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5.安楽樹は渋々推理する

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 いつしか、話は安楽達の間だけで済むものではなくなっていた。レストランにいる人間全てが、こちらに注目している。地元の知り合いが殺人犯だと告発されているのだ。嫌でも注目はしてしまうことだろう。

「……どうだ、この国は。中々いい国だろ?」

 どんな形で反論するのかと思ったら、小さく溜め息を漏らして着席する管理人。窓の外に見えるオーシャンビューは、息をふと止めてしまいそうに蒼い。

「えぇ、正直――ここに来るためにパスポートを取得したような人間ですが、ここまで他国が魅力的だとは思わなかった。特にシエスタ……でしたっけ? 残念ながら今回はそれどころではなかったけれど、こちらには昼間に3時間ほどの昼寝休憩がある。この時間帯はお店なんかも全部閉まるなんて聞いていたから、その光景を見たかったものです」

 安楽が答えると、管理人は小さく鼻で笑う。

「日本人は働きすぎなんだよ。日が昇ってから暗くなるまで会社で働いて、帰ったら寝るだけなんだろ? 昼間良くて1時間くらいしか休めないと聞いたぞ」

 海外から見て、果たして日本人は働きすぎなのであろうか。基準が日本である日本人からすれば、他の国のことなんて分からない。管理人はきっと、娘さんから話を聞いていたのであろう。そう、今回の旅行においての唯一の共通点であろうに、中々語られることのなかった娘さんから。

「ですが、シエスタの後も暗くなるまで働くんじゃないですか? いやいや、話には聞いていましたが、こっちは夜の9時くらいまで明るいんですね。なんだか不思議な気分でしたよ」

 犯人の正体を暴いているはずなのに、いつのまにか管理人との雑談になってしまっている安楽。そこに菱田が口を挟んだ。

「あの時間まで明るかったおかげで、外作業ができたんだけどな」

 菱田の思いつきで、窓の外に板を打ち付けに向かった安楽。あの時、帰ってきてしばらくもしないうちに午後9時を迎えていたが、あの作業が照明もなくできたのも、ここが日本ではなくギリシャだから――ということだったのであろう。せっかくの海外も、そのほとんどを孤島で過ごしてしまったら、あまり意味がないように思う。

「ちなみに、管理人さん。日本語がそこまでお上手なのも、やっぱり娘さんの影響ですか?」

 管理人はもう罪を認めたのか。それとも、今さら話をはぐらかして、なんとか逃れようとしているのか。その様子からは判断しかねる。
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