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はがれた化けの皮
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【2】
突然訪ねてきた刑事は、自らの名を改めて凡場と名乗った。例のカップル連続猟奇殺人事件に関して、いくつか確認したいことがあって訪ねてきたそうだ。一度、愛子のところに注意喚起して回ってきてくれたこともあり、顔と名前は記憶に残っていた。
別に疑いもしていないのに、わざわざ警察手帳も見せてもらい、所属している部署がはっきりとしたところで、仕事から帰ってきた旦那に家を任せて凡場の同行に応じた。
口で説明することもできるが、息子の部屋を見せてもらったほうが早いだろうとのことで、パトカーの助手席に座ることとなり、そして現在にいたる。
「あの、息子の部屋に何の用があるんですか? 何か用があるのなら直接息子のほうにおっしゃってもらったほうがいいんじゃないですか?」
部署の配置換えがあったおかげで、息子は日々の坂署に在籍しているはず。わざわざ愛子を介さなくとも、部屋のひとつやふたつくらい見せてもらえると思うのであるが。
それに、そもそもカップル連続猟奇殺人と息子がどのように結びつくのかが分からない。愛子は我が子が眠る腹をさすると、小さく溜め息をひとつ。長男を産んだのが18歳の時であり、現在の長男の年齢が26歳である。まさか44歳にして新たな命を授かることになるとは思わなかった。俗に言う高齢出産になるだろうが、このご時世あまり珍しくないから不思議だ。
「それが、直接本人に部屋を見せてもらうわけにはいかない理由がありまして……。ご足労をかけて申し訳ありませんが、少しばかりお付き合い下さい」
ハンドルを握る凡場は、なんとなく言葉を選びながら喋っているように感じられた。
「――堀口さん。念のために確認させてください。現在、日々の坂署に勤務している堀口誠は、堀口さんのご子息ということで間違いないですね?」
凡場の問いに頷くと、立て続けに次の質問が飛んでくる。
「これも念のために確認ですが、息子さんに配偶者はいませんよね? つまり、独身ですよね?」
なぜそんなことを聞いてくるのだろうか。疑問に思いながらも「はい」と返事をすると、少し間を置いてから凡場が改めて口を開く。
「独身の刑事は原則的に独身寮に入る――昔はそれが習わしだったんですが、今は時代も変わりましてね。調べたところ、息子さんはアパートを借りて一人暮らしをされていますね?」
凡場の聞き方のせいなのか、なぜか自分が責められているような気になってしまうから不思議だ。
「はい、警察署に配属された当時は実家から通っていまして。なんでも、距離が近ければ実家からの通勤も可能だということだったらしくて。でも、しばらくしてから同じくらいの距離にアパートを借りて一人暮らしを始めたんです。独身寮もあるけど、今まで実家通いだったのに、今さらみたいな感じがする――とのことで、独身寮には入らなかったみたいです」
突然訪ねてきた刑事は、自らの名を改めて凡場と名乗った。例のカップル連続猟奇殺人事件に関して、いくつか確認したいことがあって訪ねてきたそうだ。一度、愛子のところに注意喚起して回ってきてくれたこともあり、顔と名前は記憶に残っていた。
別に疑いもしていないのに、わざわざ警察手帳も見せてもらい、所属している部署がはっきりとしたところで、仕事から帰ってきた旦那に家を任せて凡場の同行に応じた。
口で説明することもできるが、息子の部屋を見せてもらったほうが早いだろうとのことで、パトカーの助手席に座ることとなり、そして現在にいたる。
「あの、息子の部屋に何の用があるんですか? 何か用があるのなら直接息子のほうにおっしゃってもらったほうがいいんじゃないですか?」
部署の配置換えがあったおかげで、息子は日々の坂署に在籍しているはず。わざわざ愛子を介さなくとも、部屋のひとつやふたつくらい見せてもらえると思うのであるが。
それに、そもそもカップル連続猟奇殺人と息子がどのように結びつくのかが分からない。愛子は我が子が眠る腹をさすると、小さく溜め息をひとつ。長男を産んだのが18歳の時であり、現在の長男の年齢が26歳である。まさか44歳にして新たな命を授かることになるとは思わなかった。俗に言う高齢出産になるだろうが、このご時世あまり珍しくないから不思議だ。
「それが、直接本人に部屋を見せてもらうわけにはいかない理由がありまして……。ご足労をかけて申し訳ありませんが、少しばかりお付き合い下さい」
ハンドルを握る凡場は、なんとなく言葉を選びながら喋っているように感じられた。
「――堀口さん。念のために確認させてください。現在、日々の坂署に勤務している堀口誠は、堀口さんのご子息ということで間違いないですね?」
凡場の問いに頷くと、立て続けに次の質問が飛んでくる。
「これも念のために確認ですが、息子さんに配偶者はいませんよね? つまり、独身ですよね?」
なぜそんなことを聞いてくるのだろうか。疑問に思いながらも「はい」と返事をすると、少し間を置いてから凡場が改めて口を開く。
「独身の刑事は原則的に独身寮に入る――昔はそれが習わしだったんですが、今は時代も変わりましてね。調べたところ、息子さんはアパートを借りて一人暮らしをされていますね?」
凡場の聞き方のせいなのか、なぜか自分が責められているような気になってしまうから不思議だ。
「はい、警察署に配属された当時は実家から通っていまして。なんでも、距離が近ければ実家からの通勤も可能だということだったらしくて。でも、しばらくしてから同じくらいの距離にアパートを借りて一人暮らしを始めたんです。独身寮もあるけど、今まで実家通いだったのに、今さらみたいな感じがする――とのことで、独身寮には入らなかったみたいです」
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