転移先で世直しですか?いいえただのお散歩です

こうたろう

文字の大きさ
上 下
20 / 170
第一章 異世界に来ちゃいました

第19話

しおりを挟む
 『主人様!ヤツが!ヤツが現れたです!』

 朝の目覚ましはそんな風羽花の叫びでした。

 『昨日のあいつなのです!今度こそ仕留めるです!』

 風羽花はそう言いながら、今にも飛び出して行きそうな様子をしています。

 「ちょっと待って、風羽花。慌てないで?僕も一緒に確認するから」

 風羽花を窘めながら窓から様子を伺うと、それは滝壺の中にいました。

 「蛇?」

 まだ朝靄が立ち昇る夜明け寸前の時間。しかも朝日を遮る木々のせいもあり、シルエットのみの姿は鎌首を持ち上げた大蛇の様に見えます。
 仲間達を起こさないように静かに小屋を出て、滝壺の畔へと慎重に足を運ぶと、こちらに気付いたようにシルエットが移動し始めました。
 水面から頭まではおよそ2メートル程度。水中にある身体のサイズは予想すら出来ない状況です。

 『我が住まいによく参った。そこな鳥とは昨日以来であるな』

 シルエットは唐突に話かけて来ました。

 「もしかして貴方はこの滝壺の主でしょうか?昨日から周辺を荒らしてしまって申し訳ないです」

 一応棲家を荒らした事には後ろめたさもあり、一言詫びをいれてみました。

 『なに、些細な事であるよ。気にする程のものではない。我が住まいと知って来たわけでもなかろう?』

 「もちろんです。知らぬ事とはいえ、改めてお詫びを」

 『ふむ、人の子らしからぬ応対。驚きが先だ。しかしてこの様な辺鄙な場所に何用であろうか?』

 「この場に用事があるわけではありません。下流へ向かう道の途中、一晩の休憩場所としてここに滞在したまでです」

 シルエットから敵意は感じません、むしろこちらに興味深々といった雰囲気を醸し出しているくらい。

 『ではすぐに立ち去ってしまうと言うわけか…それは少々残念であるな。
 昨日より、ぬしらの様子が気になっておったのだが。とはいえ我の都合で足止めするわけにもいかぬし』

 「え?そうなんですか?でしたら急ぐ旅でもありません。もう1日この場所をお借りしても?」

 実際今すぐ行かなきゃいけない理由もないし、連泊出来るならそれはそれで、やりたい事もないわけじゃない。
 まぁウチの自称女神様がなんて言うかにもよるので、最終的な結論はそれからだけど。

 『無論構わぬ。我の邪魔になるものでもないでな。であれば…』

 「ヌシ様、申し訳ありません。僕には仲間がおります。その者の意見を確認する時間を頂けませんか?」

 『な、なんとそうであるか…うぬ…それは仕方ないであろうな。であれば良い報告を待つとしよう。
 我も急がねばならぬ都合もないゆえ、ぬしらの話がまとまれば我を呼ぶが良い。滝壺の畔に立ちこのベルを鳴らせ。すぐに参ろう』

 そう言うと、僕の前に淡い光が浮かび上がります。光に触れると、それは花火の様にパッと舞い散り、僕の手のひらには美しい装飾が施された銀色のハンドベルが残されました。

 『そのベルは、ぬしにやろう。人の子の言うところの贈り物じゃ。気に病む必要はないぞ?何も我の頼みを強制するつもりはないからの』

 「そうなんですか?そう仰って頂けるのでしたらありがたく頂戴いたします」

 『うむ。ではしばしの別れじゃ。ベルの音を首を長くして待っておるぞ、元から長いんじゃがなっ!あっはっはっ!」

 そう言いながら、滝壺の主のシルエットは水中へと沈んでいきました。
 最後なんか聞こえたけど…まさかの持ちネタ?
 言葉遣いの感じよりも軽い性格な気がします。



 「へぇ、なかなか面白いじゃない!そのヌシって見てみたいわね」

 あの後小屋に戻ると、何事もなかったかのようにみな熟睡してました。警戒レベル低っ!
 ただ、僕の動く気配を感じた銀が目を覚まして立ち上がったから、銀に寄りかかって寝ていたネルが床で頭を打って起きたのはご愛嬌です。銀には相当文句言ってたけど。

 みんなが目を覚ましたので、とりあえず朝食を簡単に済ませてから、再度小屋に集合して早朝の出来事を報告する事に。

 話を聞いた上でのみんなの意見を確認してみたんだけど、風羽花も銀も僕に従う姿勢だったし、ネルも興味深々の様子だったので、滝壺の主の要望を受け入れる形で滞在延長を決定しました。

 「それで、さっき言ってたベルってどんなのよ?見せて」

 「うん、いいよ!はい、コレ」

 「へぇ!なかなか良さそうな…ってコレ竜鈴(りゅうりん)じゃない!」

 「なにそれ?凄そうな名前だと思うけど」

 めちゃくちゃ気軽にくれたから、そんな名前が付いてるとか想像すらしなかったです。

 「竜鈴は、竜が心を許した相手に渡す宝物なのよ。
 個体ごとに違う音色で、鳴らせば何処にいても駆けつけてくれるってされてるわね。本当なのかは私も知らないけど」

 「それって本当ならとんでもない品物じゃん…」

 「そうね。でもコレがあるってことは、そのヌシさっきの話だと蛇って聞いてたけど竜なのかもしれないわ」

 「じゃあ、魔物ってことなんだ…?」

 「あー、いや、それは違うわ。
 簡単に言うとドラゴンと竜は別のモノなのよ。ガイアスでもほぼ混同されてるから、多分知ってる人は少ないんじゃないかしら。
 ドラゴンは魔石を持った魔物なんだけど、竜は分類するなら精霊になるのよ」

 「へぇ…そうなんだ?僕も違いはわからないかも」

 「そうかもしれないわ。仮に戦ったとして、その攻撃力や方法、身体の硬さなんかもよく似てるの。
 ただ、むしろドラゴンより竜の方が強いんじゃないかしらね」

 ネルの説明はわかりやすかったけど、滝壺の主、竜だったのかな?
 まぁ、実際に呼び出してみたらはっきりするか。

しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

高身長お姉さん達に囲まれてると思ったらここは貞操逆転世界でした。〜どうやら元の世界には帰れないので、今を謳歌しようと思います〜

水国 水
恋愛
ある日、阿宮 海(あみや かい)はバイト先から自転車で家へ帰っていた。 その時、快晴で雲一つ無い空が急変し、突如、周囲に濃い霧に包まれる。 危険を感じた阿宮は自転車を押して帰ることにした。そして徒歩で歩き、喉も乾いてきた時、運良く喫茶店の看板を発見する。 彼は霧が晴れるまでそこで休憩しようと思い、扉を開く。そこには女性の店員が一人居るだけだった。 初めは男装だと考えていた女性の店員、阿宮と会話していくうちに彼が男性だということに気がついた。そして同時に阿宮も世界の常識がおかしいことに気がつく。 そして話していくうちに貞操逆転世界へ転移してしまったことを知る。 警察へ連れて行かれ、戸籍がないことも発覚し、家もない状況。先が不安ではあるが、戻れないだろうと考え新たな世界で生きていくことを決意した。 これはひょんなことから貞操逆転世界に転移してしまった阿宮が高身長女子と関わり、関係を深めながら貞操逆転世界を謳歌する話。

調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜

EAT
ファンタジー
「どうしてこうなった?」 優れた血統、高貴な家柄、天賦の才能────生まれときから勝ち組の人生により調子に乗りまくっていた侯爵家嫡男クレイム・ブラッドレイは殺された。 傍から見ればそれは当然の報いであり、殺されて当然な悪逆非道の限りを彼は尽くしてきた。しかし、彼はなぜ自分が殺されなければならないのか理解できなかった。そして、死ぬ間際にてその答えにたどり着く。簡単な話だ………信頼し、友と思っていた人間に騙されていたのである。 そうして誰もにも助けてもらえずに彼は一生を終えた。意識が薄れゆく最中でクレイムは思う。「願うことならば今度の人生は平穏に過ごしたい」と「決して調子に乗らず、謙虚に慎ましく穏やかな自制生活を送ろう」と。 次に目が覚めればまた新しい人生が始まると思っていたクレイムであったが、目覚めてみればそれは10年前の少年時代であった。 最初はどういうことか理解が追いつかなかったが、また同じ未来を繰り返すのかと絶望さえしたが、同時にそれはクレイムにとって悪い話ではなかった。「同じ轍は踏まない。今度は全てを投げ出して平穏なスローライフを送るんだ!」と目標を定め、もう一度人生をやり直すことを決意する。 しかし、運命がそれを許さない。 一度目の人生では考えられないほどの苦難と試練が真人間へと更生したクレイムに次々と降りかかる。果たしてクレイムは本当にのんびり平穏なスローライフを遅れるのだろうか? ※他サイトにも掲載中

私の入る余地なんてないことはわかってる。だけど……。

さくしゃ
恋愛
キャロルは知っていた。 許嫁であるリオンと、親友のサンが互いを想い合っていることを。 幼い頃からずっと想ってきたリオン、失いたくない大切な親友であるサン。キャロルは苦悩の末に、リオンへの想いを封じ、身を引くと決めていた——はずだった。 (ああ、もう、) やり過ごせると思ってた。でも、そんなことを言われたら。 (ずるいよ……) リオンはサンのことだけを見ていると思っていた。けれど——違った。 こんな私なんかのことを。 友情と恋情の狭間で揺れ動くキャロル、リオン、サンの想い。 彼らが最後に選ぶ答えとは——? ⚠️好みが非常に分かれる作品となっております。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

少年神官系勇者―異世界から帰還する―

mono-zo
ファンタジー
幼くして異世界に消えた主人公、帰ってきたがそこは日本、家なし・金なし・免許なし・職歴なし・常識なし・そもそも未成年、無い無い尽くしでどう生きる? 別サイトにて無名から投稿開始して100日以内に100万PV達成感謝✨ この作品は「カクヨム」にも掲載しています。(先行) この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。 この作品は「ノベルアップ+」にも掲載しています。 この作品は「エブリスタ」にも掲載しています。 この作品は「pixiv」にも掲載しています。

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

処理中です...