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4.この際、探偵は誰でもいい

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 第一の事件で全員にアリバイがあるのは当然のことだった。あれは全て麗里の芝居であり、彼女は死んでなどいなかったのである。

「僕もひとつだけ早まってしまったことがある。それは、彼女の手首の脈がないことで、簡単に彼女が死んだと判断してしまったこと。あの時、おそらく彼女は血糊をつけ、ナタが突き立てられているように見えるパーティーグッズかなにかを使って、死んだふりをしたんだよ。ほら、引っ込むナイフとか、ぱっと見た感じ体に刺さっているように見えるジョークグッズがあるだろ? あれの類を使って死んだふりをした上で、脇の下のタオルか何かを丸めて挟み、手首の脈を疑似的に止めたんだ。まんまとそれに引っかかった僕が、彼女の偽装死を本物だと読み違えてしまった」

 榎本の言うことには、一応なりとも筋が通っている。ただ、自らの死を偽装するために、それっぽいパーティーグッズを使ったとか、ややこじつけというかやっつけの部分も多い。多くの人間の目に、彼女の姿はどう映ったのか。少なくとも、蘭の目にはナタが突き立てられているように見えたのだが。それとも、精巧な造りのジョークグッズを麗里は探してきたのだろうか。自らの死を偽装するために全力を尽くしたのかもしれない。

「こうして自らを殺した神楽坂は、部屋割りが決まる前にリネン室から加能さんの部屋へと向かって部屋に潜伏した。そして、加能さんを殺害――」

「ちょっと待って欲しい」

 榎本の推測に、再び安楽が口を挟む。行き当たりばったりの綱渡りが、榎本の推測には含まれているからだろう。現実なんてものは意外としょぼくれた真実しかないのかもしれない。

「部屋割りを決める際、当然ながら彼女は同席できなかった。だから、狙って加能さんの部屋に潜伏することは不可能だと思うんだけど」

 もし、麗里の狙いが亜純だったとしたら、あらかじめ部屋に潜伏しようにも、亜純がどこの部屋割りになるかを知らなければ意味がない。しかし、すでに麗里は死んだことになっている人間だから、部屋割りの相談には参加できない。それならば、なぜ犯人の麗里は、亜純の部屋を知っていたのか。

「そもそも、そこが僕にも分からないんだ。神楽坂と加能さんはもともと別々の大学サークルだし、事前にお互いの接点があったとも思えない。だから、神楽坂が加能さんを殺す動機もないはずなんだ。だから、僕はこう考える。加能さんは、きっと神楽坂が自分の潜伏場所を確保するために、巻き込まれただけなんじゃないか――とね」

 つまり、麗里からすると部屋が割り当てられるのは誰でも良かったということか。リネン室で一度死んだことになった麗里であるが、ずっとあそこで死んだふりをしているわけにはいかない。だから、どこか拠点となる場所が欲しかった。そこで、手近な部屋に潜伏することにした。もし、そこが誰の部屋にも割り当てられないのであれば儲けもの。仮に割り当てられてしまったら、最悪殺してしまえばいい。そんな悪魔的な発想が彼女の脳裏にはあったのだろうか。だとしたら、とてもではないが常人の発想ではない。
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