45 / 95
明け方のラブホテルにて
26
しおりを挟む
カップル連続猟奇殺人事件が始まってから数ヶ月。いまだに進展を見せない捜査に苛立ちや不安を抱いているのは、警察関係者だけではない。もちろん、被害者遺族だけでもない。この近辺に住む市民全てが、カップル連続猟奇殺人事件に怯えながら暮らしているのだ。そして、それらの抑圧された感情はどこにぶつけられるかと言えば、犯人に対してではなく警察に対してである。警察だって怠けているわけではないが、内情を知らぬ一般市民からすれば、犯人の尻尾すら掴めないでいる警察は非難の対象にすぎない。このまま犠牲者が増え続ければ、さらに警察の信用は失墜することであろう。
恐らく進藤警部は、無理に事件の進展を見せようとしている。これが彼女なりのパフォーマンスなのであろう。
重要参考人とは、あくまでも事件の深く関与している者、もしくは重要な情報を知っている者を指し、決して容疑者とイコールではない。任意同行を求めることは可能だが、それは任意であって強制力はないのだ。よって、取り調べの過程で容疑者の疑いが晴れれば釈放となるし、逆に容疑が固まれば容疑者という名称に変わる。すなわち、彼女は中畑を重要参考人として引っ張ることによって、捜査が進展していることを市民にアピールしようと考えていると思われる。
それなりに論拠があるからこそ、中畑に任意同行を求めるのであろうが、やめておいたほうが賢明であると堀口は思った。冤罪は余計に警察の信用を失墜させる。それとも、進藤警部は中畑を疑うべき材料を持っているのだろうか。なんにせよ、重要参考人として任意同行を求めるのであれば、それなりのリスクも伴うはずである。
「まさかパフォーマンスとして中畑を引っ張るつもりではないでしょうねぇ? 確かに、事件に進展が見られれば市民の不安も解消されるかもしれません。しかし、もしも中畑が犯人ではなかったら市民をぬか喜びさせるだけになる。それとも警察特有の隠蔽体質で、そのまま中畑を犯人に仕立て上げるつもりなのでしょうか? そうだとすれば、さすがに軽蔑するねぇ」
警察としてのジレンマ。桂の漏らした言葉は、進藤警部の胸にどう届いたのであろうか。キャリアとして、常に責任を負わねばならない立場に、果たして何を考えているのだろうか。
このまま捜査に進展が見られなければ、警察の信用は墜ちていくばかり。大型のネット掲示板やマスコミは、さも警察が無能であるかのように騒ぎ立てることであろう。しかし、中畑を重要参考人として引っ張れば、少なくとも捜査の進展をアピールすることができる。加えて重要参考人という立場ならば、中畑が犯人でなくとも冤罪という扱いにはならない。厳密にはニュアンスが異なるのだが、重要参考人に留めておけば、いざとなった時にいくらでも言い訳ができてしまうのだ。
恐らく進藤警部は、無理に事件の進展を見せようとしている。これが彼女なりのパフォーマンスなのであろう。
重要参考人とは、あくまでも事件の深く関与している者、もしくは重要な情報を知っている者を指し、決して容疑者とイコールではない。任意同行を求めることは可能だが、それは任意であって強制力はないのだ。よって、取り調べの過程で容疑者の疑いが晴れれば釈放となるし、逆に容疑が固まれば容疑者という名称に変わる。すなわち、彼女は中畑を重要参考人として引っ張ることによって、捜査が進展していることを市民にアピールしようと考えていると思われる。
それなりに論拠があるからこそ、中畑に任意同行を求めるのであろうが、やめておいたほうが賢明であると堀口は思った。冤罪は余計に警察の信用を失墜させる。それとも、進藤警部は中畑を疑うべき材料を持っているのだろうか。なんにせよ、重要参考人として任意同行を求めるのであれば、それなりのリスクも伴うはずである。
「まさかパフォーマンスとして中畑を引っ張るつもりではないでしょうねぇ? 確かに、事件に進展が見られれば市民の不安も解消されるかもしれません。しかし、もしも中畑が犯人ではなかったら市民をぬか喜びさせるだけになる。それとも警察特有の隠蔽体質で、そのまま中畑を犯人に仕立て上げるつもりなのでしょうか? そうだとすれば、さすがに軽蔑するねぇ」
警察としてのジレンマ。桂の漏らした言葉は、進藤警部の胸にどう届いたのであろうか。キャリアとして、常に責任を負わねばならない立場に、果たして何を考えているのだろうか。
このまま捜査に進展が見られなければ、警察の信用は墜ちていくばかり。大型のネット掲示板やマスコミは、さも警察が無能であるかのように騒ぎ立てることであろう。しかし、中畑を重要参考人として引っ張れば、少なくとも捜査の進展をアピールすることができる。加えて重要参考人という立場ならば、中畑が犯人でなくとも冤罪という扱いにはならない。厳密にはニュアンスが異なるのだが、重要参考人に留めておけば、いざとなった時にいくらでも言い訳ができてしまうのだ。
0
お気に入りに追加
29
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
後宮なりきり夫婦録
石田空
キャラ文芸
「月鈴、ちょっと嫁に来るか?」
「はあ……?」
雲仙国では、皇帝が三代続いて謎の昏睡状態に陥る事態が続いていた。
あまりにも不可解なために、新しい皇帝を立てる訳にもいかない国は、急遽皇帝の「影武者」として跡継ぎ騒動を防ぐために寺院に入れられていた皇子の空燕を呼び戻すことに決める。
空燕の国の声に応える条件は、同じく寺院で方士修行をしていた方士の月鈴を妃として後宮に入れること。
かくしてふたりは片や皇帝の影武者として、片や皇帝の偽りの愛妃として、後宮と言う名の魔窟に潜入捜査をすることとなった。
影武者夫婦は、後宮内で起こる事件の謎を解けるのか。そしてふたりの想いの行方はいったい。
サイトより転載になります。
【完結】Amnesia(アムネシア)~カフェ「時遊館」に現れた美しい青年は記憶を失っていた~
紫紺
ミステリー
郊外の人気カフェ、『時游館』のマスター航留は、ある日美しい青年と出会う。彼は自分が誰かも全て忘れてしまう記憶喪失を患っていた。
行きがかり上、面倒を見ることになったのが……。
※「Amnesia」は医学用語で、一般的には「記憶喪失」のことを指します。
独身寮のふるさとごはん まかないさんの美味しい献立
水縞しま
ライト文芸
旧題:独身寮のまかないさん ~おいしい故郷の味こしらえます~
第7回ライト文芸大賞【料理・グルメ賞】作品です。
◇◇◇◇
飛騨高山に本社を置く株式会社ワカミヤの独身寮『杉野館』。まかない担当として働く有村千影(ありむらちかげ)は、決まった予算の中で献立を考え、食材を調達し、調理してと日々奮闘していた。そんなある日、社員のひとりが失恋して落ち込んでしまう。食欲もないらしい。千影は彼の出身地、富山の郷土料理「ほたるいかの酢味噌和え」をこしらえて励まそうとする。
仕事に追われる社員には、熱々がおいしい「味噌煮込みうどん(愛知)」。
退職しようか思い悩む社員には、じんわりと出汁が沁みる「聖護院かぶと鯛の煮物(京都)」。
他にも飛騨高山の「赤かぶ漬け」「みだらしだんご」、大阪の「モダン焼き」など、故郷の味が盛りだくさん。
おいしい故郷の味に励まされたり、癒されたり、背中を押されたりするお話です。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
伏線回収の夏
影山姫子
ミステリー
ある年の夏。俺は15年ぶりにT県N市にある古い屋敷を訪れた。大学時代のクラスメイトだった岡滝利奈の招きだった。屋敷で不審な事件が頻発しているのだという。かつての同級生の事故死。密室から消えた犯人。アトリエにナイフで刻まれた無数のX。利奈はそのなぞを、ミステリー作家であるこの俺に推理してほしいというのだ。俺、利奈、桐山優也、十文字省吾、新山亜沙美、須藤真利亜の6人は大学時代、この屋敷でともに芸術の創作に打ち込んだ仲間だった。6人の中に犯人はいるのか? 脳裏によみがえる青春時代の熱気、裏切り、そして別れ。懐かしくも苦い思い出をたどりながら事件の真相に近づく俺に、衝撃のラストが待ち受けていた。
《あなたはすべての伏線を回収することができますか?》
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる