94 / 95
エピローグ
3
しおりを挟む
亜紀が姿を消したのを確認すると、田之上は溜め息をつきながら紙袋へと手を伸ばした。随分と紙袋は大きく、買いすぎたなどというレベルではない。
「あっ、その包み紙――宝文堂のじゃない? もしかしてぇ、もしかしてぇ……」
宝文堂の包み紙を見るや否や、化粧を中断して雅が田之上のそばへとやって来る。そして、田之上が包み紙を開いた時、雅は歓喜のあまりか、声にならない声を上げてから、興奮気味に口を開いた。
「ほっ、宝文堂のバケツ焼きプリンだよ! たのぴー! 宝文堂のバケツ焼きプリン!」
火気厳禁と描かれた真っ赤なバケツの中には、これでもかと言わんばかりに焼きプリンが詰まっていた。焼きプリンを保護しているビニールシートをはがすと、独特な甘い香りが六課に立ち込める。
「分かったから落ち着けって。亜紀の奴、買いすぎたってことにしたいなら、もう少し違うチョイスにすれば良かったのによぉだろう――。とにかくお茶だ。雅、この前の麻薬密売店の現場で、こっそりくすねて来た最高級の玉露を用意しろ! 桂が来る前に俺達で全部食っちまうぞ!」
「う、うん! あれだもんね! 食べちゃえば証拠も残らないもんね!」
宝文堂のバケツ焼きプリンといえば、一日一食限定で、一部のマニアから圧倒的な支持を受けている銘菓である。店が予約を取らない方針であるため、手に入れるのは単純に早い者勝ち。しかも、開店してすぐに店頭に並ぶわけではなく、実に不規則な時間帯で店頭に出されるため、狙って手に入れることが非常に難しい。くわえて、お値段もそれ相応であり、存在は知っていても実物を見るのは、田之上もこれが初めてだった。
「……それ、僕にって話みたいだから、もうひとつお茶を追加してくれないかねぇ? というか、話が外まで筒抜けだよ」
幻のバケツ焼きプリンを、雅と山分けしようとしていた田之上。しかしながら、どうやら筒抜けだったようで、桂の声が耳にまとわりついてくる。それでいて、えらく呆れているかのような、溜め息混じりの声だ。
「ちょうど小腹が空いていたところです。それに、これは滅多にお目にかかれない銘菓だとか――。ご一緒させてもらってよろしいですか?」
それに加えて、やや鼻につくような声。渋々とそちらのほうに視線をやると桂と凡場がいた。
「今回の事件解決に大いに貢献した敏腕刑事様が、こんなところで油を売ってていいのかよ?」
「あっ、その包み紙――宝文堂のじゃない? もしかしてぇ、もしかしてぇ……」
宝文堂の包み紙を見るや否や、化粧を中断して雅が田之上のそばへとやって来る。そして、田之上が包み紙を開いた時、雅は歓喜のあまりか、声にならない声を上げてから、興奮気味に口を開いた。
「ほっ、宝文堂のバケツ焼きプリンだよ! たのぴー! 宝文堂のバケツ焼きプリン!」
火気厳禁と描かれた真っ赤なバケツの中には、これでもかと言わんばかりに焼きプリンが詰まっていた。焼きプリンを保護しているビニールシートをはがすと、独特な甘い香りが六課に立ち込める。
「分かったから落ち着けって。亜紀の奴、買いすぎたってことにしたいなら、もう少し違うチョイスにすれば良かったのによぉだろう――。とにかくお茶だ。雅、この前の麻薬密売店の現場で、こっそりくすねて来た最高級の玉露を用意しろ! 桂が来る前に俺達で全部食っちまうぞ!」
「う、うん! あれだもんね! 食べちゃえば証拠も残らないもんね!」
宝文堂のバケツ焼きプリンといえば、一日一食限定で、一部のマニアから圧倒的な支持を受けている銘菓である。店が予約を取らない方針であるため、手に入れるのは単純に早い者勝ち。しかも、開店してすぐに店頭に並ぶわけではなく、実に不規則な時間帯で店頭に出されるため、狙って手に入れることが非常に難しい。くわえて、お値段もそれ相応であり、存在は知っていても実物を見るのは、田之上もこれが初めてだった。
「……それ、僕にって話みたいだから、もうひとつお茶を追加してくれないかねぇ? というか、話が外まで筒抜けだよ」
幻のバケツ焼きプリンを、雅と山分けしようとしていた田之上。しかしながら、どうやら筒抜けだったようで、桂の声が耳にまとわりついてくる。それでいて、えらく呆れているかのような、溜め息混じりの声だ。
「ちょうど小腹が空いていたところです。それに、これは滅多にお目にかかれない銘菓だとか――。ご一緒させてもらってよろしいですか?」
それに加えて、やや鼻につくような声。渋々とそちらのほうに視線をやると桂と凡場がいた。
「今回の事件解決に大いに貢献した敏腕刑事様が、こんなところで油を売ってていいのかよ?」
0
お気に入りに追加
29
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
伏線回収の夏
影山姫子
ミステリー
ある年の夏。俺は15年ぶりにT県N市にある古い屋敷を訪れた。大学時代のクラスメイトだった岡滝利奈の招きだった。屋敷で不審な事件が頻発しているのだという。かつての同級生の事故死。密室から消えた犯人。アトリエにナイフで刻まれた無数のX。利奈はそのなぞを、ミステリー作家であるこの俺に推理してほしいというのだ。俺、利奈、桐山優也、十文字省吾、新山亜沙美、須藤真利亜の6人は大学時代、この屋敷でともに芸術の創作に打ち込んだ仲間だった。6人の中に犯人はいるのか? 脳裏によみがえる青春時代の熱気、裏切り、そして別れ。懐かしくも苦い思い出をたどりながら事件の真相に近づく俺に、衝撃のラストが待ち受けていた。
《あなたはすべての伏線を回収することができますか?》
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
『焼飯の金将社長射殺事件の黒幕を追え!~元女子プロレスラー新人記者「安稀世」のスクープ日誌VOL.4』
M‐赤井翼
ミステリー
赤井です。
「元女子プロレスラー新人記者「安稀世《あす・きよ》」のスクープ日誌」シリーズも4作目!
『焼飯の金将社長射殺事件の黒幕を追え!』を公開させていただきます。
昨年末の「予告」から時間がかかった分、しっかりと書き込ませていただきました。
「ん?「焼飯の金将」?」って思われた方は12年前の12月の某上場企業の社長射殺事件を思い出してください!
実行犯は2022年に逮捕されたものの、黒幕はいまだ謎の事件をモチーフに、舞台を大阪と某県に置き換え稀世ちゃんたちが謎解きに挑みます!
門真、箱根、横浜そして中国の大連へ!
「新人記者「安稀世」シリーズ」初の海外ロケ(笑)です。100年の歴史の壁を越えての社長射殺事件の謎解きによろしかったらお付き合いください。
もちろん、いつものメンバーが総出演です!
直さん、なつ&陽菜、太田、副島、森に加えて今回の準主役は「林凜《りん・りん》」ちゃんという中国からの留学生も登場です。
「大人の事情」で現実事件との「登場人物対象表」は出せませんので、想像力を働かせてお読みいただければ幸いです。
今作は「48チャプター」、「400ぺージ」を超える長編になりますので、ゆるーくお付き合いください!
公開後は一応、いつも通り毎朝6時の毎日更新の予定です!
それでは、月またぎになりますが、稀世ちゃんたちと一緒に謎解きの取材ツアーにご一緒ください!
よ~ろ~ひ~こ~!
(⋈◍>◡<◍)。✧💖
宮廷の九訳士と後宮の生華
狭間夕
キャラ文芸
宮廷の通訳士である英明(インミン)は、文字を扱う仕事をしていることから「暗号の解読」を頼まれることもある。ある日、後宮入りした若い妃に充てられてた手紙が謎の文字で書かれていたことから、これは恋文ではないかと噂になった。真相は単純で、兄が妹に充てただけの悪意のない内容だったが、これをきっかけに静月(ジンユェ)という若い妃のことを知る。通訳士と、後宮の妃。立場は違えど、後宮に生きる華として、二人は陰謀の渦に巻き込まれることになって――
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
【完結】Amnesia(アムネシア)~カフェ「時遊館」に現れた美しい青年は記憶を失っていた~
紫紺
ミステリー
郊外の人気カフェ、『時游館』のマスター航留は、ある日美しい青年と出会う。彼は自分が誰かも全て忘れてしまう記憶喪失を患っていた。
行きがかり上、面倒を見ることになったのが……。
※「Amnesia」は医学用語で、一般的には「記憶喪失」のことを指します。
独身寮のふるさとごはん まかないさんの美味しい献立
水縞しま
ライト文芸
旧題:独身寮のまかないさん ~おいしい故郷の味こしらえます~
第7回ライト文芸大賞【料理・グルメ賞】作品です。
◇◇◇◇
飛騨高山に本社を置く株式会社ワカミヤの独身寮『杉野館』。まかない担当として働く有村千影(ありむらちかげ)は、決まった予算の中で献立を考え、食材を調達し、調理してと日々奮闘していた。そんなある日、社員のひとりが失恋して落ち込んでしまう。食欲もないらしい。千影は彼の出身地、富山の郷土料理「ほたるいかの酢味噌和え」をこしらえて励まそうとする。
仕事に追われる社員には、熱々がおいしい「味噌煮込みうどん(愛知)」。
退職しようか思い悩む社員には、じんわりと出汁が沁みる「聖護院かぶと鯛の煮物(京都)」。
他にも飛騨高山の「赤かぶ漬け」「みだらしだんご」、大阪の「モダン焼き」など、故郷の味が盛りだくさん。
おいしい故郷の味に励まされたり、癒されたり、背中を押されたりするお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる