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1.絶海の孤島へ

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 トイレについては問題ないが、ろ過してあるといっても雨水のシャワーは多少抵抗がある。多分、菱田は個人的に簡易式のポンプシャワーとやらを持ってきているのだろう。

「……蘭、いいところに気づいたな。そういうところに突っ込んでいく辺り、俺は嫌いじゃない」

 ふと、振り返ると、安楽がグッドサインを出して笑みを浮かべていた。あぁ、また彼の発作が出てしまったのだ。ミステリみたいな状況に巻き込まれてしまうがゆえに出てしまう、アンチミステリ病が。案の定、安楽はやや声量を大にして熱弁し始めた。

「ミステリでよく絶海の孤島とかが舞台になるけどね、インフラとか気にしてる人いる? ねぇ、インフラ気にしてる人います? 探偵なんて、現場に残された細かい傷なんかには気づくくせにね、どうしてインフラが整ってるって信じて疑いもしないんだろうね?」

 そう論を張られても、答えとしては「そういうものだからね」で済んでしまう。そもそも、インフラについて細かく追及していたら、殺人が起きる前に物語が終わってしまう可能性がある。だから、そこに焦点を当てないだけだろう。

「絶海の孤島だよ? それなのに、当たり前のように電気は点くし、水道も使い放題だ。挙げ句の果てには、風呂にいけばシャワーから暖かいお湯が出てくるときたもんだ。極め付けは電話線だよ。あのね、ここだけの話、孤島が舞台のミステリでも電話線通ってたりすんだよ。孤島にある、たった1軒だけの館だったりするのに。しかも、普段は人が住んでいないような状況なのに。誰が電話線わざわざ通したんだよ? 責任者出てこいよ……」

 こうなってしまった時の安楽の対処法は、とりあえずその毒を全て吐き出させてやることにある。ゆえに、あえて黙って見守る蘭。

「大体、思い切って電話線を通したとしても、大抵は犯人によって切断されんだから、無駄な抵抗はやめようぜ! 技術ってのは進歩してね、今や絶海の孤島でも携帯の電波は入るから! 大体、こんな孤島に電話線引くとして、月々の基本使用料どうなるんだよ? とんでもない額になるんじゃないの!」

 その言葉に思い出す。いや、この辺りは確か携帯の電波が入らないはずだ。しかし、蘭が指摘する前に、榎本がそれを指摘してくれた。

「基本使用料はさておき、どうやらこの辺りは電波が入らないみたいだよ」

 榎本につられて蘭もスマートフォンを肩掛けポーチから取り出した。やはり圏外だ。普通に暮らしていると、まず見ることのない2文字……圏外。
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