巣喰RAP【スクラップ】 ―日々の坂署捜査第六課―

鬼霧宗作

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すれ違う狂気

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 意図さえも知らされずにホテルへと入り、特に何をするでもなく尾崎の連絡を待つだけだった雅は、小さく溜め息を漏らしながら返す。

「聞こえる訳ないよ……。だって、ここラブホだよぉ? しかも、窓は嵌め殺しだし、外の音なんて聞こえないと思う」

 雅の言葉に桂はさらに確信を得たかのように続ける。

「ラブホとなれば防音には気を遣っているだろうねぇ。なんせ、ここでやることは誰だって同じだ。まさかご休憩で本当にご休憩するカップルなんて絶対にいない。外の音が中から聞こえないのと同様に、まず中の音が外に漏れるなんてことはない。そんなホテルじゃ安心してセックスなんてできないだろぅ?」

「……それはそれであり」

 雅から返ってきた答えに、桂が呆れたかのように溜め息を漏らす。

「天野の性癖はさておいて――。さっき田之上が天野に電話した時、天野の喋る声は俺達には聞こえなかった。これは実際に試してみたから分かるよね? そして、これが何を意味していると思う?」

 桂はそう言って堀口達の顔を見回す。まるで意地の悪いなぞなぞを出す子供であるかのように……。

「そうか――。どうして犯人は現場から逃走することができたのかってことか」

 それに答えたのは田之上であり、桂は満足そうに頷くとホテルのほうに視線を移す。

「その通り。今回の犯人は男女を同時に殺害するという殺人ルールを掲げ、これまでかたくなにそれを守り続けてきた。でも、この現場で殺害されたのは女性のほうだけ。じゃあ、ここで単純な疑問をひとつ。どうして犯人はルールを破ってまで現場を立ち去ったんだろう?」

「それは、中畑が部屋の中に逃げ込んで鍵をかけてしまったからじゃないのぉ?」

 楽しそうな様子の桂とは、さすがの天野もほんの少しだけ距離を置いているようだった。オンとオフの差が激しいというか、六課の中でまともに見える分、どうにも事件を楽しんでいるような様子に狂気を感じるのであろう。

「いいや、これまで異常な犯行を重ねてきた犯人が、たかが鍵をかけられたくらいで諦めるとは思えないねぇ。鍵を壊すとか、もしくは中畑が出てくるまで部屋の前で待つか……。それくらいのことはして当たり前だと思うよ。むしろ、サイコな奴なら、その間の時間さえ楽しんだろうさ」

 雅の答えを切り捨てた桂に、今度は堀口が言葉を投げかけてみることにした。おっかなびっくりで、手探りではあるが。

「中畑が警察に通報したから――ではないでしょうか? 警察が来ることを知って、犯人は現場を逃走しなければならなくなったとか」

「部屋の中の音は外に聞こえないのに、どうして犯人は中畑が警察に通報したと分かったんだい?」
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