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3.深まる謎と疑惑
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「えっ? まさか、この人が犯人なの?」
安楽の背後から動画を覗き込んでいた蘭は、細川が綺麗な字で書き上げた名前を見て、思わず声をあげてしまった。その名前は、もちろん蘭も知っている名前だった。蘭の言葉に答えるかのごとく、動画内に細川の声が響く。
「こっ、ここに犯人の名前を書いてやった! これが見つかれば、遅かれ早かれお前は逮捕されることになるぞ! これで、お前は終わりだ! 俺はただで転んでやるほど甘くはないんだよ!」
おそらく、これは犯人に向けてのメッセージ。いや、警告なのではないか。しかし、なぜこんな回りくどいことをやるのか。そして、根底的な部分を揺るがす愚痴が、安楽の口からぽろり。
「いや、犯人に向けてなにかを言ってる暇があるなら、犯人の名前をダイレクトに伝えてくれてもいいのに――」
ダイイングメッセージにおいては、細川は確かに蘭達のよく知る人物の名前を書き残した。結果、ダイレクトに書いてしまった名前は消されてしまったわけだが、誰の名前を書いたのかは、明確に動画へと残されていた。犯人が動画の存在に気づいていないであろうことを前提としているのだろうが、だったら、録画しているスマホに向かって、犯人の名前を直接言ってしまったほうが早い気がする。ダイイングメッセージは、あえて犯人の気を引いて、動画の存在に気づかれぬようにするための囮のように見えなくはないのだが、それにしたってやり方が妙に回りくどい。
動画の中では確かに生きていた細川であるが、急に「うっ!」と詰まるような声を上げると、録画されている画面の位置も低くなった。地面すれすれというより、もう地面を完全に舐めているようなアングルとなり、そして、書き残したはずのメッセージが、男とも女とも分からない足でもみ消される。動画はそこで終わっていた。
「――どうやら決まりみたいだな。やっぱり僕の考えた通り、あの人が犯人なんだ。少し、裏付けのために調べたいことがある。2人共、僕に付き合ってくれないだろうか?」
眼鏡のブリッジを指で押し上げた榎本は、確認作業だとばかりに、事件が起きた場所をひとつずつ確認して歩く。
「ねぇ、いいの。このままだとイッ君じゃなくて、榎本さんが事件を解決しそうだけど」
「いいんだよ。この際、誰が探偵をしたって。結果的に無事に帰られるなら、俺はそれで構わん」
横からお株を取られてしまったのに、どこか他人任せの様子の安楽。果たして、榎本のたどり着いた答えとは。そして、この惨劇を引き起こした張本人は一体誰なのか。
「すまないけど、みんなをエントランスにでも集めてくれないか?」
確認作業を終えた榎本の言葉に「了解だ!」と駆け出した安楽の背中を見て、蘭は大きく溜め息を漏らしたのだった。
安楽の背後から動画を覗き込んでいた蘭は、細川が綺麗な字で書き上げた名前を見て、思わず声をあげてしまった。その名前は、もちろん蘭も知っている名前だった。蘭の言葉に答えるかのごとく、動画内に細川の声が響く。
「こっ、ここに犯人の名前を書いてやった! これが見つかれば、遅かれ早かれお前は逮捕されることになるぞ! これで、お前は終わりだ! 俺はただで転んでやるほど甘くはないんだよ!」
おそらく、これは犯人に向けてのメッセージ。いや、警告なのではないか。しかし、なぜこんな回りくどいことをやるのか。そして、根底的な部分を揺るがす愚痴が、安楽の口からぽろり。
「いや、犯人に向けてなにかを言ってる暇があるなら、犯人の名前をダイレクトに伝えてくれてもいいのに――」
ダイイングメッセージにおいては、細川は確かに蘭達のよく知る人物の名前を書き残した。結果、ダイレクトに書いてしまった名前は消されてしまったわけだが、誰の名前を書いたのかは、明確に動画へと残されていた。犯人が動画の存在に気づいていないであろうことを前提としているのだろうが、だったら、録画しているスマホに向かって、犯人の名前を直接言ってしまったほうが早い気がする。ダイイングメッセージは、あえて犯人の気を引いて、動画の存在に気づかれぬようにするための囮のように見えなくはないのだが、それにしたってやり方が妙に回りくどい。
動画の中では確かに生きていた細川であるが、急に「うっ!」と詰まるような声を上げると、録画されている画面の位置も低くなった。地面すれすれというより、もう地面を完全に舐めているようなアングルとなり、そして、書き残したはずのメッセージが、男とも女とも分からない足でもみ消される。動画はそこで終わっていた。
「――どうやら決まりみたいだな。やっぱり僕の考えた通り、あの人が犯人なんだ。少し、裏付けのために調べたいことがある。2人共、僕に付き合ってくれないだろうか?」
眼鏡のブリッジを指で押し上げた榎本は、確認作業だとばかりに、事件が起きた場所をひとつずつ確認して歩く。
「ねぇ、いいの。このままだとイッ君じゃなくて、榎本さんが事件を解決しそうだけど」
「いいんだよ。この際、誰が探偵をしたって。結果的に無事に帰られるなら、俺はそれで構わん」
横からお株を取られてしまったのに、どこか他人任せの様子の安楽。果たして、榎本のたどり着いた答えとは。そして、この惨劇を引き起こした張本人は一体誰なのか。
「すまないけど、みんなをエントランスにでも集めてくれないか?」
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