上 下
92 / 98
5.安楽樹は渋々推理する

15

しおりを挟む
「なるほどな――。では、あの時の解決劇は、俺が盗聴器で内容を聞いていることを前提に行われたものだったんだな。だったら嵐が止むと同時に、島に君達を置いてきたほうが良かったのかもしれない。そうすれば、いずれ食糧が尽き、早かれ遅かれ、君達は全滅していただろうに」

 管理人がぽつりと漏らした言葉は、実に恐ろしいものだった。それをおそらく予期していたであろう安楽と榎本を除いて、全員が表情をこわばらせていた。

「だから、あの解決編を用意させてもらったんだ。無事に島から脱出するためには、あなた以外が犯人の解決編を用意し、一度は事件を解決する必要があった。そうしないと、あなたが迎えに来ないかもしれない。そう考えたからこそ、口裏を合わせて、可能な限り整合性があるような筋書きを考えたのさ」

 榎本が安楽の言葉に頷く。安楽と榎本の狙いは、事件を一度解決させて、無事に本土に戻ることだった。あれも、安楽と榎本が意図的に用意したミスリードだったのである。あれを聞いて、自分が犯人だと疑われてはいないと確信したからこそ、管理人は蘭達をを迎えに来てくれたのだ。もしそうでなかったら――そこまで考えて、ふと疑問が浮かぶ。

「待って。そうやって迎えに来るように促したってことはさ、私達を島に送った後、ずっと迎えに来ないってこともできたってことだよね? それのほうがよっぽど効率いいと思わない? わざわざ島に上陸して手を下すなんてことなんてせずとも、放っておけば確実に私達を全員殺すことができたんだから――」

 ここは海外。しかも、島の持ち主は管理人自身。言い方は悪いかもしれないが、あの島では管理人こそが法だった。もし、島にいる時に管理人が犯人だと暴いてしまったとしたら、下手をすると迎えに来てもらえなかったかもしれない。逆説的に彼が迎えにさえ来なければ、全員死んでいた。ゾッとする話だが、そうすれば、管理人は自分の手を全く汚すことなく、大量殺人が可能だったのではないだろうか。

「その辺りのことは、残念ながら俺にも分からない。そこから先のことを話してくれるかどうかは――管理人さん次第だよ」

 安楽はそう言うと、改めてコーヒーを持ってきてくれた店員に礼を言い、ユーロ札を手渡した。慣れていないだろうに、チップのつもりなのだろう。管理人はそれを黙って眺めるだけだった。それを見た安楽がさらに口を開く。

「管理人さんがここまでの話を認めようが認めまいが、俺はこのことを警察に話そうと思う。その後の判断は警察に任せるつもりです」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

保健室の秘密...

とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。 吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。 吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。 僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。 そんな吉田さんには、ある噂があった。 「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」 それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。

人違いで同級生の女子にカンチョーしちゃった男の子の話

かめのこたろう
現代文学
内容は題名の通りです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

体育教師に目を付けられ、理不尽な体罰を受ける女の子

恩知らずなわんこ
現代文学
入学したばかりの女の子が体育の先生から理不尽な体罰をされてしまうお話です。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

紙の本のカバーをめくりたい話

みぅら
ミステリー
紙の本のカバーをめくろうとしたら、見ず知らずの人に「その本、カバーをめくらない方がいいですよ」と制止されて、モヤモヤしながら本を読む話。 男性向けでも女性向けでもありません。 カテゴリにその他がなかったのでミステリーにしていますが、全然ミステリーではありません。

雨の向こう側

サツキユキオ
ミステリー
山奥の保養所で行われるヨガの断食教室に参加した亀山佑月(かめやまゆづき)。他の参加者6人と共に独自ルールに支配された中での共同生活が始まるが────。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...