探偵残念 ―安楽樹は渋々推理する―

鬼霧宗作

文字の大きさ
上 下
62 / 98
3.深まる謎と疑惑

18

しおりを挟む
  トイレと風呂を調べ終えたであろう菱田が合流。互いに言葉は発せずに、緩く首を振った。すなわち、この部屋に細川はいないということか。

「あいつ、どこに行ったんだ?」

 細川の部屋はもぬけの殻というやつだった。まだ広げられていない旅行カバンだけが、むなしくベッドの上におかれたまま。持ち主だけが忽然と姿を消してしまった。

「なんにせよ、この状況で単独行動はよくない。手分けをして探そう」

 榎本と菱田が簡単に打ち合わせをする。とりあえず細川の部屋以外を調べる段取りらしい。ここの個室は、中のツマミをひねることでしか施錠することができない。よって、他の人間の部屋については普通に鍵が開いているわけだ。まずはそこから調べて回るのだ。現状において、細川の居場所としては充分に考えられる。

「御幸さん達は女性陣の部屋を調べて欲しい。まぁ、あの例の部屋は調べなくとも良さそうだがね。調べるとしても最後に回してもいいだろう」

 蘭と英梨に榎本から指示が飛ぶ。調べる必要がない部屋というのは、きっと亜純の部屋のことを指しているのだろう。あんなグロテスクな部屋、好んで細川が向かうとは思えない。

「先に部屋を調べ終えたほうが、食堂に応援を呼びに行こう。各個人の部屋に細川がいなかった場合、最悪外に出た可能性も出てくるからね」

 外は風が吹き荒ぶ嵐である.雨も酷いが、しかし出ようと思えば外に出られなくもないだろう。細川が外に出た可能性は限りなく低いが、しかしゼロではないだろう。

「それじゃあ、そっちは任せたよ」

 打ち合わせとも呼べぬ、実に簡単な段取りだけを決めると、榎本達と別れた。螺旋階段をおりると、英梨と順番に部屋を確認していく。一応、扉をノックしてみて、返事がなければ扉を開けて人が隠れられそうな場所をひと通り探す。もちろん、部屋には誰もいないから鍵もかかっていない。細川の姿も見当たらなかった。

 亜純の部屋を飛ばして全てを調べ終えると、その足でエントランスに向かう。食堂の扉を開けると、食事を終えた様子の安楽がコーヒーを飲み終えたところだった。

「……どうした? まさか、またなにかあったか?」

 蘭と英梨の様子に、コーヒカップを手にしたまま動きを止める安楽。こういう時の嫌な予感は、誰よりも強く感じたりするのだろう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

ナースコール

wawabubu
青春
腹膜炎で緊急手術になったおれ。若い看護師さんに剃毛されるが…

隣人の女性がDVされてたから助けてみたら、なぜかその人(年下の女子大生)と同棲することになった(なんで?)

チドリ正明@不労所得発売中!!
青春
マンションの隣の部屋から女性の悲鳴と男性の怒鳴り声が聞こえた。 主人公 時田宗利(ときたむねとし)の判断は早かった。迷わず訪問し時間を稼ぎ、確証が取れた段階で警察に通報。DV男を現行犯でとっちめることに成功した。 ちっぽけな勇気と小心者が持つ単なる親切心でやった宗利は日常に戻る。 しかし、しばらくして宗時は見覚えのある女性が部屋の前にしゃがみ込んでいる姿を発見した。 その女性はDVを受けていたあの時の隣人だった。 「頼れる人がいないんです……私と一緒に暮らしてくれませんか?」 これはDVから女性を守ったことで始まる新たな恋物語。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

伏線回収の夏

影山姫子
ミステリー
ある年の夏。俺は15年ぶりにT県N市にある古い屋敷を訪れた。某大学の芸術学部でクラスメイトだった岡滝利奈の招きだった。かつての同級生の不審死。消えた犯人。屋敷のアトリエにナイフで刻まれた無数のXの傷。利奈はそのなぞを、ミステリー作家であるこの俺に推理してほしいというのだ。俺、利奈、桐山優也、十文字省吾、新山亜沙美、須藤真利亜の六人は、大学時代にこの屋敷で共に芸術の創作に打ち込んだ仲間だった。グループの中に犯人はいるのか? 脳裏によみがえる青春時代の熱気、裏切り、そして別れ。懐かしくも苦い思い出をたどりながら事件の真相に近づく俺に、衝撃のラストが待ち受けていた。 《あなたはすべての伏線を回収することができますか?》

兄になった姉

廣瀬純一
大衆娯楽
催眠術で自分の事を男だと思っている姉の話

処理中です...