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1.絶海の孤島へ
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「別にイケメンだから隠してたわけじゃないし。そもそも、あいつそんなにかっこいい? 私には良く分からないんだけど」
蘭がそう返すと、亜純は悪戯そうな笑みを浮かべながら「蘭にその気がないなら狙っちゃおうかなぁ」なんて言い出す始末。別に人の色恋沙汰に首を突っ込むつもりはないが、なんだか幼馴染としての敗北感のようなものがあった。
「蘭……蘭……」
デッキの上で完全にくたばっていながらも自分の名前を呼ぶ安楽の姿に、つい先ほど覚えた敗北感のようなものは消え去った。いやいや、よくよく考えれば、安楽からは実に分かりやすい好意を抱かれているではないか。もっとも、いざそのような関係になれるかと問われると、どうしても尻込みしてしまうが。小さい頃からお互いのことを知っており、また家族間での付き合いもあるというのは、なかなかに年頃の乙女からすると複雑である。それに――いや、ハリネズミのジレンマを引っ張り出すのはやめておこう。
「全く、だらしないったらありゃしないわ。酔い止め飲んできたの?」
それでも、亜純に対するささやかな優越感と共に、安楽のそばにしゃがみ込む蘭。特に何ができるというわけでもないのだが。
「あぁ、もちろんだよ。だって、探偵物の探偵って、なんか高確率で船酔いするから――そうはなるまいって。フラグを立てまいって、ちゃんと酔い止めを飲んできたんだ」
どうやら、その辺りのケアはしっかりしているようだ。その動機がやや不純のような気もしなくはないが。
「昨日はちゃんと寝たの? 寝不足も良くないっていうし」
安楽は顔を上げ、しばらく考えたのちに呟いた。
「いや、それが眠れなかったんだよ。寝なきゃいけないとは思っていたんだけどね」
おそらく――というかむしろ、その辺りが船酔いの原因なのであろう。もちろん、薬で予防することも大切だが、その日の体調も影響する。まぁ、蘭もまた寝不足ではあるのだが。
「それにしても、酔い止めが効かなすぎだろ。ちゃんと今朝、確認して買ったんだけどなぁ」
安楽の言葉を聞いて妙に納得してしまう。なるほど、どうやら薬がまるで効かないと言い切ることもできないようだ。後で確認してやったほうがいいかもしれない。
「とりあえず後悔しても仕方ないし、もうじきに島につくでしょう。なんかお茶とかいる?」
蘭の言葉に力なく頷いた安楽。蘭は客室に戻ろうと踵を返した。いつのまにか亜純は客室に戻っていたようだ。お茶のペットボトルを取り出すと、デッキに戻る。
蘭がそう返すと、亜純は悪戯そうな笑みを浮かべながら「蘭にその気がないなら狙っちゃおうかなぁ」なんて言い出す始末。別に人の色恋沙汰に首を突っ込むつもりはないが、なんだか幼馴染としての敗北感のようなものがあった。
「蘭……蘭……」
デッキの上で完全にくたばっていながらも自分の名前を呼ぶ安楽の姿に、つい先ほど覚えた敗北感のようなものは消え去った。いやいや、よくよく考えれば、安楽からは実に分かりやすい好意を抱かれているではないか。もっとも、いざそのような関係になれるかと問われると、どうしても尻込みしてしまうが。小さい頃からお互いのことを知っており、また家族間での付き合いもあるというのは、なかなかに年頃の乙女からすると複雑である。それに――いや、ハリネズミのジレンマを引っ張り出すのはやめておこう。
「全く、だらしないったらありゃしないわ。酔い止め飲んできたの?」
それでも、亜純に対するささやかな優越感と共に、安楽のそばにしゃがみ込む蘭。特に何ができるというわけでもないのだが。
「あぁ、もちろんだよ。だって、探偵物の探偵って、なんか高確率で船酔いするから――そうはなるまいって。フラグを立てまいって、ちゃんと酔い止めを飲んできたんだ」
どうやら、その辺りのケアはしっかりしているようだ。その動機がやや不純のような気もしなくはないが。
「昨日はちゃんと寝たの? 寝不足も良くないっていうし」
安楽は顔を上げ、しばらく考えたのちに呟いた。
「いや、それが眠れなかったんだよ。寝なきゃいけないとは思っていたんだけどね」
おそらく――というかむしろ、その辺りが船酔いの原因なのであろう。もちろん、薬で予防することも大切だが、その日の体調も影響する。まぁ、蘭もまた寝不足ではあるのだが。
「それにしても、酔い止めが効かなすぎだろ。ちゃんと今朝、確認して買ったんだけどなぁ」
安楽の言葉を聞いて妙に納得してしまう。なるほど、どうやら薬がまるで効かないと言い切ることもできないようだ。後で確認してやったほうがいいかもしれない。
「とりあえず後悔しても仕方ないし、もうじきに島につくでしょう。なんかお茶とかいる?」
蘭の言葉に力なく頷いた安楽。蘭は客室に戻ろうと踵を返した。いつのまにか亜純は客室に戻っていたようだ。お茶のペットボトルを取り出すと、デッキに戻る。
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