巣喰RAP【スクラップ】 ―日々の坂署捜査第六課―

鬼霧宗作

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エピローグ

【エピローグ】1

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 捜査一課を動員してまで実行された大捕物からしばらく。カップル連続猟奇殺人事件の犯人が逮捕されたことは、世に多大なる衝撃を与えた。犯人が事件の捜査に関わっていた刑事であったことがこぞって取り上げられたが、世間は事件の解決を待ち望んでいたのか不思議と警察に対する批判は少なかったようだ。

 週刊誌やテレビ、マスコミ各社が様々な記事やニュースを垂れ流し、余計な憶測や主観の混じった見解が、世間を飛び交う。けれども、それらの見解のどれにも、やはり六課というワードは出てこなかった。

「結局、手柄は捜査一課が全部横取り。俺達の活躍は闇の中か……。まぁ、ようやく昼寝ができる環境が戻って来ただけでもありがたいけどよ」

 ソファーの上に寝転がって週刊誌を広げていた田之上は、ため息混じりに呟いた。

「そうそう、やっぱり私達にはこれがお似合いだよねぇ」

 デスクに座って化粧道具を広げていた雅が、歌混じりに口を開く。

 あの後、堀口はなんの抵抗もせず大人しく逮捕された。まるで大人に悪戯を咎められた子どものように、少しばかり恥ずかしそうな笑みを浮かべていたのが印象的だった。何人もの人を殺害した凶悪犯だから、多少の抵抗はあるものだとばかり思っていたから、なんだか拍子抜けした。案外、凶悪なのは自分より弱者に対してのみであり、敵わないと思った相手には逆らおうとしないのかもしれない。

「ちなみによ、堀口のやつがなんであんなことをしたのか――話を聞いたか?」

 もちろん、堀口が使っていたデスクも空であり、置き場に困った田之上と雅の始末書が積み上げられていた。

「聞いてないなぁ。あんまり興味ないし」

 ビューラーを片手に鏡と睨めっこをする雅に対して、珍しく田之上は「ちょっとは仕事に興味を持てよ」と、らしくないことを口にする。自分でも驚くべく発言に、田之上は誤魔化すかのように続けた。

「幸せそうにしているカップルや夫婦が許せなかったんだとさ――。刑事という社会的立場にある自分には、ろくな女が寄って来ない。しかし、自分よりも格下の人間は、いい女と結婚している。もとより、マザコン体質だったみたいでな。なんでも母親と比べてしまうせいで普通の恋愛ができなかったらしい」

 堀口は現在、捜査一課からの取り調べを受けていることだろう。時折、支離滅裂なことを言い出すらしく、精神鑑定も視野に入れられているようだ。もっとも、責任能力はあると考えられており、実刑は免れないらしいのだが。
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