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第三章 バーナムの街
第73話
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「食事の際は呑んでいなかったようだが、ダメなわけではないんだろう?わしのお気に入りの銘柄なんだよ」
男爵は、グラスにワインを注ぎながらそう言いました。
すげー断りにくいやつじゃん。
「あまり多くは…あ、頂きます」
「では、娘の無事と我々の出会いに乾杯」
気さくな雰囲気でグラスを掲げると、一口。
「ふむ、やはり美味い。いかがかね?ユーマ君」
いや、いかがかねって言われてもねぇ。転移前にも数えるほどしかワインなんて飲んだ事ないし…
「ワインに詳しい訳ではないので、上手いことは言えないですが、凄く美味しいですね」
「そうだろう。なかなか貴重なワインでね、これ一本で大金貨が10枚程になるのだよ。価格に見合うだけの味だがね」
…まじすか。高っ!
「おや、もう始めておられましたか。閣下ワシもぜひご相伴頂けますかの」
「もうグラスを用意しておるではないか。仕方ない」
男爵とバローさんは、随分心易い関係みたいだね。もっとこう上下関係とか厳しいのかと思ってたけど。
「貴方様、わたくしもご相伴よろしいかしら?」
ジェシカさんも続けて登場ですか。
彼女は、先程のドレスをナイトドレスに着替え楽な雰囲気に。
男爵からグラスを受け取ると、なんと一気に飲み干しました。
「おいおい、そんな安酒の様に飲まないでくれ。キミだって、コレがいい酒だって知っているだろうに」
「もちろんですわ。ですけど、酔わないと話せませんもの。わたくしだってストレスを感じますのよ?」
あれ?この人なんか思ってたのと、雰囲気から違うぞ?
なんかもっとおとなしいというか、楚々とした雰囲気の人かと思ってたんだけどなぁ。
「そもそも、貴方様がレイラ様にキツく言えないのは存じておりますけど、今回の事はわたくしも「おこ」ですわよ?
ユーマさんのお陰で救われたのはエリーヌだけじゃなく、ご自身もだと思って下さいましね?」
「ぐ…確かにそれは…」
「わかってらっしゃいますのね?わたくしが「きゅっ」ってせずに済んで良かったですわ。
ユーマさん、本当にありがとうございました。ともすれば男爵家の危機でしたの」
「おこ」とか「きゅっ」とかジェシカさんって、妙に貴族っぽくない言葉遣いをしてるよなぁ…なんでだろ?
意外と彼女も転移者だったりして。
小一時間ほど飲みながらの雑談は進み、バローさんからは妖精の事を探られたり、男爵からは素性をさりげなく探られたりしました。
そしてとうとう、予想を裏切らない発言が男爵から出てしまったんです。
「ジェシカには、生まれる前の記憶があるそうなんだよ。それが本当なのかはわからんのだがね」
「酷いですわ。お客様の前でわたくしを嘘つき扱いされるんですの?
わたくしからすればユーマさんなんてお名前を聞くと、親しみが湧くのですけれどねぇ…」
ジェシカさんのそれは、完全に疑ってる目だし…
「ねぇユーマさん、貴方のご出身ってどちらでいらっしゃるの?無くはないけど珍しいお名前でしょう?」
「ジェシカ様、既に男爵様にも申し上げたんですが、とある制約がありまして、全ての身元を明かす事が禁止されています。
万一コレを破ってしまいますと、僕が旅する理由すらなくなってしまうんです。どうか御容赦ください」
ジェシカさんは明らかに落胆した顔で僕を見ると、男爵に一言告げて部屋を出て行きました。
「ユーマ君、気を悪くせんでくれ。アレの言うには、出来れば思い出したくなかったそうなんだよ。そのせいで時々、必要以上に苦しむ事もあるそうでな」
「そうなんですか。お役に立てず申し訳ないです。ジェシカ様のご期待に添えれば良かったのですが…」
「ふむ、少々空気が重たくなってしまったな。話題を変えよう。
ユーマ君にちと相談なんじゃが、君の旅にエリーヌを同行させて貰う事は出来んだろうか?勿論その分、わしからは旅の援助をさせて貰う。
あの娘は父親のわしが言うのもおかしいが器量も性格も良い。本来なら貴族の娘としてどこぞの良家に嫁いで貰わねばならんのじゃが、盗賊に手篭めにされかけた娘を欲しがる家などないのだよ。
ユーマ君に貰ってくれと頼みたいところなんじゃが、いきなり押し付けるわけにも行かぬし。
旅に出ていたと言う話であれば、先の話も誤魔化しやすくなるでな。考えては貰えんか?」
あの…それ、更に重たい話じゃん。
要は、連れて歩いて既成事実を作るか、襲われた話を無かった事にしたいって事だよね。
めちゃくちゃ迷惑なんですけど…
「色々と話せない事の多い身です。ずっと連れて旅するわけにも行かないかと思うのですが…
最低でも、僕のことを他言しない誓約魔法を結んで貰う必要がありますし。
とりあえず、仲間にも相談させて下さい」
「そうであるか…わかった。あくまでわしからの無理な願いでもある。もし可能であればで構わぬが、よろしくお願いしたい」
うわぁ…なんでこう、厄介事を言ってきますかね。
ネルに相談してみるしかないか。
僕の事にしても、マイラさんの都合にしても、秘密にしないといけない事が多過ぎるんだよね。
最悪奴隷化でもしとかなきゃなぁ…
こうして、ジェシカさんとエリーヌお嬢様の問題を残したまま、食後のお付き合いはお開きになりました。
男爵は、グラスにワインを注ぎながらそう言いました。
すげー断りにくいやつじゃん。
「あまり多くは…あ、頂きます」
「では、娘の無事と我々の出会いに乾杯」
気さくな雰囲気でグラスを掲げると、一口。
「ふむ、やはり美味い。いかがかね?ユーマ君」
いや、いかがかねって言われてもねぇ。転移前にも数えるほどしかワインなんて飲んだ事ないし…
「ワインに詳しい訳ではないので、上手いことは言えないですが、凄く美味しいですね」
「そうだろう。なかなか貴重なワインでね、これ一本で大金貨が10枚程になるのだよ。価格に見合うだけの味だがね」
…まじすか。高っ!
「おや、もう始めておられましたか。閣下ワシもぜひご相伴頂けますかの」
「もうグラスを用意しておるではないか。仕方ない」
男爵とバローさんは、随分心易い関係みたいだね。もっとこう上下関係とか厳しいのかと思ってたけど。
「貴方様、わたくしもご相伴よろしいかしら?」
ジェシカさんも続けて登場ですか。
彼女は、先程のドレスをナイトドレスに着替え楽な雰囲気に。
男爵からグラスを受け取ると、なんと一気に飲み干しました。
「おいおい、そんな安酒の様に飲まないでくれ。キミだって、コレがいい酒だって知っているだろうに」
「もちろんですわ。ですけど、酔わないと話せませんもの。わたくしだってストレスを感じますのよ?」
あれ?この人なんか思ってたのと、雰囲気から違うぞ?
なんかもっとおとなしいというか、楚々とした雰囲気の人かと思ってたんだけどなぁ。
「そもそも、貴方様がレイラ様にキツく言えないのは存じておりますけど、今回の事はわたくしも「おこ」ですわよ?
ユーマさんのお陰で救われたのはエリーヌだけじゃなく、ご自身もだと思って下さいましね?」
「ぐ…確かにそれは…」
「わかってらっしゃいますのね?わたくしが「きゅっ」ってせずに済んで良かったですわ。
ユーマさん、本当にありがとうございました。ともすれば男爵家の危機でしたの」
「おこ」とか「きゅっ」とかジェシカさんって、妙に貴族っぽくない言葉遣いをしてるよなぁ…なんでだろ?
意外と彼女も転移者だったりして。
小一時間ほど飲みながらの雑談は進み、バローさんからは妖精の事を探られたり、男爵からは素性をさりげなく探られたりしました。
そしてとうとう、予想を裏切らない発言が男爵から出てしまったんです。
「ジェシカには、生まれる前の記憶があるそうなんだよ。それが本当なのかはわからんのだがね」
「酷いですわ。お客様の前でわたくしを嘘つき扱いされるんですの?
わたくしからすればユーマさんなんてお名前を聞くと、親しみが湧くのですけれどねぇ…」
ジェシカさんのそれは、完全に疑ってる目だし…
「ねぇユーマさん、貴方のご出身ってどちらでいらっしゃるの?無くはないけど珍しいお名前でしょう?」
「ジェシカ様、既に男爵様にも申し上げたんですが、とある制約がありまして、全ての身元を明かす事が禁止されています。
万一コレを破ってしまいますと、僕が旅する理由すらなくなってしまうんです。どうか御容赦ください」
ジェシカさんは明らかに落胆した顔で僕を見ると、男爵に一言告げて部屋を出て行きました。
「ユーマ君、気を悪くせんでくれ。アレの言うには、出来れば思い出したくなかったそうなんだよ。そのせいで時々、必要以上に苦しむ事もあるそうでな」
「そうなんですか。お役に立てず申し訳ないです。ジェシカ様のご期待に添えれば良かったのですが…」
「ふむ、少々空気が重たくなってしまったな。話題を変えよう。
ユーマ君にちと相談なんじゃが、君の旅にエリーヌを同行させて貰う事は出来んだろうか?勿論その分、わしからは旅の援助をさせて貰う。
あの娘は父親のわしが言うのもおかしいが器量も性格も良い。本来なら貴族の娘としてどこぞの良家に嫁いで貰わねばならんのじゃが、盗賊に手篭めにされかけた娘を欲しがる家などないのだよ。
ユーマ君に貰ってくれと頼みたいところなんじゃが、いきなり押し付けるわけにも行かぬし。
旅に出ていたと言う話であれば、先の話も誤魔化しやすくなるでな。考えては貰えんか?」
あの…それ、更に重たい話じゃん。
要は、連れて歩いて既成事実を作るか、襲われた話を無かった事にしたいって事だよね。
めちゃくちゃ迷惑なんですけど…
「色々と話せない事の多い身です。ずっと連れて旅するわけにも行かないかと思うのですが…
最低でも、僕のことを他言しない誓約魔法を結んで貰う必要がありますし。
とりあえず、仲間にも相談させて下さい」
「そうであるか…わかった。あくまでわしからの無理な願いでもある。もし可能であればで構わぬが、よろしくお願いしたい」
うわぁ…なんでこう、厄介事を言ってきますかね。
ネルに相談してみるしかないか。
僕の事にしても、マイラさんの都合にしても、秘密にしないといけない事が多過ぎるんだよね。
最悪奴隷化でもしとかなきゃなぁ…
こうして、ジェシカさんとエリーヌお嬢様の問題を残したまま、食後のお付き合いはお開きになりました。
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