巣喰RAP【スクラップ】 ―日々の坂署捜査第六課―

鬼霧宗作

文字の大きさ
上 下
69 / 95
迫る毒牙

7

しおりを挟む
「ちぃーす」

 六課へと入ると、そこにはすでに桂の姿があった。

「やぁ、おはよう。田之上」

 コーヒーメーカーからカップにコーヒーを注ぎつつ口を開く桂。何時間もかけて淹れられたコーヒーは、さぞ凝縮されていることであろう。

「お前、昨日は帰るとばかり思ったにドMか? 何連泊目だよ」

 田之上はそう言うと、長ソファーに腰をかけて煙草に火を点ける。一度家に帰って眠るのと、ここで寝て起きるのとでは、やはり大きな違いがある。家で寝たほうが、疲れが取れたような気がするから不思議だ。

「帰ろうとは思ったんだけどねぇ。また新しい犠牲者が出てしまったし、進藤警部の推測も間違っていたわけで。一刻も早く事件を解決しなければ、犠牲者が増える一方だと思ってさぁ」

 随分と濃いであろうコーヒーを飲み干すと、冷蔵庫から栄養ドリンクを取り出す桂。彼がアルコールを口にしない光景というのは、実のところかなりレアだった。

 昨日は早くに……といっても日付は変わっていたものの、家に帰ることが出来た田之上。雅や堀口も一時的に帰宅したわけだが、桂だけは徹夜をしていたようだ。

「でも、ようやくリストアップ作業が終わったよ。これも、田之上達のお力添えがあったからだ。後は片っ端から事件当日のアリバイを洗えばいい」

 恐らく眠いのであろう。欠伸を必死に噛み殺しながら、桂は辞典ほどの厚みがある資料をデスクの上で整えた。

「まさか、警察関係の独身者一人ずつに、事件当時のアリバイを聞いて回るつもりかよ? そんなことしてたら、何年かかるか分からねぇぞ。あれだ桂。ひと段落したんなら寝ろ。な? お前、しばらく寝てないから変なテンションになってんだよ」

 堪ったものではない。本当に堪ったものではない。ここ数日、朝から晩までリストアップ作業にあたり、それがようやく終わったと思ったら、今度はリストアップした人間に事件当時のアリバイを聞いて回ろうというのだ。桂はナチュラルハイというやつにでもなっているのだろうか。

「時間はかかるかもしれないけど、これくらいしか犯人を絞り込む材料が無いんだよ。地道に聞き込みをして、犯人らしき人物を絞っていくしかないんだ。ちなみに、僕は正気だよ。ちょっとだけ眠いけどね」

 田之上はくわえた煙草を、思わず床に落としてしまいそうになった。正気で言っているのであればドMなんてものじゃない。

「そんなの、捜査員を総動員して取り組む仕事じゃねぇか。俺達だけでやれる仕事じゃねぇよ」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

カフェ・シュガーパインの事件簿

山いい奈
ミステリー
大阪長居の住宅街に佇むカフェ・シュガーパイン。 個性豊かな兄姉弟が営むこのカフェには穏やかな時間が流れる。 だが兄姉弟それぞれの持ち前の好奇心やちょっとした特殊能力が、巻き込まれる事件を解決に導くのだった。

独身寮のふるさとごはん まかないさんの美味しい献立

水縞しま
ライト文芸
旧題:独身寮のまかないさん ~おいしい故郷の味こしらえます~ 第7回ライト文芸大賞【料理・グルメ賞】作品です。 ◇◇◇◇ 飛騨高山に本社を置く株式会社ワカミヤの独身寮『杉野館』。まかない担当として働く有村千影(ありむらちかげ)は、決まった予算の中で献立を考え、食材を調達し、調理してと日々奮闘していた。そんなある日、社員のひとりが失恋して落ち込んでしまう。食欲もないらしい。千影は彼の出身地、富山の郷土料理「ほたるいかの酢味噌和え」をこしらえて励まそうとする。 仕事に追われる社員には、熱々がおいしい「味噌煮込みうどん(愛知)」。 退職しようか思い悩む社員には、じんわりと出汁が沁みる「聖護院かぶと鯛の煮物(京都)」。 他にも飛騨高山の「赤かぶ漬け」「みだらしだんご」、大阪の「モダン焼き」など、故郷の味が盛りだくさん。 おいしい故郷の味に励まされたり、癒されたり、背中を押されたりするお話です。 

包んで、重ねて ~歳の差夫婦の極甘新婚生活~

吉沢 月見
恋愛
ひたすら妻を溺愛する夫は50歳の仕事人間の服飾デザイナー、新妻は23歳元モデル。 結婚をして、毎日一緒にいるから、君を愛して君に愛されることが本当に嬉しい。 何もできない妻に料理を教え、君からは愛を教わる。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

横断歩道の先は異世界でした

金柑乃実
ミステリー
横断歩道を渡る高校生たち。 その横断歩道は異世界へ通じる魔法の扉。 1人目 横田タクミ 2人目 高尾明日香 3人目 室井斗真 3人の高校生たちは、この世界で何をするのか。 そして、この世界が隠した秘密とは。 そこは異世界か、はたまた現実か。 壮大なミステリーが、今はじまる。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

後宮なりきり夫婦録

石田空
キャラ文芸
「月鈴、ちょっと嫁に来るか?」 「はあ……?」 雲仙国では、皇帝が三代続いて謎の昏睡状態に陥る事態が続いていた。 あまりにも不可解なために、新しい皇帝を立てる訳にもいかない国は、急遽皇帝の「影武者」として跡継ぎ騒動を防ぐために寺院に入れられていた皇子の空燕を呼び戻すことに決める。 空燕の国の声に応える条件は、同じく寺院で方士修行をしていた方士の月鈴を妃として後宮に入れること。 かくしてふたりは片や皇帝の影武者として、片や皇帝の偽りの愛妃として、後宮と言う名の魔窟に潜入捜査をすることとなった。 影武者夫婦は、後宮内で起こる事件の謎を解けるのか。そしてふたりの想いの行方はいったい。 サイトより転載になります。

処理中です...