上 下
79 / 98
5.安楽樹は渋々推理する

2

しおりを挟む
 本当ならば安楽のペースで話が展開するのであろうが、菱田の突っ込みによってややペースアップする。安楽は頭をぽりぽりとかきながら「いきなりそんな核心に行っちゃうのか――」と呟いてから、さらに続けた。

「いいや、あのピアノ線については前の推測通り。何者かがそれらしいトリックを仕掛けた――と俺達に思い込ませるために残されたものだったんだよ。さて、ここで根本的なことについて考えてみよう。この段階で疑われるべき人間は一人もいなかった。だから犯人はアリバイがあっても犯行が可能だったと思わせるために、ピアノ線を残したんだ。これ、逆説的に考えると、こうならないかい?」

 安楽はある人物のほうへと視線を向けた。自然と安楽の視線の先に全員が視線を向ける。その先にいた人物は意外にも……。

「つまり、犯人はあの時間にアリバイのない人間――部外者だった。犯人は内部の人間の仕業に見せかけるためにピアノ線を残したのさ。ほら、これでアリバイの件もクリアだ。俺達男性陣は、蘭をプラスして地下にいた。そして、女性陣は食堂にいた。ゆえに、一人でそこから抜け出した神楽坂さんは殺せない。ただ、頭数に入っていない部外者ならば話は別だ。そうですよね?」

 体のてっぺんから爪先に向かって、冷たいものが一気に落ちていく感覚に陥った。あぁ、だから偽りでもいいから事件を解決させる必要があったのか。そうでなければ、そもそも迎えが来なかったのかもしれないのだから。

「管理人さん――。俺はあなたが犯人だと思っているんです」

 決定的な一言を放った安楽。その場の空気が凍ったように思えた。管理人は首を小さく傾げると、食事のために外していたサングラスを改めてかける。

「へぇ、面白いことを言うな。俺が孤島での殺人事件の犯人だって? 考えてみてくれよ、俺は君達を島に送り届けた後、本土――こっちのほうに戻ってきていたんだ。そんな俺が、どうやってあの島で事件を起こすんだい?」

 管理人は怒っていないようだったが、しかし口調はかなりきついものになっていた。

「あの日、あなたが本土に戻ってきたという証拠は? この辺りの誰かに聞いたら、証言してもらえますか?」

 安楽の追撃に、管理人はただ苦笑いを浮かべた。

「証明できませんよね? なぜなら、あなたは俺達を送り届けたあと、本土になんて戻っていなかったから。途中で引き返して、島の北側――崖になっているから近づくなと俺達に忠告した方面に着岸したんだ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

保健室の秘密...

とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。 吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。 吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。 僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。 そんな吉田さんには、ある噂があった。 「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」 それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。

紙の本のカバーをめくりたい話

みぅら
ミステリー
紙の本のカバーをめくろうとしたら、見ず知らずの人に「その本、カバーをめくらない方がいいですよ」と制止されて、モヤモヤしながら本を読む話。 男性向けでも女性向けでもありません。 カテゴリにその他がなかったのでミステリーにしていますが、全然ミステリーではありません。

人違いで同級生の女子にカンチョーしちゃった男の子の話

かめのこたろう
現代文学
内容は題名の通りです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

体育教師に目を付けられ、理不尽な体罰を受ける女の子

恩知らずなわんこ
現代文学
入学したばかりの女の子が体育の先生から理不尽な体罰をされてしまうお話です。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

雨の向こう側

サツキユキオ
ミステリー
山奥の保養所で行われるヨガの断食教室に参加した亀山佑月(かめやまゆづき)。他の参加者6人と共に独自ルールに支配された中での共同生活が始まるが────。

旧校舎のフーディーニ

澤田慎梧
ミステリー
【「死体の写った写真」から始まる、人の死なないミステリー】 時は1993年。神奈川県立「比企谷(ひきがやつ)高校」一年生の藤本は、担任教師からクラス内で起こった盗難事件の解決を命じられてしまう。 困り果てた彼が頼ったのは、知る人ぞ知る「名探偵」である、奇術部の真白部長だった。 けれども、奇術部部室を訪ねてみると、そこには美少女の死体が転がっていて――。 奇術師にして名探偵、真白部長が学校の些細な謎や心霊現象を鮮やかに解決。 「タネも仕掛けもございます」 ★毎週月水金の12時くらいに更新予定 ※本作品は連作短編です。出来るだけ話数通りにお読みいただけると幸いです。 ※本作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件とは一切関係ありません。 ※本作品の主な舞台は1993年(平成五年)ですが、当時の知識が無くてもお楽しみいただけます。 ※本作品はカクヨム様にて連載していたものを加筆修正したものとなります。

処理中です...