒させて頂きます」

 「あ、バロー殿、お待ちを。先日の報奨金がまだ。それから盗賊頭の件で少々報告を」

 「そうか、ならばレイバックも供に参れ。閣下から報奨金を渡して貰おうじゃないか。報告もついでに済ませれば良かろうて」

 バローさんって、わりと合理的に考えるよね。やっぱり有能な人なんだろうなぁ。
 で、結局3人で男爵の所に向かう事になりました。



 「…そうであるか。それはまた…」

 男爵の執務室にやって来た僕達は、和かな男爵に出迎えられたんだけど、さすがにグラルの件を聞いた時には、少し顔色を悪くしました。

 「ふむ…閣下。ユーマ君の話には筋が通っておりますぞ?法に照らして何ら問題はありませぬ。
 閣下のお気持ちは収まらぬやもしれませんが…
 しかし、この通りユーマ君は密約書の回収にも協力してくれております。もとよりエリーヌお嬢様の件で大きな借りもありましょう。
 これを譲らねば、閣下のお名前を下げるだけになりますな」

 「うむ…そうであるよな。極刑をもってエリーヌに報いてやろうと思っておったが…
 わかった。そやつに関してはユーマ君に任せる。精々こき使って私の気持ちを晴らしてくれたまえ」

 「ありがとうございます。閣下の願い心しておきます」

 やったね!まさかバローさんが後押ししてくれるとは思わなかったけど。

 「ではユーマ君。改めて感謝と供に盗賊討伐の報奨金と、依頼の達成報酬を渡すよ。
 まずは報奨金から一人当たり大金貨2枚、総計大金貨24枚。
 それから報酬として大金貨10枚だ。
 そこから奴隷1人分大金貨20枚を差し引いて…」

 「閣下!」

 「はっはっは!何、冗談であるよ。さぁ受け取ってくれ」

 ほんとに冗談かな?一瞬本気っぼい感じがしたんだけど…
 でもとりあえずこれでひと段落。

 と思ってたらもう一波乱あったんです。
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