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5.安楽樹は渋々推理する

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 店員がコーヒーを運んできたことで、言葉を区切る安楽。その店員を呼び止めて「あの、冷たいほうが良かったんだけど」と湯気の立つカップを指差す。しかし、振り返った店員は困ったように苦笑いを浮かべるばかり。

「――話の腰を折るようだが、どうも発音が悪いな。それだと伝わらないと思うよ」

 安楽に代わって榎本が店員に伝える。店員はすぐに理解してくれたのか、ホットコーヒーのカップを下げつつ、厨房のほうへと戻っていった。

「申しわけないね。実のところ本格的な海外旅行ってのは初めてで。蘭から誘われてから、慌ててパスポートを取得した経緯もあったりして――」

 安楽と蘭のやり取りを黙ってみていた英梨が「あっ、そういうことか」と呟いた。安楽が「つまり、そういうことなんだよ」と便乗。英梨が謎を全て解き明かしたと言わんばかりに続けた。

「管理人さんは――。まぁ、私達からすればなんだから当然だろうけど」

 英梨の言葉にサングラスを外した管理人は、面白くなさそうに舌打ちをした。レストランの窓からは海が一望でき、その先には真っ青なエーゲ海が広がっていた。

「その通り。管理人さんは流暢に日本語を喋るけど、日本語の読み書きはできなかったんだ。まぁ、ひらがなやカタカナならばまだしも、漢字ともなれば、読めくて当然だろう。でも、犯人は細川の日本語は理解していただろうから、ここで迷ったはずだよ。血文字で残された文字は読めないが、細川は犯人の名前を書き残したと言った。なんて読むのかがわからない字だけど、もしそれをきっかけに自分が犯人だと判明してしまったらよろしくない。そう考えた犯人は、細川が残した血文字をもみ消したんだよ。まさか、その行動に出る者こそが犯人を指しているとは思いも寄らずにね」

 蘭達が訪れたのは、日本から遥か離れたギリシャにあるエーゲ海。そこに浮かぶ島のひとつだった。日本と違って、インフラがまだ完全に仕上がっていないため、電波が入らなかったのである。

「管理人さん。あなたはここギリシャの地元漁師ですよね? あなたは流暢に日本語は喋れても、読み書きはできない。だから、細川の言葉を真に受けてしまい、ダイイングメッセージをもみ消さなばならなくなったんだ。違いますか?」
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