探偵残念 ―安楽樹は渋々推理する―

鬼霧宗作

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3.深まる謎と疑惑

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「借りを作るとか、貸しを作るとか、普段の大学生活にありがちな考えからは離れたほうがいい。今はとにかく、彼が無事に見つかればいい。外に探しに出るから偉いわけじゃないし、中に残るから楽というわけでもない。俺達は今チームで動いているんだから」

 ここにきて、ようやく彼本来のリーダーシップを発揮する菱田。前からそうだが、このような時に他人を励ましたり、勇気づけたりするのは本当に上手いと思う。それ以前にワンマンになってしまう時があるから上手くいかないのだが。

「だったら、私達は雨具をとってくるよ。地下室って、螺旋階段の下にあるんだよね?」

 菱田の言葉により、真美子達はやるべきことの方向性をシフトチェンジ。どうやら、中で自分達ができることを見つけたらしい。となると、必然的に外に出るのは蘭と英梨ということになるのか。自然と溜め息が出てしまった。

 真美子と香純が廊下のほうへと姿を消すと、雨合羽姿の菱田が言う。安楽はいまだに手間取っているらしく、合羽のズボンが履けていない。

「外に出たらチームを組む。俺と天野、安楽君と御幸でそれぞれ1チームだ。壁に沿って、時計回りと反時計周りで周囲を探して回るぞ」

 外に出るといっても、探すのはせいぜい建物の周囲程度になるのだろう。むろん、それでも見つからなければ、探索する範囲を広める必要がある。ここから波止場に向かう道、全く縁がなくなってしまったビーチへの道と、海の荒れ具合によってはビーチまで探しに出たほうがいいかもしれない。島の北側に広がる山々の中までは、さすがに探索できないだろうが。

「改めて考えてみると、私達この島のことあんまり知らないよね……」

 ぽつりと呟くと、英梨が外の荒れ具合に溜め息。

「この嵐が全部を台無しにしてくれたからねぇ」

 あえて、殺人事件が……とは言わない辺り、英梨なりに気を遣ってくれているのだろう。確かに、嵐のせいでビーチでのバカンスは潰れてしまった。けれども嵐だけで済んでくれたら、もっと有意義で楽しい旅行になったのだろう。その時はその時で、外に出られないことや、ビーチで遊べないことをなげいていたのであろうが。

 ふと、一瞬時が止まったかのごとく、激しい雷鳴が差し込んだ。ほんの一瞬の間を置いて、轟音が辺りに響く。これまででもっとも大きい雷だったのかもしれない。その轟音の中、蘭は聞いたような気がした。そう、それは女の悲鳴。

「……今、何か聞こえたような気がする」
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