転移先で世直しですか?いいえただのお散歩です

こうたろう

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第三章 バーナムの街

第83話

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 大きな影の後ろ姿を見送る僕達。
 と、マイラさんがポツリと一言洩らしました。

 「やらかしてるねぇ…」

 どうやらさっきの連中は、見事ドラゴンの方の巣を引き当ててたみたいです。ご愁傷様。

 「恐らく先程の連中では、ブレス攻撃を防ぐ事は出来ないだろうねぇ。
 後は、卵を壊さずに回収させる事さえ出来ていれば、大人しく巣に帰ってくれるはずさ。
 あのアホ共が、ヤケを起こしてない事を期待しよう」

 …マイラさん、フラグって言うんです、それ。

 まさにその瞬間、哀しみを帯びた叫びが聞こえて来ました。

 …ね?

 「不味いねぇ…あの連中どうやら最悪の行動を取ったようだ。
 卵を失ったヤツ等は、怒りと悲しみで見境無く暴れるよ。
 恐らくアタシらにも気付いてたはず。こっちに来るよ」

 冷静な分析ありがとうございます…

 「この辺りには身を隠すような場所なんてない。迎え討つしかないだろうねぇ」

 「マイラさん、何かいい方法が?」

 「こっちが聞きたいねぇ…」

 …ないんかい!

 そうこうしてる間に、恐らくさっきのヤツだろう。こちら目掛けて飛んでくる姿が視界に入ってきました。
 程なく目の前にその凶悪な体躯からだを表し、完全に僕達をターゲットにしているのがわかります。
 どうすんだコレ?

 飛竜ワイバーンはその翼をはためかせ、ホバリングしながら胸を膨らませました。

 ヤツが口を開くと同時に眩い光が視界を埋め尽くします。

 …
 ……
 ………ん?

 ブレス攻撃が直撃した割にダメージ的なのがありません。 

 眩い光に閉じた目を開くと、目の前には美しく煌めく水のヴェールが広がっていました。

 「シアっ!」

 揺らめくヴェールの向こう側には飛竜ワイバーンの首に牙を立てた水竜ルーテシアの姿が透けて見えます。
 暴れる飛竜ワイバーンを力尽くで捻り落とした水竜ルーテシアは、もがく獲物を足元に抑えつけると、勝鬨を上げるかのように咆哮しました。

 『はっはっは!こんな羽根トカゲ如きなど、我にとっては羽虫とかわらんのじゃ!」

 おぉ!シアがカッコいい!

 再び眩い光が辺りを照らし水のヴェールが掻き消えた後、そこには生き絶えた飛竜ワイバーンと、怒りの表情の全裸美女が残されていました。

 「このクソトカゲのせいで、ユーマ様に買って貰った服が千切れ飛んでしもうたのじゃ!
 余計な事をしよってからにっ!」

 シアは、事切れた飛竜ワイバーンの身体をげしげし蹴りながら文句を言ってます。
 その前に服!立派なのがぷるんぷるんしてるから!


 マイラさんが、馬車からシアに着替えを運びに行ったあと、グラルが話しかけて来ました。

 「ははっ…旦那ァ、あっしは夢でも見てるんで?
 ワイバーンが飛んで来てこりゃ死んだなぁって思えば、シアさんがでっけぇドラゴンになってワイバーンを噛み殺してるじゃないですか。
 旦那方がただモンじゃねぇってわかってたつもりだったんですがね、こりゃ理解の範疇を超えてますぜ」

 「あぁ!そっか。ごめん。グラルにはシアの事は説明してなかったか。シアは水の精霊竜なんだよね。
 水竜ルーテシアって呼ばれてて、だからシアね」

 「旦那の秘密は、どんだけスケールがデカいんですかね。今、旦那の奴隷になってて良かったって思えてます。
 そうでもなけりゃ黙ってられる自信がねぇっすわ…」

 なるほど、そういう捉え方も出来るのね。

 「ねぇユーマ、盛り上がってるとこ悪いんだけど、あのワイバーン回収して来なさいよ。ほっといたら草原狼のエサになっちゃうわよ?勿体ない」

 「あ!そうだね、忘れてたよ。行ってくる!」



 飛竜ワイバーンの死骸のところに駆け付けると、着替え終わったシアとマイラさんが何やら話しています。

 「それなら解体するのはアタシがやった方が確実だねぇ」

 「我もワイバーンなど食べた事はないのじゃ。ユーマ様も初めてじゃから、きっと喜んでくれるじゃろうなぁ」

 「シア!ありがとう!助かったよ!マイラさんもありがとうございます」

 2人に声をかけると、シアが満面の笑みで迎えてくれます。

 「ユーマ様!我もなかなかやるじゃろ?たまにはいい所も見せておかんとのぅ!」

 「いい所って、かっこ良過ぎだわ。シアさん」

 「ほんとそれ!めちゃくちゃかっこ良かったから!シアが従魔になってくれてて良かった」

 普段は貶される事の方が多く、それに快感を覚えるようになったシアも、流石に正面からべた褒めされるのは嬉しいらしく、美女のデレ顔という貴重なものを見る事が出来ました。

 「それで、このワイバーンを回収しに来たんだけどさ、ワイバーンって素材としてはどうなの?マイラさんなら詳しいでしょ?」

 「あぁ、これでも素材屋だからね。ワイバーンの素材なんてものもたまには扱ってたよ。
 ハッキリ言って宝の山だねこいつは。
 羽根トカゲの方だったら、所詮はトカゲだからそれ程でもないんだがね、これは下位とはいえドラゴンなんだ。総額にすれば金貨万枚超えだよ」

 まじか。

 「基本的に捨てるべき部位がないんだよ。魔石、鱗、革、飛膜、骨、内臓、牙、爪、目玉に生殖器、肉や脳みそだって食材になるんだ。
 だから全部回収したいけどねぇ…
 なにしろこの大きさだから、魔石と鱗の一部とかだけを剥ぎ取りして、残りは焼却処分だ。勿体ないが仕方ないねぇ。
 さぁ、今から解体してしまうよ」

 マイラさん、大事な事忘れてますよー!
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