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第三章 バーナムの街
第70話
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「レイドックさん。少しお聞きしたい事があるんですが…」
「何でしょうか?私がお答え出来る事かわかりませんが」
「実は…」
疑問って言うのは、エリーヌお嬢様の馬車が二台だった事と、護衛に冒険者しかいなかった事。
マイラさんが言っていた様に、貴族の護衛なら騎士や兵士が付いてもおかしくないし、馬車が二台だったわりに、捕まってたのは3人だけだったんだよなぁ。
「あぁ、そういう事ですね。うーん、説明してもいいものか…いや、お話します。調べればわかる事でもありますし」
あ、やっぱいいです!
って言えない感じだよね…聞かなきゃ良かった。
レイドックさんの話によれば、馬車が二台だったのは、ガルド市への資材の輸送便に便乗した為で、それ自体は大した問題じゃなかったんだよね。
資材も布や木材が多く、あとはギルド関連の調査資料が殆どで、盗賊にとって価値の無い物が大部分だったので燃やされたんだろうってさ。
ただ、問題は護衛の方だった。
「実は、エリーヌお嬢様には護衛がつけられなかったんです…」
本来なら兵士を付けるべきで、ハイネン男爵もそう指示するつもりでいたはずだった。
ところが、それを妨害して護衛をつけさせず、輸送馬車に便乗する事でしか、護衛が確保出来ない状況を画策した人物がいたそうだ。
「ハイネン男爵閣下の奥様です」
エリーヌお嬢様には、姉が2人と弟が1人いるらしい。
で、姉2人の実母がその奥様であり、エリーヌお嬢様と、長男である弟は側室を母に持つそうだ。
「奥様は、少し遠方の子爵家の次女でいらっしゃいまして、格下の男爵家に嫁ぐのも望まれてはなかったらしいです。
そしてエリーヌお嬢様の母であらせられる方は、ガルド市の総領事である騎士爵家のご出身なのです。」
将来的にハイネン男爵家は、騎士爵家の係累である長男が継ぐ事となり、子爵家出身の奥様としては面白い話ではないんだろう。とは言え、男子を産めなかった身としては、その弟君が跡継ぎになる事を止める事も出来ないと。
「エリーヌお嬢様も、そのお母様も大変美しく、気立てもお優しい方々ですので、領民からも家臣からも非常に人気があるんです。
ハイネン男爵閣下も、お2人を大層愛されておるのですが、やはり奥様は格上のご出身ですので、無碍にする事は出来ませんから…」
つまり、弟君をどうこうするわけにもいかず、色々な鬱憤をエリーヌお嬢様に向けて発散しているってことみたい。
「今回のガルド市訪問の際には、近所へ行くだけでそれ程危険な道中でもないと言う理由を盾に、経費削減だということで、兵士の同行をさせないようにハイネン男爵閣下へ働きかけておられました。閣下も渋々ながら…」
あれ?もしかしたら奥様とやらに恨まれるやつ?
やらかしたかな…
「隊長!ハイネン男爵閣下のお使いの方が見えられました!」
「そうか、お通ししてくれ」
わーい、対応する間も無く話が進もうとしてるや…
「貴殿がエリーヌお嬢様をお助け下さった御仁ですな!ワシはハイネン男爵家の家宰をしておるバローと申す。
ハイネン閣下が、この度の話を直接聞きたいと仰っておりましてな。すまないが、今から同行してもらいたい」
「バロー殿、私から報告書を上げようかと思っていたんですが…」
「あぁ、そうじゃな…ならばレイドックも同行せい。
立場上報告せねばならんじゃろうし、ついでに済ませた形にすればよかろう」
逃げ道がなくなって来ました。
「あの…同行者も居りますし、僕みたいな者が男爵様にお会いするなんて恐れ多いです。ちょっと遠慮させて…」
「あぁ、そのような些事気に致すな。ハイネン閣下は大らかな方であるし、同行者共々屋敷にて歓待するように指示を受けておる。街に滞在の間は男爵家にて世話をさせて貰うからの。
ワシも、エリーヌお嬢様を救って貰った事には感謝しておるんじゃ。という訳で何の遠慮も要らんぞい」
はい、退路はなくなりました…
「そうですか、ではお世話になります…」
「緊張しておるのか?楽にしてよい。閣下も気さくな方であるよ。さぁ、参ろうか」
確かエリーヌお嬢様にも、家を訪ねる様に言われてたけどさ、まさか家の方から訪ねてくるとか、想定の範囲を超えてるって…
そんな事を思う間に、男爵家の屋敷まで連れて来られた僕達は、あれよあれよという間に、ハイネン男爵その人との面会をする為に、応接室まで案内されています。
「ユーマ君じゃったな。閣下も間も無く見えられるが、気楽にのっ」
のっていわれてもねぇ…落ち着かないってーの!
とか思ってるうちにノックの音。慌てて立ち上がる僕。
「おぉ、済まない。お待たせしてしまったね。わしがエリーヌの父、ジョルジュ・ハイネンだ。
この度は、我が娘エリーヌの窮地を救って頂き感謝しておるよ。ユーマ君だったね。座っておくれ」
ハイネン男爵は、ロマンスグレーの髪をオールバックに撫で付け、同じくグレーの口髭を蓄えたダンディなオジサンでした。
確かに優しそうな雰囲気で、にこやかに微笑んでくれていて安心しました。
「着いて早々、休まる間も無かっただろう?今飲み物を用意させるからね。
エリーヌ救出の武勇伝を聞かせて貰いたいな。
その後は晩餐を用意させておるから、楽しんでおくれ」
完全に歓待モードに入ってる男爵閣下を前にして、逃げる事なんて出来ない僕は、諦めて話を始めました。
「何でしょうか?私がお答え出来る事かわかりませんが」
「実は…」
疑問って言うのは、エリーヌお嬢様の馬車が二台だった事と、護衛に冒険者しかいなかった事。
マイラさんが言っていた様に、貴族の護衛なら騎士や兵士が付いてもおかしくないし、馬車が二台だったわりに、捕まってたのは3人だけだったんだよなぁ。
「あぁ、そういう事ですね。うーん、説明してもいいものか…いや、お話します。調べればわかる事でもありますし」
あ、やっぱいいです!
って言えない感じだよね…聞かなきゃ良かった。
レイドックさんの話によれば、馬車が二台だったのは、ガルド市への資材の輸送便に便乗した為で、それ自体は大した問題じゃなかったんだよね。
資材も布や木材が多く、あとはギルド関連の調査資料が殆どで、盗賊にとって価値の無い物が大部分だったので燃やされたんだろうってさ。
ただ、問題は護衛の方だった。
「実は、エリーヌお嬢様には護衛がつけられなかったんです…」
本来なら兵士を付けるべきで、ハイネン男爵もそう指示するつもりでいたはずだった。
ところが、それを妨害して護衛をつけさせず、輸送馬車に便乗する事でしか、護衛が確保出来ない状況を画策した人物がいたそうだ。
「ハイネン男爵閣下の奥様です」
エリーヌお嬢様には、姉が2人と弟が1人いるらしい。
で、姉2人の実母がその奥様であり、エリーヌお嬢様と、長男である弟は側室を母に持つそうだ。
「奥様は、少し遠方の子爵家の次女でいらっしゃいまして、格下の男爵家に嫁ぐのも望まれてはなかったらしいです。
そしてエリーヌお嬢様の母であらせられる方は、ガルド市の総領事である騎士爵家のご出身なのです。」
将来的にハイネン男爵家は、騎士爵家の係累である長男が継ぐ事となり、子爵家出身の奥様としては面白い話ではないんだろう。とは言え、男子を産めなかった身としては、その弟君が跡継ぎになる事を止める事も出来ないと。
「エリーヌお嬢様も、そのお母様も大変美しく、気立てもお優しい方々ですので、領民からも家臣からも非常に人気があるんです。
ハイネン男爵閣下も、お2人を大層愛されておるのですが、やはり奥様は格上のご出身ですので、無碍にする事は出来ませんから…」
つまり、弟君をどうこうするわけにもいかず、色々な鬱憤をエリーヌお嬢様に向けて発散しているってことみたい。
「今回のガルド市訪問の際には、近所へ行くだけでそれ程危険な道中でもないと言う理由を盾に、経費削減だということで、兵士の同行をさせないようにハイネン男爵閣下へ働きかけておられました。閣下も渋々ながら…」
あれ?もしかしたら奥様とやらに恨まれるやつ?
やらかしたかな…
「隊長!ハイネン男爵閣下のお使いの方が見えられました!」
「そうか、お通ししてくれ」
わーい、対応する間も無く話が進もうとしてるや…
「貴殿がエリーヌお嬢様をお助け下さった御仁ですな!ワシはハイネン男爵家の家宰をしておるバローと申す。
ハイネン閣下が、この度の話を直接聞きたいと仰っておりましてな。すまないが、今から同行してもらいたい」
「バロー殿、私から報告書を上げようかと思っていたんですが…」
「あぁ、そうじゃな…ならばレイドックも同行せい。
立場上報告せねばならんじゃろうし、ついでに済ませた形にすればよかろう」
逃げ道がなくなって来ました。
「あの…同行者も居りますし、僕みたいな者が男爵様にお会いするなんて恐れ多いです。ちょっと遠慮させて…」
「あぁ、そのような些事気に致すな。ハイネン閣下は大らかな方であるし、同行者共々屋敷にて歓待するように指示を受けておる。街に滞在の間は男爵家にて世話をさせて貰うからの。
ワシも、エリーヌお嬢様を救って貰った事には感謝しておるんじゃ。という訳で何の遠慮も要らんぞい」
はい、退路はなくなりました…
「そうですか、ではお世話になります…」
「緊張しておるのか?楽にしてよい。閣下も気さくな方であるよ。さぁ、参ろうか」
確かエリーヌお嬢様にも、家を訪ねる様に言われてたけどさ、まさか家の方から訪ねてくるとか、想定の範囲を超えてるって…
そんな事を思う間に、男爵家の屋敷まで連れて来られた僕達は、あれよあれよという間に、ハイネン男爵その人との面会をする為に、応接室まで案内されています。
「ユーマ君じゃったな。閣下も間も無く見えられるが、気楽にのっ」
のっていわれてもねぇ…落ち着かないってーの!
とか思ってるうちにノックの音。慌てて立ち上がる僕。
「おぉ、済まない。お待たせしてしまったね。わしがエリーヌの父、ジョルジュ・ハイネンだ。
この度は、我が娘エリーヌの窮地を救って頂き感謝しておるよ。ユーマ君だったね。座っておくれ」
ハイネン男爵は、ロマンスグレーの髪をオールバックに撫で付け、同じくグレーの口髭を蓄えたダンディなオジサンでした。
確かに優しそうな雰囲気で、にこやかに微笑んでくれていて安心しました。
「着いて早々、休まる間も無かっただろう?今飲み物を用意させるからね。
エリーヌ救出の武勇伝を聞かせて貰いたいな。
その後は晩餐を用意させておるから、楽しんでおくれ」
完全に歓待モードに入ってる男爵閣下を前にして、逃げる事なんて出来ない僕は、諦めて話を始めました。
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