上 下
6 / 98
1.絶海の孤島へ

3

しおりを挟む
「別にイケメンだから隠してたわけじゃないし。そもそも、あいつそんなにかっこいい? 私には良く分からないんだけど」

 蘭がそう返すと、亜純は悪戯そうな笑みを浮かべながら「蘭にその気がないなら狙っちゃおうかなぁ」なんて言い出す始末。別に人の色恋沙汰に首を突っ込むつもりはないが、なんだか幼馴染としての敗北感のようなものがあった。

「蘭……蘭……」

 デッキの上で完全にくたばっていながらも自分の名前を呼ぶ安楽の姿に、つい先ほど覚えた敗北感のようなものは消え去った。いやいや、よくよく考えれば、安楽からは実に分かりやすい好意を抱かれているではないか。もっとも、いざそのような関係になれるかと問われると、どうしても尻込みしてしまうが。小さい頃からお互いのことを知っており、また家族間での付き合いもあるというのは、なかなかに年頃の乙女からすると複雑である。それに――いや、ハリネズミのジレンマを引っ張り出すのはやめておこう。

「全く、だらしないったらありゃしないわ。酔い止め飲んできたの?」

 それでも、亜純に対するささやかな優越感と共に、安楽のそばにしゃがみ込む蘭。特に何ができるというわけでもないのだが。

「あぁ、もちろんだよ。だって、探偵物の探偵って、なんか高確率で船酔いするから――そうはなるまいって。フラグを立てまいって、ちゃんと酔い止めを飲んできたんだ」

 どうやら、その辺りのケアはしっかりしているようだ。その動機がやや不純のような気もしなくはないが。

「昨日はちゃんと寝たの? 寝不足も良くないっていうし」

 安楽は顔を上げ、しばらく考えたのちに呟いた。

「いや、それが眠れなかったんだよ。寝なきゃいけないとは思っていたんだけどね」

 おそらく――というかむしろ、その辺りが船酔いの原因なのであろう。もちろん、薬で予防することも大切だが、その日の体調も影響する。まぁ、蘭もまた寝不足ではあるのだが。

「それにしても、酔い止めが効かなすぎだろ。ちゃんと今朝、確認して買ったんだけどなぁ」

 安楽の言葉を聞いて妙に納得してしまう。なるほど、どうやら薬がまるで効かないと言い切ることもできないようだ。後で確認してやったほうがいいかもしれない。

「とりあえず後悔しても仕方ないし、もうじきに島につくでしょう。なんかお茶とかいる?」

 蘭の言葉に力なく頷いた安楽。蘭は客室に戻ろうと踵を返した。いつのまにか亜純は客室に戻っていたようだ。お茶のペットボトルを取り出すと、デッキに戻る。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

妻がヌードモデルになる日

矢木羽研
大衆娯楽
男性画家のヌードモデルになりたい。妻にそう切り出された夫の動揺と受容を書いてみました。

♡ちょっとエッチなアンソロジー〜アソコ編〜♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとエッチなショートショートつめあわせ♡

幽子さんの謎解きレポート~しんいち君と霊感少女幽子さんの実話を元にした本格心霊ミステリー~

しんいち
ミステリー
オカルトに魅了された主人公、しんいち君は、ある日、霊感を持つ少女「幽子」と出会う。彼女は不思議な力を持ち、様々な霊的な現象を感じ取ることができる。しんいち君は、幽子から依頼を受け、彼女の力を借りて数々のミステリアスな事件に挑むことになる。 彼らは、失われた魂の行方を追い、過去の悲劇に隠された真実を解き明かす旅に出る。幽子の霊感としんいち君の好奇心が交錯する中、彼らは次第に深い絆を築いていく。しかし、彼らの前には、恐ろしい霊や謎めいた存在が立ちはだかり、真実を知ることがどれほど危険であるかを思い知らされる。 果たして、しんいち君と幽子は、数々の試練を乗り越え、真実に辿り着くことができるのか?彼らの冒険は、オカルトの世界の奥深さと人間の心の闇を描き出す、ミステリアスな物語である。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

おじさん、女子高生になる

一宮 沙耶
大衆娯楽
だれからも振り向いてもらえないおじさん。 それが女子高生に向けて若返っていく。 そして政治闘争に巻き込まれていく。 その結末は?

♡ちょっとエッチなアンソロジー〜おっぱい編〜♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート詰め合わせ♡

処理中です...