探偵残念 ―安楽樹は渋々推理する―

鬼霧宗作

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5.安楽樹は渋々推理する

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 本当ならば安楽のペースで話が展開するのであろうが、菱田の突っ込みによってややペースアップする。安楽は頭をぽりぽりとかきながら「いきなりそんな核心に行っちゃうのか――」と呟いてから、さらに続けた。

「いいや、あのピアノ線については前の推測通り。何者かがそれらしいトリックを仕掛けた――と俺達に思い込ませるために残されたものだったんだよ。さて、ここで根本的なことについて考えてみよう。この段階で疑われるべき人間は一人もいなかった。だから犯人はアリバイがあっても犯行が可能だったと思わせるために、ピアノ線を残したんだ。これ、逆説的に考えると、こうならないかい?」

 安楽はある人物のほうへと視線を向けた。自然と安楽の視線の先に全員が視線を向ける。その先にいた人物は意外にも……。

「つまり、犯人はあの時間にアリバイのない人間――部外者だった。犯人は内部の人間の仕業に見せかけるためにピアノ線を残したのさ。ほら、これでアリバイの件もクリアだ。俺達男性陣は、蘭をプラスして地下にいた。そして、女性陣は食堂にいた。ゆえに、一人でそこから抜け出した神楽坂さんは殺せない。ただ、頭数に入っていない部外者ならば話は別だ。そうですよね?」

 体のてっぺんから爪先に向かって、冷たいものが一気に落ちていく感覚に陥った。あぁ、だから偽りでもいいから事件を解決させる必要があったのか。そうでなければ、そもそも迎えが来なかったのかもしれないのだから。

「管理人さん――。俺はあなたが犯人だと思っているんです」

 決定的な一言を放った安楽。その場の空気が凍ったように思えた。管理人は首を小さく傾げると、食事のために外していたサングラスを改めてかける。

「へぇ、面白いことを言うな。俺が孤島での殺人事件の犯人だって? 考えてみてくれよ、俺は君達を島に送り届けた後、本土――こっちのほうに戻ってきていたんだ。そんな俺が、どうやってあの島で事件を起こすんだい?」

 管理人は怒っていないようだったが、しかし口調はかなりきついものになっていた。

「あの日、あなたが本土に戻ってきたという証拠は? この辺りの誰かに聞いたら、証言してもらえますか?」

 安楽の追撃に、管理人はただ苦笑いを浮かべた。

「証明できませんよね? なぜなら、あなたは俺達を送り届けたあと、本土になんて戻っていなかったから。途中で引き返して、島の北側――崖になっているから近づくなと俺達に忠告した方面に着岸したんだ」
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