転移先で世直しですか?いいえただのお散歩です

こうたろう

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第一章 異世界に来ちゃいました

第12話

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 獣は狼で間違いないようです。
 犬よりも一回り大きな身体に、鋭い牙。
 特にこの群れのリーダーと思われるヤツは、他をさらにもう一回り上回るサイズをしてる。

 僕が小屋を出ると、4匹がリーダーを守る様に位置し、その他は円状に囲いを作ってきました。
 1、2、3、4…全部で15匹となかなかの数の群れなんじゃないかな。

 「…悪いけど、鬼軍曹の命令なんだよ。大人しくやられてくれ」

 …すっげぇ悪役の台詞っぽいわー。

 そんな事も思いながら魔力を集めます。
 狙いはリーダーの一択。作り上げた岩弾を最大速度で打ち出す。
 きっと予想してなかったに違いない。リーダーは棒立ち状態。
 よし、仕留めた!
 と思ったんだけど、リーダーの前に飛び込んだ1匹の狼の身体に遮られてしまいました。

 岩弾はそいつの胴体を弾けさせ、確実にその命を絶ったはずだけど、本命には傷一つ負わせる事が出来なかった。
 しかも、この一撃で連中の警戒心はマックスになったみたいだ。不味いな…

 最初の不意打ちで連中の頭を潰して、後は順次殲滅のプランだったけど完全に失敗です。

 幸いさっきの攻撃で少し慎重になっているのか、まだかかってくる様子はなさそう。
 とはいえ徐々に包囲の輪を縮めて来ているあたり、相当場慣れした動きなんだと思います。
 きっと攻撃タイミングを読んでいるに違いない。

 瞬間、リーダーの狼が叫び声を上げ、10匹の狼が一斉に飛び掛かって来ました。

 …よし、予想通り。

 僕は用意していた魔力を風に変換させると、周囲に風の刃を飛ばす。
 その一撃で、半数が絶命し、残りの半数も脚を失うなり腹を裂くなりして戦闘不能状態となったようです。

 しかし群れの惨状を見たはずのリーダーに撤退する様子は見えません。
 彼我の戦力差は明確だと言うのに…
 相当の自信があるのか、隠し球があるのか、まだ油断は禁物みたいだね。

 見つめ合う事しばし、リーダーを守る3匹も含めて、全く動きが見られません。
 こちらの疲労を待っているのかな?

 いや、様子がおかしいです。

 リーダー狼が身体をふらつかせたように見えた後、その場に横倒しになってしまいました。
 なに何?なんだ?どうした?

 周りの狼達もリーダーを心配する様に、代わる代わる顔を近づけては、またこちらを警戒する。

 まさか、ここにくる前に負傷でもしていたんだろうか?僕はどうしても気になって近づいてみる事にしました。

 もちろん周りの奴らは牙を剥いて威嚇してきます。噛み付かれるわけにもいかないから、ちょっと動けなくなってもらわないとね。
 以前ネルから食らった神罰を思い出しながら、弱い雷で電気ショックを与えると、3匹とも舌を出して痙攣し始めました。まぁ、死ぬ事は無いだろうけど。

 護衛達を無力化した事で諦めたのか、リーダーは牙を見せながら唸るだけで抵抗する気はないようです。

「よし、抵抗しないなら攻撃はしないからな?落ち着けよ」

 そう語りかけながら様子を見ると、リーダーは脇腹に大きな裂傷があり、そこからはかなりの出血をしたような痕跡が残っていました。
 恐らくここに来る前に、何かから攻撃を受けてかなり不味い状態になっていたんじゃないかな?
 でも、群れの他の狼は怪我していたような様子はなかったよな。恐らく何か強力な敵に遭遇して、群れを守る為に戦って負傷したのかも。
 それで群れを守り切ったものの、ここまで来て限界を迎えてしまったってとこじゃないかな。

 そう思うと色々辻褄が合うなぁ…
 もしかしたら僕は結構酷い事をしてしまったのかも…

 僕は思わず、リーダーの脇の傷に手を当てて「治れ」と思いながら魔力を流します。

 …出来た。そんな気はしてたけど。

 淡い優しい光がリーダー狼の身体を覆うと、ざっくりと切り裂かれていた傷口がかなりのスピードで塞がっていきます。
 ほんの少しの間に、すっかり傷はなくなったみたい。
 そのせいか、リーダーの苦しげだった表情は落ち着きを取り戻し、荒かった呼吸も収まったように見えました。

「これで傷は大丈夫だと思うよ。ただ体力とか血は戻らないと思うから、しばらく大人しくしてたら元気になるはず。
 あー、あと群れの連中はごめん。こっちも身を守らなきゃいけなかったし、そこはお互い様って事にしといて」

 僕の言葉がどこまで理解できるかはわからないけど、リーダー狼に語りかけてみます。

「そこに倒れてる3匹は死んじゃった訳じゃないから、しばらくしたら復活すると思うよ。
 キミもまだ本調子には程遠いと思うから無理せずじっとしておきな?もうこちらから攻撃するつもりはないから、みんな回復したら森に帰るといい。
 もし、さっき死んだ連中の敵討ちしたいんなら、完全に体調戻ってから襲っておいで。
 その時は手加減なく殲滅するから、その覚悟でね」

 そう伝えると、リーダーは力無く丸くなる。どうやら休んで体力を回復するつもりでいるらしいです。

 僕は振り返る事なく、小屋へと戻る事にしました。
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