巣喰RAP【スクラップ】 ―日々の坂署捜査第六課―

鬼霧宗作

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明け方のラブホテルにて

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 カップル連続猟奇殺人事件が始まってから数ヶ月。いまだに進展を見せない捜査に苛立ちや不安を抱いているのは、警察関係者だけではない。もちろん、被害者遺族だけでもない。この近辺に住む市民全てが、カップル連続猟奇殺人事件に怯えながら暮らしているのだ。そして、それらの抑圧された感情はどこにぶつけられるかと言えば、犯人に対してではなく警察に対してである。警察だって怠けているわけではないが、内情を知らぬ一般市民からすれば、犯人の尻尾すら掴めないでいる警察は非難の対象にすぎない。このまま犠牲者が増え続ければ、さらに警察の信用は失墜することであろう。

 恐らく進藤警部は、無理に事件の進展を見せようとしている。これが彼女なりのパフォーマンスなのであろう。

 重要参考人とは、あくまでも事件の深く関与している者、もしくは重要な情報を知っている者を指し、決して容疑者とイコールではない。任意同行を求めることは可能だが、それは任意であって強制力はないのだ。よって、取り調べの過程で容疑者の疑いが晴れれば釈放となるし、逆に容疑が固まれば容疑者という名称に変わる。すなわち、彼女は中畑を重要参考人として引っ張ることによって、捜査が進展していることを市民にアピールしようと考えていると思われる。

 それなりに論拠があるからこそ、中畑に任意同行を求めるのであろうが、やめておいたほうが賢明であると堀口は思った。冤罪は余計に警察の信用を失墜させる。それとも、進藤警部は中畑を疑うべき材料を持っているのだろうか。なんにせよ、重要参考人として任意同行を求めるのであれば、それなりのリスクも伴うはずである。

「まさかパフォーマンスとして中畑を引っ張るつもりではないでしょうねぇ? 確かに、事件に進展が見られれば市民の不安も解消されるかもしれません。しかし、もしも中畑が犯人ではなかったら市民をぬか喜びさせるだけになる。それとも警察特有の隠蔽体質で、そのまま中畑を犯人に仕立て上げるつもりなのでしょうか? そうだとすれば、さすがに軽蔑するねぇ」

 警察としてのジレンマ。桂の漏らした言葉は、進藤警部の胸にどう届いたのであろうか。キャリアとして、常に責任を負わねばならない立場に、果たして何を考えているのだろうか。

 このまま捜査に進展が見られなければ、警察の信用は墜ちていくばかり。大型のネット掲示板やマスコミは、さも警察が無能であるかのように騒ぎ立てることであろう。しかし、中畑を重要参考人として引っ張れば、少なくとも捜査の進展をアピールすることができる。加えて重要参考人という立場ならば、中畑が犯人でなくとも冤罪という扱いにはならない。厳密にはニュアンスが異なるのだが、重要参考人に留めておけば、いざとなった時にいくらでも言い訳ができてしまうのだ。
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