77 / 98
4.この際、探偵は誰でもいい
9
しおりを挟む
結局、安楽の提案で現場保全を最優先し、自分達の荷物だけを持って船に乗った蘭達。行きは随分と狭く感じた客室が、今は広く感じる。安楽が船酔いで死にかけていた時、まさか人がこれから何人も殺されるなんて、誰が思っただろうか。
3日間の嵐が嘘だったかのごとく空は青空で、広がる青い海をかき分けながら船は進む。島で起きてしまったことに、誰が思いを馳せていたのであろう。帰りは静かだった。もっとも、船酔いでデッキに出たものが若干名。榎本が付き添ってくれているから大丈夫だろう。
「なんだか、とんでもないバカンスになっちゃったね」
遥か遠くに見え始めた港を眺めつつ、誰に言うでもなく蘭が呟く。
「本当ね。まさか安楽君が本当に巻き込まれ体質だとはね。彼には申し訳ないけど、次から連れてこなくていいから」
連れて来いと囃し立てた張本人である英梨が呟き、その片棒を担いだ菱田が強く頷く。
「色々と落ち着いたらさ、みんなで飲みにでもいかない? 大学同士もそんなに遠いわけじゃないし」
会話に入ってきたのは真美子だった。香純も同意するように頷く。
「そうだね。色々と落ち着いたらね――」
船が港につき、管理人さんに手伝ってもらって荷物をおろす。最後の最後で榎本にだき抱えられる形で安楽が船を降りた。
「なんだか色々とあったみたいで大変だったな。どうやら俺は現場に立ち合わないといけないみたいだから戻るよ。まぁ、その前に一緒に飯でもどうだい? もちろん、俺がご馳走するよ」
事件に巻き込まれた一同を労わるような管理人の言葉に、安楽は顔面蒼白のまま「みんな、馳走になろう」と首を縦に振る。船酔い後で食べられるのだろうか。
「よし、それじゃ近くに美味いところがあるから案内するよ。ついて来てくれ」
管理人はそう言うと歩き出す。それに続いて菱田、真美子、香純、英梨、蘭と続く。少し離れた最後尾に榎本と安楽。2人の会話が耳に入ってくる。
「――あれで良かったのか? 安楽君」
「あぁ、うまいこと欺けたと思うよ。こうして、無事に帰ってこられたわけだしね」
安楽が答えると、榎本がさっと右手を差し出した。まるで握手を求めるかのごとく。しかし彼が求めていることは違った。
「バトンタッチだ。安楽君、ここからは君がやるべきだよ」
榎本の手を勢い良く叩くと、安楽はこう呟いたのだった。
「あぁ、遠足ってのは――お家に帰るまでが遠足だからな!」
……なんか決め台詞としてはイマイチだし、すごくダサい。しかし船酔いで死にかけの安楽の瞳には、強い光が宿っていた。
3日間の嵐が嘘だったかのごとく空は青空で、広がる青い海をかき分けながら船は進む。島で起きてしまったことに、誰が思いを馳せていたのであろう。帰りは静かだった。もっとも、船酔いでデッキに出たものが若干名。榎本が付き添ってくれているから大丈夫だろう。
「なんだか、とんでもないバカンスになっちゃったね」
遥か遠くに見え始めた港を眺めつつ、誰に言うでもなく蘭が呟く。
「本当ね。まさか安楽君が本当に巻き込まれ体質だとはね。彼には申し訳ないけど、次から連れてこなくていいから」
連れて来いと囃し立てた張本人である英梨が呟き、その片棒を担いだ菱田が強く頷く。
「色々と落ち着いたらさ、みんなで飲みにでもいかない? 大学同士もそんなに遠いわけじゃないし」
会話に入ってきたのは真美子だった。香純も同意するように頷く。
「そうだね。色々と落ち着いたらね――」
船が港につき、管理人さんに手伝ってもらって荷物をおろす。最後の最後で榎本にだき抱えられる形で安楽が船を降りた。
「なんだか色々とあったみたいで大変だったな。どうやら俺は現場に立ち合わないといけないみたいだから戻るよ。まぁ、その前に一緒に飯でもどうだい? もちろん、俺がご馳走するよ」
事件に巻き込まれた一同を労わるような管理人の言葉に、安楽は顔面蒼白のまま「みんな、馳走になろう」と首を縦に振る。船酔い後で食べられるのだろうか。
「よし、それじゃ近くに美味いところがあるから案内するよ。ついて来てくれ」
管理人はそう言うと歩き出す。それに続いて菱田、真美子、香純、英梨、蘭と続く。少し離れた最後尾に榎本と安楽。2人の会話が耳に入ってくる。
「――あれで良かったのか? 安楽君」
「あぁ、うまいこと欺けたと思うよ。こうして、無事に帰ってこられたわけだしね」
安楽が答えると、榎本がさっと右手を差し出した。まるで握手を求めるかのごとく。しかし彼が求めていることは違った。
「バトンタッチだ。安楽君、ここからは君がやるべきだよ」
榎本の手を勢い良く叩くと、安楽はこう呟いたのだった。
「あぁ、遠足ってのは――お家に帰るまでが遠足だからな!」
……なんか決め台詞としてはイマイチだし、すごくダサい。しかし船酔いで死にかけの安楽の瞳には、強い光が宿っていた。
1
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
『お兄ちゃんのオタクを卒業させてみせるんだからね❤ ~ブラコン妹と幼馴染オタク姫の果てしなき戦い~』
本能寺から始める常陸之介寛浩
青春
「大好きなはずなのに……! 兄の『推し活』が止まらない!?」
かつて、私は信じていた。
優しくて、頼もしくて、ちょっと恥ずかしがり屋な──
そんな普通のお兄ちゃんを。
でも──
中学卒業の春、
帰ってきた幼馴染みの“オタク姫”に染められて、
私のお兄ちゃんは**「推し活命」**な存在になってしまった!
家では「戦利品だー!」と絶叫し、
年末には「聖戦(コミケ)」に旅立ち、
さらには幼馴染みと「同人誌合宿」まで!?
……ちがう。
こんなの、私の知ってるお兄ちゃんじゃない!
たとえ、世界中がオタクを称えたって、
私は、絶対に──
お兄ちゃんを“元に戻して”みせる!
これは、
ブラコン妹と
中二病オタク姫が、
一人の「兄」をめぐって
全力でぶつかり合う、果てしなき戦いの物語──!
そしていつしか、
誰も予想できなかった
本当の「大好き」のカタチを探す、
壮大な青春ストーリーへと変わっていく──。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる