巣喰RAP【スクラップ】 ―日々の坂署捜査第六課―

鬼霧宗作

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はがれた化けの皮

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「悪くねぇやり方だな。堀口が事件に執着していたのは、恐らく事件の発覚を恐れていたからだ。それは今でも変わらないだろうし、桂が事件に関与する仕事をすると言い出せば、自ら望んで徹夜でもなんでもするだろう。いわゆる、横領なんかをやるやつと同等の心理状態だな。となると、堀口を休ませる時は、表向きだけでも六課揃って休みということにしたほうがいいな。そのほうが警戒されない」

 横領の心理――それは田之上がかつて誰かから聞いた話だった。

 仕事熱心で周囲からの信頼も厚く、実に真面目な仕事人間。そんな人間が、実は横領をしていたなんていうのはザラにある話である。しかし、これは真面目で仕事熱心な人間が横領をするというわけではない。横領をしたからこそ、はたから見れば仕事熱心に見えるような態度をとってしまうだけの話なのだ。

 まず、自分が休暇の際に不正が発覚することを恐れ、仕事を休みたがらなくなる。今日のように堀口一人が残る分には、むしろ喜んで残ろうとする。周りから見れば、休暇さえとらずに仕事に打ち込む人間に見えるが、その実情は横領の発覚を恐れているだけだったりする。

 同様の理由で、他者が本来やらなければならないような仕事でも、進んで受けたがるようになる。これも、他人の仕事までこなしてくれる真面目な人間という印象を与えるだろうが、横領をひた隠しにしたい一心でとるような行動だ。その横領の心理と、堀口の事件に対する執念は、もしかして同じところから来ているのではないか。

 事件の発覚を恐れるがあまり、堀口は事件から離れられなくなった。一時は六課に異動となり、捜査を外されたわけであるが、今思い返すと随分と焦っていたに違いない。事件を外されてしまえば、捜査がどのように進展しているのかが把握できなくなる。それすなわち、これまでと同じように犯行を重ねることができなくなることを意味する。そして、いつ自分に容疑がかけられるのかさえ分からなくなってしまう。だからこそ、六課で事件の捜査を行うことになった時、彼は異様なほど食いついたのである。

 はたから見れば、事件を一心に追いかける優秀な刑事に見えるが、その実情は捜査がどこまで進んでいるのか把握するためであり、また犯行を積み重ねるためだったのかもしれない。

「確かに、田之上の言った通りにしたほうが、彼の動きやすい環境作りをするには適しているのかもしれないね」
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