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2.長い夜の始まり

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自分達以外いないはずの島で、まさか警戒を促されるようになるとは思わなかった。しかしながら、菱田の言っていることは間違いではない。事実、麗里は誰かに殺された。あれが自殺のようには、どう考えたって見えない。つまり、注意が必要だ。警戒するに越したことはない。

 この別荘の客室には、ツマミ式の鍵がついていた。鍵穴はなく、あくまでも中からのみ施錠できるタイプだった。造りとしては心もとないが、施錠をしないよりかは遥かにマシだろう。

「――明日からどうする? 外は絶賛嵐だし、こんなことになっちゃったし」

 英梨が菱田に問うた。間違いなくバカンスのつもりで島にやってきた一同。嵐は仕方がないとしても、まさかこんなことが起きてしまうなんて、誰が予測できたろうか。人が殺されている以上、切り替えて楽しもう……という気にはなれない。むしろ、明日から楽しもうなんてポジティブなことが言えるのは、人として欠如している部分があるとしか思えない。

「とりあえず時間が時間だし、朝の9時くらいに食堂に集まるようにしようか。今後のことは、その時に話し合おう。さすがにバカンスを楽しむなんて流れにはならないだろうけど」

 菱田もほぼ蘭と同じ意見のようだ。ふと腕時計に視線を落とす。蘭の腕時計は、もうじき午後の9時半になろうとしていた。

「あのぉ、時間が時間って言ってるけど、今大体何時くらい?」

 少しばかり恥ずかしそうに手を挙げたのは亜純だった。菱田はスマートフォンを取り出して「午後10時半だが」と返す。亜純は「じゃあ、明日は9時に集合ね」と、スマートフォンを取り出した。電波の届かないここでは、その機能がスケジュール帳などにしか活用されない。文明の利器を持っていながら、なんともアナログである。それよりも……。

「先輩、私と時間が1時間ずれてるみたいですけど――」

 腕時計に改めて視線を落とすと、菱田はスマートフォンに視線を落としつつ「俺のは定期的に自動調整されるやつだから、時間を間違うことはないと思うけどな」と言った。蘭だって、時計を合わせたのはつい最近のことだが。首を傾げながら、時間を菱田に合わせた。

「……ちょっと地下室から酒とかを持って来たいから、誰か一緒に来てくれないか?」

 菱田の音頭によって解散の流れになる最中、細川が提案する。菱田の視線に「部屋で酒を飲むくらいいいだろ?」と一言。本来ならば、この時間帯は交流会で酒でも飲み交わしていたはずだ。交流会自体は中止になってしまったが、個人が部屋で酒を飲む分には問題ないように思える。酒でも飲まないとやっていられないというか、それ以外の娯楽というものが見当たらない孤島において、事情が事情であっても、それくらいは許されるべきだ。
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