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5.安楽樹は渋々推理する
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「まぁ、そういうことになるね。さて、この時点で外はかなり荒れ始めていたはずだ。この嵐は犯人にとっても想定外のものだったと思うんだ。きっと、犯人としては、外で野宿でもしながら犯行を繰り返すつもりだったのでしょう。しかし、嵐は次第に強くなり、とてもではないけどビバークで誤魔化せるようなものではなくなってしまった。おそらく神楽坂さんが殺害された時点で、嵐もかなり酷くなっていたはず。そこで犯人にはしなければならないことが出てきた。それは――拠点の確保だ」
拠点の確保。それがなにを意味しているのか、蘭にはピンと来なかった。まさか犯人候補から真っ先に外れてしまうような人間が、実は島を離れておらず、そして殺人を繰り返していたなんて――やはりにわかには信じがたい。
「外でずっと過ごすわけにはいかない犯人には、どこかゆっくりとできる拠点が必要だった。そうか――だから神楽坂の遺体は、第二の事件現場まで運ばれたんだな?」
榎本と安楽のキャッチボールが続く。やはり榎本は頭の回転が早いらしく、安楽の推理のペースに遅れを取らない。
「あの時、聞かせてくれた推理。第二の事件に関しては、おおむねあれで合っていると思うんだ。ただ、潜伏していた人間が違うというだけでね――」
安楽の言葉に榎本が頷き、そして菱田が首を傾げる。
「えーっと、当初犯人だとされていた神楽坂さんは、その……管理人さんに殺されたんだよな? で、彼女の部屋に潜伏したと思われていた神楽坂さんが実は殺されていたということは――」
菱田の言葉に続いたのは安楽だけではなかった。榎本までもが、口裏を合わせたかのごとく見事なハーモニクスを見せた。
「潜伏していたのは管理人さんだったってことになる」
そう、当初犯人だと思われていた麗里が潜伏していないのだとすれば、あそこに潜伏すべきは……潜伏する必要があったのは、拠点が必要だった管理人ということになるのではないか。
「じゃあ、今度は神楽坂さんを殺害した後、犯人がどう動いたのかを考えてみようか」
事件のあらましは、一度榎本が時系列に沿って話してくれている。あの解決劇はどうやら安楽と榎本が企てたものだったようだが、こうやって今一度事件のことを掘り返すとなると、予習ができたようでありがたい。
拠点の確保。それがなにを意味しているのか、蘭にはピンと来なかった。まさか犯人候補から真っ先に外れてしまうような人間が、実は島を離れておらず、そして殺人を繰り返していたなんて――やはりにわかには信じがたい。
「外でずっと過ごすわけにはいかない犯人には、どこかゆっくりとできる拠点が必要だった。そうか――だから神楽坂の遺体は、第二の事件現場まで運ばれたんだな?」
榎本と安楽のキャッチボールが続く。やはり榎本は頭の回転が早いらしく、安楽の推理のペースに遅れを取らない。
「あの時、聞かせてくれた推理。第二の事件に関しては、おおむねあれで合っていると思うんだ。ただ、潜伏していた人間が違うというだけでね――」
安楽の言葉に榎本が頷き、そして菱田が首を傾げる。
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菱田の言葉に続いたのは安楽だけではなかった。榎本までもが、口裏を合わせたかのごとく見事なハーモニクスを見せた。
「潜伏していたのは管理人さんだったってことになる」
そう、当初犯人だと思われていた麗里が潜伏していないのだとすれば、あそこに潜伏すべきは……潜伏する必要があったのは、拠点が必要だった管理人ということになるのではないか。
「じゃあ、今度は神楽坂さんを殺害した後、犯人がどう動いたのかを考えてみようか」
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