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迫る毒牙
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しおりを挟む ただし、それが正式なカップルや夫婦でなければ、これまでは襲う気にはなれなかった。ただ、例のホテルで殺した女が、逃してしまった男と行きずりの関係であることは知っていた。知ってはいたが、警察を混乱させるために、あえて二人を襲ったのは、それなりの計算があったからだ。
――それにしても、今回の女の子宮はまずかった。パンに挟んでマヨネーズをかけてみたり、ソースをかけてみたり、挙げ句の果てにはフライパンで軽くソテーにして、改めてパンに挟んでみたが、どうにも美味くはならなかった。料理には愛情という隠し味があるらしいが、もしかすると子宮にも愛情というものが必要なのではないのだろうか。その女を愛する男から注がれる愛情が、子宮に蓄積され、それがある意味での旨みとなって表面化しているのではないか。
なんにせよ、あの男が警察にさえ通報しなければ、建物の陰に隠れて男が出てくるのを待っているつもりだった。捜査のかく乱を狙った犯行であっても、二人とも殺すというルールは、可能な限り守りたかった。
これまで完璧にやってきたのに、ここにきて大きなルール違反を犯してしまったわけだ。これでは見せしめにならない。雄と雌をセットにすることで、猿どもの愚行に警鐘を鳴らそうというのに、ただの殺人鬼と変わらないではないか。
もう一度やり直さねば。世の中のために。世を正常化するために。
きっと、捜査に携わっている連中も笑っているに違いない。ここまで同一のルールを徹底してきたというのに、少しばかり警察にしり込みして逃げ出したと思われているに違いない。そう、陰で笑っているに違いないのだ。
威厳を取り戻さねばならないし、一度失敗したからといって逃げ出すようなことはしない。なぜなら、世の中は猿であふれているから。腰を振ることと、股を開くことばかりに必死な猿ばかり。ろくに子どもは育てられないのに、生殖行為の真似事には真剣な猿ばかり。
「リア……充は爆発しろ。爆発しろ。爆発しろ。爆発しろ」
下書きをしたままの白いプレート。その下書きに沿って彫刻刀を入れる。いつもの力加減で、特定の部分には定規をあて、これまでと全く同じものを作り上げてゆく。そこには世間に対する鬱憤を込めつつ、世のカップルや夫婦に対する恨みを込めつつ。
ひっそりと静まった闇に閉ざされた空間の中、プレートを削る音と、その呟きは延々と繰り返されるのであった。
――それにしても、今回の女の子宮はまずかった。パンに挟んでマヨネーズをかけてみたり、ソースをかけてみたり、挙げ句の果てにはフライパンで軽くソテーにして、改めてパンに挟んでみたが、どうにも美味くはならなかった。料理には愛情という隠し味があるらしいが、もしかすると子宮にも愛情というものが必要なのではないのだろうか。その女を愛する男から注がれる愛情が、子宮に蓄積され、それがある意味での旨みとなって表面化しているのではないか。
なんにせよ、あの男が警察にさえ通報しなければ、建物の陰に隠れて男が出てくるのを待っているつもりだった。捜査のかく乱を狙った犯行であっても、二人とも殺すというルールは、可能な限り守りたかった。
これまで完璧にやってきたのに、ここにきて大きなルール違反を犯してしまったわけだ。これでは見せしめにならない。雄と雌をセットにすることで、猿どもの愚行に警鐘を鳴らそうというのに、ただの殺人鬼と変わらないではないか。
もう一度やり直さねば。世の中のために。世を正常化するために。
きっと、捜査に携わっている連中も笑っているに違いない。ここまで同一のルールを徹底してきたというのに、少しばかり警察にしり込みして逃げ出したと思われているに違いない。そう、陰で笑っているに違いないのだ。
威厳を取り戻さねばならないし、一度失敗したからといって逃げ出すようなことはしない。なぜなら、世の中は猿であふれているから。腰を振ることと、股を開くことばかりに必死な猿ばかり。ろくに子どもは育てられないのに、生殖行為の真似事には真剣な猿ばかり。
「リア……充は爆発しろ。爆発しろ。爆発しろ。爆発しろ」
下書きをしたままの白いプレート。その下書きに沿って彫刻刀を入れる。いつもの力加減で、特定の部分には定規をあて、これまでと全く同じものを作り上げてゆく。そこには世間に対する鬱憤を込めつつ、世のカップルや夫婦に対する恨みを込めつつ。
ひっそりと静まった闇に閉ざされた空間の中、プレートを削る音と、その呟きは延々と繰り返されるのであった。
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